「明かり消すね」 「ああ」 枕元の明かりに手を伸ばす。スイッチ一つで、部屋は月の光に満ちた。今夜は月が明るい。窓から射し込む月光が、すぐ隣に伏せる五ェ門を照らした。 「おやすみ」 「うむ、よく休め」 「ん」 五ェ門の方を向いて目を閉じる。最近はようやく、五ェ門も私の方を向いてくれるようになった。少し前までは頑として背中を向けたままだったのだ。それでも、すぐ隣で寝てくれるようになっただけ進歩していると言えよう。ここまでくるのは大変だった。 「ん…物音…?」 「微かだが…」 「よいしょ、と。私、ちょっと見てくるね」 「気を付けよ」 遠くで小さく物音。耳を打った音に目を開けて身体を起こす。何だろう、せっかく寝ようという時に。 部屋を出て暗い中目を凝らすも、特に異常は見られない。風の音だったのかな。 「何にもなかったみた、いっ!」 「うおっ!?」 覚束ない足元が何かに躓いて、布団の上に倒れ込んでしまった。手をついた先は布団の感触だったが、五ェ門の声がやたら近くから聞こえた。 ぱっと顔を上げると至近距離に五ェ門の驚いた顔。月が明るいせいではっきりと見えてしまった。 「お主…破廉恥な!」 「ちっ違うよごめん!躓いちゃっただけでそんな…」 「むっ!?」 「うわわっ!」 弁解の最中、五ェ門が急に険しい顔付きになったかと思うと、私の頭を抱えてぐるんと身体を回転させた。私に覆い被さる形になって、すごく慌てる。 破廉恥って自分で言ったそばから、五ェ門が破廉恥? しかし五ェ門は何かに気を向けているようで何もしない。少しの間、私を下にしたまま息をひそめた。私もそれにつられて息を詰める。不安になって目の前のはだけた胸元をぎゅうと握ると、五ェ門はふうと息を吐いて気を緩めた。 「ど、どうしたの?」 「変な気を感じたのだが…もう去ったようでござる」 「変な気…」 「む…あ、お、これはすまぬ!いや、すまぬ!」 いやに近くから声がすると思ったのだろう。私の声がした方へ顔を向けた五ェ門はその状況に驚いて謝りながらパッと身体を離した。頭を抱えていた手がなくなって布団に落ちる。 何もそんなに慌てなくてもと思うくらい取り乱して、五ェ門は窓辺まで後退った。顔は真っ赤になっている。 こんな状況にしたのは五ェ門なのに、どこまでも純粋というかウブというか。 私は身体を起こして五ェ門の方まで近寄る。来るな、の言葉が声にならずに口だけパクついた。 「五ェ門が積極的になったのかと思ってびっくりしちゃった」 「違う!待て、何故近寄る!」 「何か五ェ門がおかしくて、撫でたい気分」 「そんな必要はないっ、布団に戻っ…手を伸ばすでない!」 「ウブなんだからなあ。もっと積極的になってくれたっていいのに…もう!」 「〜っ!」 がばっと抱き付くと、弾かれたように立ち上がった五ェ門に持ち上げられて強制的に布団に戻されてしまった。 その後、布団をかなり離されてぷいっとそっぽを向かれる。拙者はもう寝る、の言葉だけ残して後はもう何も取り合ってくれなくなった。 五ェ門のコレは一体どこまでいくんだろうか。 ―――――― 変な気は二人を覗きに来たルパンから発されたものです。 ← |