「えっと、あのー…おはようございます」 「ここはどこだ」 「私の家ですが…」 朝起きたら、部屋の真ん中にまるで家主ですと言わんばかりの顔で当然のように鎮座まします侍が壊れた椅子を前にいた。 すごく鋭い目付きだったので、一瞬私が家を間違えたのかと怯んでしまう。 話を聞くと、瞑想のために目を閉じていたところ空気が変わったとみて開眼したらこの部屋にいた、らしい。開眼した際に抜いた刀で椅子を斬ってしまったとほんのちょっとだけ反省してるようなしてないような顔で謝られて、大丈夫ではなかったが大丈夫ですと答える羽目に。そう言わないと私が斬られそうな気がしてちょっと怖かった。 「なにごとだ」 「あ、ごえもんさん」 「何…?」 話し声を聞き付けてごえもんさんが姿を見せた。そして固まる二人。 「小人…?」 「ど、どういうことだこれは…」 「何かおかしいんですか?」 「こやつは…むかしのせっしゃだ」 「え!?それってどういう…え?」 「お主今この小人のことをゴエモンと呼んだな?それにその出で立ち、如何なことだ」 「なにゆえむかしのせっしゃがここに…?」 「ちょちょちょ、ちょっと待った!ええと、落ち着いて整理しましょう、えっと、つまり…」 二人の侍ライクな人物の言葉を整理すると、つまりこういうことだった。 今朝突然に現れたもみあげくるんの侍さんは、ごえもんさんの五年程前の姿にそっくりらしい。もみあげさんは自らを石川五ヱ門と名乗り、ごえもんさんも同じだという。 ということは二人は同一人物…である可能性が高いが、いかんせん姿かたちはあまり似ていない。というよりもまず大きさが違う。もみあげさんの五年後がこのミニマムサイズになるとは考えにくい。 「ではこの小人の言葉からいくと、それがしとこれは同じ人間であると…信じられん」 「せっしゃとておなじこと。きみょうきわまりない」 「私も俄かには信じられませんけど」 「いっておくが、ごえもん、せっしゃはじめからこのすがたなのではないぞ」 「口では何とでも言えよう」 「われながらすかんやつだな…」 すごくワケわかめな状況で、ここにいる誰ひとりとして正確なことは把握できていないだろう。もみあげさんは口をへの字に曲げて腕を組んでいるし、ごえもんさんはもみあげさんを睨みつけながらうーんと唸っている。私はどうしていいかわからない。よし、落ち着くために一度お茶でも飲んで一息つきましょう。それがいい。 「お茶淹れてきます」 「どうしたきゅうに」 「女、余計な真似をするな」 「一息いれましょうよ…って、刀に手をかけないで!毒なんて入れませんから!」 「ごえもん、おちつけ。こやつはこっそりどくをいれられるほどきようなおんなではない」 おお、的を射てはいるが遠回しに馬鹿にされているような…。 「ごえもんさんの言う通り!ね、だからそんな怖い目で見ないで!」 「フン…それがし、もうお暇させてもらう」 「あれ、どこに行きなさるんで?」 「では、御免」 「無視ですか。お待ちになってお侍様!」 「クドイ」 「ぐおっ、ひど…い」 女を殴るなんて…鬼…畜。 「…きよ、なまえ……きるのだ…」 「……ん、あ?」 揺さぶられたような気がして、意識が覚めてくる。頭が、痛い。 ぼんやりとした視界の先で、ごえもんさんが私を覗きこんでいた。 床でお寝んねをかましてしまったらしい。 「おきたか」 「ごえもんさん?あれ、私…」 「おぬしはむかしのせっしゃになぐられてきぜつしておったのだ」 「それで…五ヱ門さんは…」 「おぬしがきぜつしたのち、たちきえた」 「お化けっ!?」 「せっしゃもよくわからないが…」 「ごえもんさん?」 「おぬし、もういちどきぜつするきはないか」 「ありませんよ!?」 よくよく奇妙な出来事ばかりだ。何やら考え込むごえもんさんを前に、ほっぺをつねってみる。痛い。 ← |