「そんなことをしていないで、まだ静かにしておけ」 「でも、何かじっとしてられなくて」 ちょっとした不運が重なって怪我をした。ちょうどその時一緒にいた五ェ門のおかげで怪我は大したこともなく済んだが、久々にしばらくは安静にした方がいい怪我を負った。 でもただ静かにしていることに段々と耐えられなくなって、目に付く所を簡単に掃除しようとほうきを手にする。と、素早く五ェ門に見つかってしまった。 「それでは治るものも治らんぞ」 「ちょっと掃くだけだから大丈夫」 「だから止せとッ」 「あっ、ちょっと!」 ほうきを奪われぐっと強い力で腕を抑え込まれた。抗議しようと振り返ると今度は五ェ門の腕の中に閉じ込められた。とても荒々しい抱擁だった。力が籠りすぎていて傷に障って呻き声が口から漏れる。 「った…」 「頼む、余計なことはするな。お主のためにならん」 「痛いよ、五ェ門…」 「無理はせぬと、誓え」 「五ェ門…?」 「誓え」 「うん、その…分かった、静かにしてる…」 「それで良い」 「……?」 普段聞かないような切羽詰まった口振りと気迫に押され大人しく観念する。確かにちょっと軽率だったかもしれない。でも何だか五ェ門の様子がおかしい。今すぐにでも取り乱して崩れてしまいそうだ。 「ごめんなさい、心配掛けさせてしまって…」 「そうだ、あまり拙者の気を…いや…そうではないだろう…」 「五ェ門……怒ってる?」 「お主にではない」 「でも怒ってるんだ…」 「怒りも、悔いも、苛立ちもある」 「どうして…?あ、ありがとう」 五ェ門の腕から解放された私はひょいと抱えられてベッドまで運ばれた。険しい顔付きとは裏腹な動作でそっと下ろされる。優しい手付きと唇を噛み締める表情があまりにもちぐはぐで、私の中に戸惑いが生まれる。見れば、五ェ門の手が微かに震えていることに気が付いた。 「どうしちゃったの…?」 「拙者の力不足のせいだ、お主を傷付けた…すまぬ…っ」 「や、止めてよ五ェ門ってば、そんなに深刻にならないでいいのに」 「あんなにも傍にいたというのに…大切な人ひとり守れない己が腹立たしくてならん」 「何も死ぬほどの怪我ってワケじゃないんだから、かすり傷みたいなものだよ。五ェ門が気に病むことない。むしろ助けられたんだよ。五ェ門がすぐに手当てしてくれたから…」 「それでも、防げた筈だ、お主が傷付かぬよう…拙者はッ」 「ダメ!」 「っ」 音が聞こえるくらい拳を強く握って俯く五ェ門を、今度は私が抱き寄せる。手を引いて首元に自分の腕を絡める。ベッドに座る私に、立ったままの姿勢から無理矢理抱き寄せられた五ェ門は背を屈めて咄嗟にシーツに手を付いた。 「終わり!自分をそんなに責めないの。自分で自分の身を守れなかったのは私なんだから」 「だが拙者は…」 「もう言わないの、今回のことは私に責任があるんだからさ。心配してくれるのは嬉しいけど。私ももう余計なことはしないから」 「ああ…」 優しい五ェ門にひどいことをしてしまったのは私の方だ。ごめんなさい。謝らなければならないのも私。 自らの身体を支えていた五ェ門の腕が遠慮がちに腰に回って、肩に頭の重みが落ちてきた。近付いたその耳元に、私は謝罪の言葉を注いだ。 傷の痛みなど、どうとでもなる。問題はそこにはなかった。 ―――――――― どちらかが怪我するシチュエーションがどうも多い… ← |