ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



り、り、と虫が鳴く。どこかの草陰で、明日を歌う。りぃ、りぃ。その歌を除けば、まこと静寂。呼吸の音さえ潜められて、融けていってしまう。



「静かだナ…」

「静かだねぇ…」



吐き出す息に紛れ込ませるようにして、五右ェ門が呟く。頭は彼女の膝の上。瞼は下ろされている。
それに答えて彼女、五右ェ門の髪を梳く手を止めずに同じく呟く。



「なァー」

「んー?」

「何でもない」

「気になるよ」



縁側には闇が満ちている。りぃ、りぃ。
月明かりもない。時代を間違えたような行灯が、ゆっくりと炎をくゆらすのみ。



「ン、しりとりしようぜッて思ったんだけど止めた。オレの声でうるさくなるのヤだからな…」

「私の声もするけど…」

「アア、キミの声は良いんだヨ」



虫の声が止む。彼女が髪を梳く手も止まる。
五右ェ門は幸せそうに口角を上げる。上げた口の端を指でぽりぽりと掻いて下ろしていた瞼を持ち上げた。五右ェ門の視界には行燈の火に照る彼女の顔がある。夜に濡れた髪が、ぼんやりと照り映えて美しい。五右ェ門の目には、彼女はいつも美しく映る。



「寧ろずっと話しててもいい。聞いてたいナ」

「どうして目開けるの」

「キミがどんな顔してるのか気になった」



知ってるくせに…。照れくさそうに顔を逸らしてしまう彼女。その反応も分かっている。次に彼女は五右ェ門の頬をぎゅうと摘まむ。それも分かっている。摘ままれながら五右ェ門は、笑みを深くする。その顔を見て、彼女も徐々に表情がほぐれていく。



「私は五右ェ門の声も好きだよ。うるさくなんてない」

「そうカナ」

「そう。だからしりとりしようよ。眠くなるまででも」

「ン、ヨシ。じゃあ…しりとり」

「んー、りす」

「砂」

「な、な…南京玉すだれ」

「れ…南京玉すだれだって?何でまた…」

「た、たこ焼き器」

「き?麒麟児…」



また虫が鳴き出した。りぃ、りぃ。
二人の夜はゆっくりと更けてゆく。




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