「それじゃ、予定は明日の21時ね」 「おーう、頼むぜぇ!五ェ門も、よろしくなぁ」 「承知した」 明日決行の作戦会議を終えて手を振りつつルパンが部屋を出ていく。あっ、という短い声のあと一度閉められたドアが開くと、お二人さん今夜食事でもどーお?とのお誘い。どうする?と後ろの五ェ門に問えばこっくりと頷いて返されたので、ルパンにハンドジェスチャーで伝える。 「じゃあ下で待ってるぜ、準備できたら来てちょ」 「ん、すぐ行くね」 せっかくのディナーなので着替えていこうと後ろを振り返る。すると、五ェ門が何やらもじもじとしているではないか。トイレを我慢でもしてたのかな? 「五ェ門、大丈夫?」 「大丈夫ではない…」 「だ、大丈夫じゃないの?具合悪い?やっぱり今日の食事キャンセルする?」 「それは問題ない…腹は減っている」 「それなら良かった。それじゃあ別のこと?」 「うむ…だが、もう良いでござる」 「そうなの…」 もじもじしていたのが口を開くにつれてだんだんしょげていってしまい、最後にはガックリと肩を落とした。機嫌が悪いというわけではなさそうだが、元気は確実にない。五ェ門に元気がない時の原因は様々だが、今回は今ひとつピンとくるものがない。打ち合わせ中はこれといって様子の変わったところはなかったのだが、終わった途端にこれだ。五ェ門の気紛れは今に始まったことではないが、言葉が少ないのにはいつも少しだけ悩んでしまう。 着替えるから先に下に行っててと言ったのだが、すぐ外で待ってるというのでちゃっちゃと用意する。今日の気分で選んだ服だが、肩を通したところではっと気付く。背中のファスナーが上げられない。 「ね、五ェ門」 「済んだか」 「あとちょっとなんだけど、お願いがあるの。ファスナー上げてくれない?」 「ふぁすなー?」 「背中の、これ」 「お主、背中が丸出しではないか…!」 「それをしまって欲しいの」 分かった…としどろもどろになりながら五ェ門がファスナーに手をかける。細いスライダーが繊細な音を立てると、その隙間でボソボソと声が立った。 「拙者が…」 「んー?」 「先に、誘おうと思っておった」 「今夜のこと?」 「お主が以前、好きだと言っていたわいんのある店を見つけたのだ…共に行ければ、と。しかしルパンに先を越された」 そう言い終えると同時にファスナーを上げきった手がまとめ上げていた私の髪を下ろす。振り返ろうとすると、五ェ門の手が私の肘を掴んでいた。少しザラザラとして素肌にくすぐったい。 「明日は生憎だけどさ、明後日の夜なら私空いてるんだ」 「明後日、か」 「おいしい日本酒を出してくれるお店知ってるんだけど、どう?」 「それは真か!行く!あっ…またもや先を越された…」 「どっちも行こうよ。だから、エスコートしてくれると嬉しいな」 「えすこーと?」 「私を導いて連れて行って、ってこと」 「成程、承知したでござる」 お誘いにお誘いを返せば、だんだん語気に勢いが戻ってくる。 エスコートしてってのつもりで手を差し出せばむんずと鷲掴みにされたが、五ェ門らしくてよいだろう。すっかり元気を取り戻してくれたので、良かった。 あんまりにもご機嫌になったので、ルパン達に茶化されすぎて少しぶんむくれたのはまた別の話だ。 ← |