見廻組の制服は真っ白だ。そりゃもう雪も真っ青なほど真っ白。だから何かをこぼせば目立つ上落としにくい。カレーうどんを跳ねたといってえらく苦労してた局長をこの目で見ている。
そのこともあって、この時期に定番のアレはホワイトチョコレートを選んだ。これなら局長も食べやすいだろう。
「ということで、ホワイトチョコレートです。隊服にこぼしても目立ちません。安心です」
「どうしてこぼす前提なんですか。そもそもホワイトチョコレートも全くの白じゃありませんし」
とぼやきつつ、局長は礼を言って受け取ってくれる。
片眼鏡の奥からいつもの半眼で表情の読めない顔だけど。
隣では同じく無表情に定評のある信女副長が真っ赤な瞳で箱を覗いている。
「副長にも!いつもお世話になっております」
「ありがとう」
どちらにも受け取ってもらえてよかった。ちょっと奮発して買ってみたのだ。エリートにとってはそう大したものでもないかもしれないが、私なりの気持ちだ。
「あなたがこんなに気が利く人とは。世話をしてみるものですね」
「バレンタインに便乗しただけですよ。でも、気持ちは一応本物です!なんちゃって」
「分かってますよ、分かってます。大切に食べさせていただきますから」
「異三郎、舞い上がってる」
「何を、信女さん。私は冷静です」
「それは酔っ払いと同じ反応。酔っ払いは酔ってないって言う」
「そういうあなたもいつもより表情筋が緩いんじゃないですか」
「緩くない」
「お二人ともに喜んでいただけてよかったです!」
「………」
「………」
「では!私は仕事に戻りますね!」
去り際にお二人の声がかすかに聞こえたような気がした。
「ホワイトデーにはたっぷりお返しせねばなりませんね」
「そうね」