ゴエモンアソート、つまりゴエモンの折り詰め! | ナノ



「はっ!」



ガバッ、と過ぎた勢いで五ェ門は身体を起こした。
どれくらいかは分からないが、気絶していたらしい。
キョロキョロと辺りを見渡す。暖かい室内、寝台の上。自分の最後の記憶とは違う場所だ。誰かが運んでくれたのだろう。



「五ェ門、起きたの?」

「…お主か」



キィと扉を軋ませながら部屋に入ってきた人物に五ェ門は安堵の溜め息を吐く。
彼女だったか。ならば安心だ。
眉の間に不安を漂わせた彼女が五ェ門に近付く。盆に乗せた湯飲みを静かに差し出して、寝台の角に腰掛けた。



「調子はどう?どこか痛むところは…」

「大事ない」

「良かった…五ェ門ったら帰ってきたと思ったら気絶するんだもの」

「拙者としたことが…すまなかった」

「ううん、いいの。あ、五ェ門が寝てる間に服替えちゃったけど…汚れてたから」

「何、そうか…こ、これは…」

「ごめんね、今服がそれくらいしかなくて」



五ェ門が着せられていたのは、ごくごく普通のTシャツとゆったりめのジャージだった。五ェ門が普段着として着用している着物とはまるで着心地の違う代物である。



「手間を掛けさせたな」

「いいえ」



ここで、五ェ門はあることが気になり出した。
着替えさせてもらったということは自分が気絶している間、彼女が自分に触れていたということだ。普段だって必要以上にベタベタすることがないのに、気を失っていたとはいえ、自分の身体に彼女が触れていたと思うとくすぐったいような何とも言えないもどかしさを感じる。



「む…ぅ、いや、そうだな…」

「どうしたの、五ェ門」

「あ…いや、その…」

「どこか痛むの?私に見せてみて」

「ちっ違うのだ!気にせんで良い」

「そう?分かった」



今彼女に構っては欲しくなかった。目を合わせるだけでも苦しい。彼女を意識してしまえばしまうほど、自分が気を失っている間の情景が目の前に浮かんでくるような気がして五ェ門は頭を抱えた。



「本当に大丈夫?服が血だらけだったからすごく驚いたんだよ…」

「うむ…拙者の血ではないので問題ない」

「何だか五ェ門って大変みたい」

「っ!?」

「何か食べるもの持ってくるね」



彼女が不意に自分の足を撫でてきて、悲鳴を上げそうになったのを寸でのところで堪えた。
彼女が部屋を出ていってから五ェ門は自分が頭を抱えていない方の手でシーツを握っているのに気が付いて慌てて手を離した。全く調子が狂っている。たかが、たかが服を着替えさせてもらったくらいなものを、何故こんなに…。
そこで五ェ門は違和感を覚えた。下帯の…褌の履き心地が違う。いや、この心地は褌のそれではない、まさか!



「そのまさかか…」



下着もすっかり着替えさせられていた。いつも己が愛用している褌ではなく、ルパンが着用しているようなトランクスになっている。
まさか、そこまで彼女が?これでは余計彼女に合わせる顔がない。これから戻ってくる彼女に一体どのような顔を向ければいいというのだろう。
かあっと血が身体中を巡り行くのを感じて、五ェ門は掛け布団を顔まで引き上げた。彼女が戻ってくる気配がする。



「お待たせ、温かいもので良かったかな……って五ェ門?」

「何でもないでござる!」

「やっぱりどこか…」

「良い!それを置いて出てってくれっ」

「ど、どうしちゃったの五ェ門」



五ェ門の動揺が移ったかのようにおたおたとする彼女。運んできた盆を手に部屋に入ったものかどうすべきか、決めあぐねている。
すると、その後ろに影が一つ寄った。



「五ェ門、目ぇ覚めたのか?」

「じ、次元…」

「あっ次元!」

「目ぇ覚ましたと思ったら癇癪か?世話焼かすなよ。寝てても起きてても厄介な奴だなオメェは」

「どういう意味だ、それは」

「どういう意味って、オメェが気ィ失ってる間着替えさせてやったの誰だと思ってやがる」



は…と五ェ門は一瞬だけ思考が停止する。
それでは、つまり…拙者を着替えさせたのは彼女ではないと…?



「そっ、それでは次元お主が…」

「あー、ったく。男を着替えさすなんてもう二度とやりたかねぇな」

「ごめんね次元。無理言って頼んじゃって…」

「バーボンで手ぇ打ってやる」

「了解です次元さん」



愚痴る次元とそれを宥める彼女を他所に、五ェ門は今までの己の自意識過剰に恥ずかしくなって頭まで布団を被ってしまった。思い出せば思い出すほど恥ずかしい。
五ェ門はしばらく布団から出られそうにない。



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