ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



「あいたたた…」



唐突な腹痛。何か変なものにでもあたったのだろうか…。しかし思い当たる節がない。それでも腹は痛むもので、ジワジワと絞り上げるような波がやってくる。これは参った。
そうして廊下の真ん中にうずくまっていると、後ろから思いきり蹴飛ばされた。



「いてっ」

「ヌオッ、こんなところで何をしておるのだ、お主は」

「ひどい…蹴り入れられた…」

「足元で丸まっておったら蹴り飛ばすこともあろうに…何だ?そんなに強く蹴ったつもりはないぞ」

「あたた…いや、蹴られた方じゃなくて…そっちも多少痛いけど…お腹が痛くて…」

「フンッ、大方拾い食いでもしたのだろう。お主にはそういうところがあるからな」

「ないし…ちょっとしかしないし…」

「そぅら見ろ。やはりするのではないか。自業自得でござる」

「泣きっ面に蜂だぁ…五ェ門にいじめられるよぉ…」

「せいぜい反省することだ」



そのまま五ェ門は廊下の置物となっている私の脇をすり抜けてさっさとどっかに行ってしまった。中々ツンツンと冷たい。機嫌でも悪いのかしら。
私は私で何とか寝転がれる場所までは辿り着こうとソファのある部屋を目指してズリズリと這い進む。道中誰にも会わなかったのは幸いだった。いや、不幸だったのかな。



「とにかく寝よう…寝ればなんとかなる…」

「って、あ〜ら。ホントに芋虫になってらぁ」

「ルパン…?」



ソファで丸まっていると、陽気な声が耳を打つ。次いで赤いジャケットが目に入り真ん丸とした瞳がこちらを覗き込んでいた。
顔だけ上げて見やると、手のひらが額やらなんやらを触ってくる。様子を診てくれているらしい。



「熱はなさそうだな。待ってなー、今葛湯を持ってくっから」

「わー…!嬉しい…」



頼れる大怪盗ルパン三世はやはり一味違うぜ。湯呑みののったお盆をまるでワインでも渡すかのように差し出してくれるのが様になっている。
そっと両手で受け取ると熱すぎずぬるすぎず、丁度よい温度でいれられていてすぐに口をつけてもぐいぐいいける。さすが紳士はやることが粋だ。



「ありがとうね、ルパン。すごくおいしいしあったまる」

「どういたしまーして、っと、いきたいところなんだけっどもがな?実はそれ、五ェ門ちゃんからの差入れなのよね」

「えっ、五ェ門?」



五ェ門って、あの私を蹴り飛ばした五ェ門のことだろうか。まさかまさか…。



「五ェ門ならさっき私を蹴飛ばしてったのに…?」

「蹴っ!?ヒデェなぁ、あいつあれでも惚…いやいや、何でもない。とにかくすんごく心配そうな顔して『これを飲ませてやってくれ』なんて葛湯を渡してきたのよ」

「本当に?」

「ホント、ホント。大ミミズのダシ汁とかじゃなくて良かったけど、まあ、あいつも素直じゃねぇんだから全く」

「そっか。でもルパンもありがとう」

「お礼ならチューでお待ちしてますよ」

「具合良くなったらね」



紳士続きでベッドまで運んでもらってしまって、ルパンへは感謝ばっかりだ。
五ェ門にも、後でお礼を言わなくちゃ。




「………ん」

「ハッ……」



近くで気配がして、目を覚ます。
慌てたように息を飲む声と衣擦れの音がした方向を見ると、今しがた方向転換した背中が目に入った。五ェ門だった。



「あっ、五ェ門!」

「止せっ、引っ張るな」


距離を取ろうとしているのが分かったので先手を打って袖を掴んで引き寄せるとあっさり従ってくれた。それでも顔はこっちに向けてくれない。蜂に刺されて腫れてるわけでもないだろうに。
引っ張り続けてベッド脇に座らせるとようやくチラリと横目でだけ視線をくれた。何だいその目は。



「葛湯、ありがとう」

「知らん。何のことだ」

「じゃ、妖精さんの仕業だったのかな。おいしい葛湯だったなあ、お腹によく効いたなあ。もうすっかり治っちゃったなあ」

「良かったではないか」

「こんな大きな妖精さん、いたんだなあ」

「…その妖精さんとやらによく感謝するのだな」

「もちろん!ありがとうね」

「フン…」



口では穏やかでない妖精さんだが、手は私の頭をゆっくりと撫でてくれる。
五ェ門が素直になってくれない代わりに、私が素直でいれば落ち着くところに落ち着くものだ。そういうことにしておこう。




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