「おお、ぴったり」 「うむ。ざんてつけんがみつかるまでのしんぼう。これでよしとしよう」 ある昼下がりに突然現れたごえもんさんという手乗りサイズの小さな侍は、ざんてつけんという名の刀をなくしてしまったらしくそわそわそわそわしていた。 黙っていてもそわそわ、しゃべっていてもそわそわ。とにかく何をするにもそわそわしっぱなしで、それはそれで見ていて面白かったが少々気の毒になったので何か代わりになるものを、と爪楊枝を差し上げた。 それで代わりになるかというと全くならないのだが何もないよりはいくらか落ち着いたようで、腰に差したり振り回したり肩に担いだりして具合を確かめている。 この姿、一寸法師のようだ。一寸法師は刀代わりに針を持ち、ごえもんさんは楊枝を持つ。 「なまえどの、なにかきってもよいものはないか」 「きる…?じゃあ、みかんでどうでしょう」 「かたじけない。かわだけきってみせよう」 みかんを前に楊枝を構え静かになるごえもんさん。中々どうして迫力がある。だがしかし、楊枝などで物をきることが可能なのだろうか。 「せいっ、テヤァッ!」 「う…おお!」 勝負は一瞬だった。カッと開眼したごえもんさんが気合いと共に楊枝を振るう。そして一拍おいてバラッと散らばるみかんの皮。 見事ごえもんさんはみかんの皮を楊枝で斬ることに成功したのだ。広げた両腕では抱えきれない大きさのみかんを、まさか皮だけ斬ってしまうなんて思わなかった。実は無理だろうと思っていた…のは秘密だ。 「よっ、日本一ィ!」 「よせ。たいしたことではない」 「充分大したことですよ。まさか爪楊枝でこんなことが出来るだなんて…驚きました」 「ざんてつけんであればもっとおもいのままなのだがな。しょうしょうぶかっこうにきれてしまった」 「これで?うーん、侍は言うことが違いますなあ」 すごいすごいと誉めると、満更でもなさそうな顔をする。分かりやすい人だ。 その後、皮を斬られたみかんはごえもんさんと分け合って食べることにした。みかんの一房も強敵なようで、抱き付くようにしてちびちびと頬張る内に顔中と言わずあちこち果汁で大変なことに。 洗濯とお風呂が必要そうだ。 ← |