2.14 | ナノ


※逆トリップ「大混乱」if番外編
※もし小十郎がトリップしてきたのがバレンタインの時期だったら



二月の中旬。いつの頃からか、この時期になると当たり前のようにフェアだなんだと並ぶのは、チョコ。求めなくても目に手に口に入るほど街中に溢れるのだ。不思議な現象で、これをバレンタインと呼ぶ。
ただいまうちにいらっしゃるお客様は、チョコが溢れるバレンタインデーなど影もなかっただろう時代から来た。買い物に出れば目につくものに興味を抱いた模様。



「これは一体何なんだ」

「この時期の風物詩です」

「これがか」

「これがです」

「それで、一体何なんだ」

「ここ日本ではチョコレートという、豆から作られるお菓子を様々な理由で人に贈ったり贈られたり贈られなかったりする行事が行われており、これはとある会社が…」

「…長くなるか?」

「説明すれば。まとめると、人に贈り物をする日です」

「普段はしないのか。例えば事が有利に運ぶよう、献上品を贈るだとか…」

「もっと個人単位なんです」

「そうか…」



何か、と問われると説明するのが案外難しい。一からの説明となると余計に。お客様は、納得しきれない顔である。私も私で満足のいかない話ぶりをしたと反省。
ここは実際にやってみるが早いだろうと思い、バレンタインの決行を誓う。とりあえず、甘いものは食べられるかを聞こう。


時は流れて、バレンタインデー当日。朝ごはんを食べてそれぞれの部屋に解散した後、お菓子作りに取り掛かる。聞いたところ、こちらの菓子は口にしていないのでどんな味か分からないがあまりに甘いと苦しいかもしれない、とのこと。そういえばお菓子類には触れたことがなかった。味が分からないのも無理はない。戦国時代の甘い物がどの程度の甘さなのかは想像の域を出ないが、控えめに作ろう。ということで、ビターなお味のトリュフに決めました。
さてさていよいよプレゼント、という段になってお客様の部屋を訪ねると、なにやら作業をしていた様子。なんだか、いい香りがする。これは…何だろう。



「バレンタインとは何かを実践しに来たのですが…立て込んでましたか?」

「今出来上がったところだ。包むまではしちゃいねぇが、お前に贈る」

「私に?」


ぽんと皿に乗ってやってきたのは、緑色の何かに包まれた丸いもの。これは見たことがある。



「これって…」

「ずんだ餅だ」

「なんと、ずんだ餅!しかしなぜずんだ餅?」



見事な出来栄えだ。実においしそう。



「ちょこれえと、ってのァ作り方が分からねぇが、豆から作るというからずんだ餅を作ってみた」

「おいしそう…」



見事すぎて、自分の作ったトリュフが急に路傍の石に見えてきた。これをあげてもいいのだろうか…。



「で、お前は?」

「あっ…いや…何というか…その辺の石ですよもう…」

「石食わすのかお前は」

「一応チョコレートで作ったものですが…お口に合うと嬉しいです…ごめんなさい…」

「…まァ石に似てると言やァ似てるな」



とりあえずラッピングなどしてみたが…味は死ぬほどよろしくないわけではない…と思いたい。



「食うぞ」

「覚悟してどうぞ。私もいただきます」

「………」

「………」

「…美味い」

「…おいしい」



あら、意外と高評価?ああ、よかった。
しかし見た目を裏切らないおいしさのずんだ餅ですこと!枝豆の風味が口の中に広がって、餅と見事に絡み合う餡がまたいい食感だ。



「面白いモンを食わせてもらった。感謝するぜ」

「私こそ、とてもおいしかったです!ありがとうございます」



終わり良ければすべて良し。後味良ければすべて良し。
バレンタインもなかなかいいものかもしれない。






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