また、朝に突然の来訪者。また、侍。 なぜ、侍?侍感謝祭でも開催中なのだろうか…。 「こんにちはー…」 「丁度良かった、ここはどこだか尋ねたいのだが…」 「マイ ハウス、私の家です」 「何っ?それでは拙者が失礼したのか、スマン」 何だかとっても礼儀正しい方のようだ。毛髪量の多い頭をぺこりと下げて膝に手を付く様は“武士!”という感じがして潔い。 「頭を上げて下さい!これには深い…いや、深いというかワケのわからない事情があるんです…恐らく」 「お主の方が悪いことをしたような言い分でござるな」 「ごえもんさーん!」 「よんだか?」 ひょっこり、といった具合に物陰から姿を見せるごえもんさん。侍を見たらごえもんを呼べ!ということでお呼び出しした。 またこの間のもみあげさんのようにきっと何か知っているはずだ。そういえば、この人も中々のもみあげの持ち主だ…。この間の五ヱ門さんのもみあげとはまた次元が違う。もっと、顔に根差したもみあげな気がする。 「何じゃ、その…奇妙な生き物は?」 「きみょうとはしつれいな。しかし、おぬし…なにもの?」 「あれっ、ごえもんさんご存じないんですか」 「ああ…せっしゃとにてはいるが…」 「待て、そこの奇妙な奴。お主名は何という?」 「せっしゃか?せっしゃはいしかわごえもんともう、ぅおっ!」 「拙者も五右ェ門だが、お主…」 「ひとをわしづかむとはぶれいな、はなさんかっ!」 「あなたも五右ェ門さん!またも五右ェ門さん…がごえもんさんを鷲掴んで観察している…」 「…似ておる」 「はなせとっ!」 「お主、もしかして拙者か…?」 「と言いますと?」 割れ顎さんはパッチリとしたくりくりの目をこちらへ向けて、ごえもんさんを摘まみ上げながらいつぞや聞いたようなことを言う。 「この奇妙なのは、以前の拙者の姿と酷似しておる。つまり…」 「ごえもんさんの何年か後の姿…!」 「まさかそんな…」 「このように小さくはなかったが、確かに以前の拙者じゃ。見れば見るほどそう感じられる…」 「この間は五年前の…今日は何年か後の…この調子だと、赤ちゃんの頃とかおじいちゃんの頃とかよりどりみどりになりそうですね!」 「他にも拙者がおると言うのか?」 「この間はごえもんさんの五年前の五ヱ門さんが来ました」 「ややこしい…どういうことなのだ一体」 「私も知りたいです」 「せっしゃもしりたい」 そう、知りたいことだらけだ。今ではすっかり慣れてしまったが、ごえもんさんが小さい理由やそもそもどうしてここにいたのか、なぜ次から次へとゴエモンさんが現れるのか。奇妙ったら奇妙キテレツ。 五右ェ門さんがごえもんさんを摘まみ上げているというのもおかしな話だ。まあ、見ている分には面白いが…。 「して、拙者はどのように元の場所へ戻れば良いのだろう」 「あ、気付いたらここにいたってやつですよね」 「このあいだはこやつがきぜつしておるあいだにおそらくもどれたようだぞ。やってみたらどうだ」 「ごえもんさん、どうしてそういうこと言うんですか…」 「それは出来ぬ。恨みがあるわけでもなし、危害を加えられたでもなし。そんな女に手を上げるなど…」 基本的にゴエモンさんたちは女に対して何かしらの葛藤があるように見える。しかし、慣れると本来のゴエモンさんらしさが出るらしいというのはごえもんさんを見ていて分かった。日が経つごとにごえもんさんから容赦がなくなっていくような…そんな気が致します。 「五右ェ門さん、ひとまず今日一日は様子を見るのはどうでしょう?お急ぎでしたら申し訳ないのですが…」 「急ぐことはない…宜しいのならば、世話を掛ける」 「はいはい!それじゃ、朝御飯にしましょうか」 「そろそろせっしゃをおろさんか、ごえもん!」 「おお、スマン。しかし不思議な気分じゃ…まるで夢の如し」 「うむ、せっしゃもこのじたいにはよわっておる」 「うーむ…世界は広いでござるな」 丸一日五右ェ門さんと過ごしてみたが、何も変わるところはなく夕飯まで食べて、そして朝になると五右ェ門さんはいなくなっていた。 何も言わずに出ていってしまったのだろうか。でも、礼儀正しそうな五右ェ門さんのことだ、何も言わないというのは…。 この間の五ヱ門さんのように、何かしらの理由で煙のように立ち消えてしまったのだろうか。 謎は深まるばかりだ。 ← |