ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



恋仲だからといって、別段寝る前の甘い会話などがあるわけでもなく、まして「おいで、ハニー」といった具合に腕を広げて待っているということもない。そして一つの布団で寝ることもない。普段ならば。

それが今夜は違った。仕事のために訪れた温泉地の古宿。そこで布団がたった一組しか用意されなかったのだ。当然のように部屋の真ん中に鎮座する一組だけの布団に、風呂から戻ってきた私たちは部屋を間違えたのかと確認してしまったほどだ。
結果間違ってはおらず、おまけに布団はこの一組しか用意できないのだと宿の人に言われる始末。何分古宿ゆえ充分な設備が整えきれず…と申し訳なさそうに頭を下げた後、ところでお二人はなされないので?とケロッと態度を変えた老主人に、五ェ門は「何たる宿!」と顔を赤くした。
まあ一晩だけだし、といきり立つ五ェ門を宥めて何とか今に至る。滅多にない機会だし、実はちょっと嬉しかったりする。



「おやすみ」

「…うむ」



もぞもぞと布団に入って、それは当然背中合わせで、なるべく触れないようにと気を付けた。私としては触れ合うことは万事オーケーなのだが、五ェ門が何かとうるさいから仕方ない。
ちぇと足を動かしたら、あちゃあ、ぶつかってしまった。これは五ェ門の足だ。



「あ、ごめん」

「いや…」



エヘン、と妙に大きな咳払いをした五ェ門がぎこちなく身体を動かしたのが分かった。布団が大分引っ張られたためだ。ちょっと私、半分布団掛かってないんですが五ェ門さん。
気温が安定しなくて何となく肌寒さを感じる今宵に、布団半分はちとキツい。



「五ェ門、起きてる?」

「…寝ておる」



起きてるじゃないですか。とは言わず、ぐるんと寝返りを打って寝間着の背中にちょっとした期待を乗せて声をぶつける。



「今日はちょっと寒いね」

「………」

「………」

「……やらんぞ。そのように言われても抱き締めるなどせぬぞ」



ダメか。あわよくば、と思ったんだけど。
そして私の思考、というか願望は五ェ門にお見通しらしい。



「……けち」

「けちとかいう問題ではござらん」



私が舌を出すと、五ェ門が更に布団を引っ張った。背中に目でもついてるのか。
もう私はほぼ布団の恩恵を得られていない。これで寒い、冷たい、けちの三重苦が揃ってしまった。



「あ、じゃあ、私が五ェ門を抱き締めればいいんだ」

「何っ、ムッ!」



そりゃ、と頼れる背中に抱き着く。大袈裟なほどの反応を見せた五ェ門の腹辺りに腕を回す。男なのに割合細いが鍛えられた腰回りの温度が腕から伝わってくる。じんわりとした熱は丁度良く私の身体に馴染んでいく。これならゆっくり寝られそうだ。



「何故そうなる、お主は馬鹿か!拙者がこんなにも…」

「けちな五ェ門が悪い。ちょっとくらいいいじゃないの」

「お主は何も分かっておらん…」

「それじゃ、分からせてくれるの?」

「期待するだけ無駄と知れ!」

「ちぇ。五ェ門らしいけど」



お堅いなんてもんじゃない侍は、それでも布団は分けてくれた。その代わり布団はやるからさようならといった具合に布団の端ギリギリまで寄ってもう取り合ってくれない。といっても狭い布団だからあまり変わりはないんだけど。
五ェ門が完璧に寝たらまたくっつこうと思っていたら、結局眠さに負けて寝てしまった。朝起きたら五ェ門の目の下にうっすらとクマを発見した。強情っぱりめ!



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