居眠りの隙に、午後の陽はすっかりおやつ時になってしまった。 紅茶でも飲もうと突っ伏していた机から身体を起こす。ぐぐぐと伸びをして、凝り固まった腕を引っ張る。 何か丁度いいお菓子はあっただろうか。羊羹?そうだ、久し振りに羊羹を、それも和菓子屋さんで長いものを一本買ったのだった。なら、紅茶よりも緑茶がいいだろう。よし、お湯を沸かそう。そして、茶葉を…おや? 視線の先、机の上の果物かごの隅で何かがもぞもぞしている。ま、まさか…。静かにそぉっと覗きこむ。何か、生き物らしきものが果物の間に挟まってジタバタしているようだ。 「……妖精?それとも、小さいおじさん?」 とにかくジタバタと半端ないもがきようで、見ていて気の毒になってきたので手を貸してあげた。果物をどける。すぽんっ、と勢いよく謎の生き物が机の上に投げ出された。 「………何これ」 「きさま、なにもの!なをなのらんか!」 「しゃべった!?」 なんと驚いたことにこの生き物、しゃべることが出来るらしい! それに何だか…侍?のような格好をしている。袴らしきものをはいて、黒い髪を振りながら、小さな指をビシッと私に突き付ける。小さいながら中々の迫力…と呆気にとられていると、痺れを切らしたのか妖精さん…侍さん?は「こたえんならきるぞ!」と腰のあたりをスカスカと探った。 「ない!ざんてつけんがない!」 「あ、あの…」 「おぬしがどこぞへやったのだろう、ええいゆるせん!」 「うわ、いたっ、地味に痛い!」 何だかものすごくいきり立っている小さい侍さんに腕をチョップされた。小さいくせに痛い。そして人の話を聞いてくれない。 湯気が立ちそうなほどにぷんすかしている小さいのを何とかなだめようと指で頭を小突いてみた。それが思ったより強い力だったようで、さっきのように机にころんと転がってしまった。仰向けになった小人を見ると大層悔しそうな顔で歯を食いしばっているのが分かって、ちょっと噴き出してしまった。小動物のようなかわいらしさだ。 「ぷ」 「うぬぬ…かようなぶじょくをうけたいじょう…しかしざんてつけんすらないとなると…せっぷくすらできん。むねん」 「もしもし、お取り込み中のところすみませんが…」 「さあ、やるならひとおもいにせい!」 「やらないやらない。お話聞いてもらえますか?」 「なに?………おぬし、きょじんか…?」 「違います。そういうあなたは小人さん?それともコロボックル?」 「こびとでもころぼっくるでもござらん。せっしゃは、ごえもん。いしかわごえもんでごじゃ…ござる」 「ぷぷ…ごえもんさん?あなたの名前?」 「そうだ……なにがおかしい」 「ふふ、何でもないです。ええと、私はなまえです。あなたは一体どこから来たんでしょうか」 「む……そういえば、ここはどこだ?せっしゃは…なにをしていた?」 「みかんの間に挟まってましたけど…」 「そんなはずは…」 頭を抱えて悩みこむ小人さん改めごえもんさんの目の前に、先程どけてあげたみかんを置く。おおなんとおおきなみかん、めんような。と立ち上がって(それでもみかんよりちょっと背が高いくらい)手のひらでぺちぺちと皮を叩く。 「うーむ…どうにもおもいだせん」 「小さくなった理由?それともここにいる理由?」 「そのどちらもだ。それから、ざんてつけんのゆくえも…」 「んー、ひとまず羊羮食べませんか?」 「ほう、いただこう」 不思議な訪問者ごえもんさんと共に、おやつ時を過ごすことになった。 白昼夢としては、中々愉快。 しかしこれが、奇妙な出来事の始まりであったとは思いもしなかった。 ← |