ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



水を跳ねて影は走る。
右へ行けば敵の灯火、左へ行けば敵の弾。残るは上しかなかった。敵の直中へ飛び込むことになるが、致し方あるまい。元より敵を討たねばならないというのは承知の上だ。



「拙者はこれから上へ行く。お主はここへ隠れておれ、絶対顔は出すな。下の奴らは一掃していく。だから絶対…」



ただ、気になるのは彼女のこと。ここまで手を引いて共に逃げてきた彼女。
敵の直中へ飛び込むのに、彼女は連れて行けない。守りたいと思う対象は、同時に足手まといにもなった。
かといって置いていくことも気が引けた。
どっちもどっち、二つに一つ。しかし結論は案外すんなりと出た。彼女の指の一本によって。



「分かってるよ。絶対に出ない、奥にいる。この奥に」



五ェ門の念を押す唇を黙らせた人差し指で、彼女は管の奥を指差した。その先は真っ暗だが、音さえ立てなければ見付かることはないだろう。
五ェ門は小さく頷いて周囲を鋭く見遣った。管の入り口を背で覆うように立ち、斬鉄剣をいつでも抜ける位置で前に構えて。



「五ェ門に、どうか優しき加護を…」

「止せ、それでは拙者が…」



背後から不意の祈りだった。
聞こえてきた音の余りの近さに耳元で話されたのかと驚き振り返る。
しかしそこに彼女はなかった。



「オイッ…何処へ、」

「ここにいまぁす…」



闇の中からぼんやりとした声が返ってきた。
いつの間に見えない程奥へ行ったのか。
管の中で何度も何度も、彼女の声が反響しては耳に届く。
耳元で聞こえた気がしたのだ。すぐ、耳元で。



「…これ以後、決して喋るでないぞ。すぐに戻ってくる、それまでは絶対に」

「うん…返事もダメだったかな」

「拙者の呼び掛けになら答えてくれ」

「分かったよ…」



分かったよ、かったよ、ったよ、よ…。
響いてきた了承を耳に聞かせて五ェ門は、すらと刀を少し抜いた。大丈夫だ、いける。斬鉄剣の輝きに確信を見出だして、五ェ門は走り出す。目指すは上への出口。敵の待つ地上への、錆びた梯子。
跳ねた水の冷たさは問題ではなかった。



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