くぅっ、と唸ったきり、五ェ門は顔を伏せってしまった。長い髪がサラサラと顔の周りに落ちてすっかり覆ってしまう。 私は拳を握って座っている五ェ門の前に跪いて、拳にそっと手を乗せる。固く握った手が一瞬びくりと反応を示したが、顔が上がることはなかった。 宥めすかすようにゆっくりと拳を撫でる。撫でるに従って私よりも大きな手から力が徐々に抜けていく。弛んだ指の隙間にするりと指を差し込んで絡ませる。五ェ門はそれに少し力を込めて握り返した。 なるべく安心を誘う声色を意識した。次は言葉だ。ごてごてと装飾した言葉はいらない。ただ一言でいい。 「大丈夫」 俯いたままフルフルと首を振った五ェ門は私の手を強く握り返した。 世話の焼ける男だと、つくづく思う。それでも放っておけないのは、私が私で、五ェ門が五ェ門だからだろう。つまり、惚れた弱味だ。 微笑ましくすら思えてきた。一度五ェ門の拳から手を離して、垂れる髪に手を伸ばす。両手で優しく掻き分けて顔を近付ける。こつん、とおでこをぶつけて静かに目を閉じる。 「大丈夫だよ、五ェ門」 頬を包んで少しだけ顔を上向かせる。目が、不甲斐なさに揺れていた。私はそれに微笑みで返す。 目にかかる前髪をすきながら退かして、現れた額に唇を押し付ける。珍しく驚きも抵抗もしない。今回はそれほどに落ち込んでいるんだろう。抵抗されないのを良いことに、瞼、眉間、こめかみ、耳朶、頬、鼻筋、鼻先、顎、あらゆる箇所に唇だけ外して口付けを落とす。それでも五ェ門は無抵抗のままだ。 「五ェ門」 「……止せ」 久し振りに喋ったと思ったら、その声はあまりにも弱々しかった。聞いているこちらが気の毒になるほど。 「……止してくれ、某は…っ」 吐き出されるだろう弱音が目に見えていたから、残しておいた唇を塞いでやった。 五ェ門に弱音は似合わない。 ―――――― イメージ的には『VS複製人間』でフリチン…ならぬフリンチと闘って斬鉄剣が折れた後の五ェ門。 ← |