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二番隊のエース隊長とその右腕と自称しているヤシロは俺より年下だ。エース隊長はわかる。なんせ尊敬できる大先輩だからだ。強くてかっこいい、そんな先輩の右腕と自称するヤシロのことを実は苦手だったりする。苛立つが、あいつに口で敵うやつはいない。そんな二番隊はいつも上司たちの口喧嘩で耐えないのだ。それも日々常に起こっているからどうしようもない。そんな日常の一コマを今日は観察しようと思う。

「よ。モブ男。何してんの?」

観察日記をかいていたら、顔を覗かせる噂の人物。キタキタ…変なのキタ。パタンと慌てて日記を閉じた。「…ヤシロ、隊長は?」とか白々しく問うてみる。ヤシロの顔は見る見る内に、怪訝な様子になっていく。そんなに隊長が憎いのか

「ああ火拳野郎ね。知らね。さっきまでいたんだけどなぁ。どっかいったかも」
「…あぁ、そう」
「用事あんなら自分が聞きますけど」
「…いや遠慮しとく」

お前に頼んだら絶対余計なことに巻き込まれる。違いない。他の船員が頼みごとしたら何故か隊長に燃やされたって言ってたし。こいつ日頃どんなデタラメ言ってんだと思った。顔を歪ませながらヤシロが何処かへ行くのを待つ。早く行けよ、こいつめ

「ヤシロってさぁ、隊長と仲良いよな」
「うっわ、それ冗談でも笑えないんですけど」
「…こんなやつが自称右腕とか滅ぶぞ白ひげ海賊団」

何で自称してんだよ。めっちゃ仲悪りぃのにおかしな話だ。お前より遥かに優れた人物はいるのに、隊長は結構こいつを贔屓しているところはあると思う。だが、これは絶対言ってはいけないことだ。ふうん、と興味なさげに話しを聞いていると珍しくやつが乗ってきた。

「そういうモブ男のが仲良いじゃん」
「仲良いっつうか、お前より頼られてるとは思う」
「またまたー」
「……」

…どんだけ無自覚なんだよ、こいつ。明らかにお前よりは気に入られてるだろう。俺に限ったことではなく、船員オールマイティに言えることだ。話しをするのもこんなに疲れる人間も中々いないのではなかろうか。そんなことをしみじみ考えていると、目の前に一際大きな影が一つ出来た。誰だろ、と思い顔をあげると我が隊の偉大なる隊長様が俺たちを見下ろしていた。

「てめぇら何やってんの」
「あ、エース隊長」
「…うっわ」
「おいヤシロてめえ今嫌な顔したよな」
「気のせい気のせい」
「気のせいっていうなら俺の目を見て言えや馬鹿野郎」

あー、また始まったよ、いつものやつ。口を開けば何故この人たちは喧嘩を始めるのだろう。もう少し仲良くしてくれれば二番隊も平和に過ごせるのに。そんなことを思って二人の話に耳を傾ける。

「隊長ってなんでそんなに毎回怒ってるんですか?まえまえから思ってたけど」
「無自覚かよ」
「え?自分のせい?」
「あたかも自分無実って顔すんな!」
「やだなぁそういうの八つ当たりっていうんですよ」
「…腐れ外道だなお前は」

隊長が明らかに正しい。もっといったれ隊長!この隊では隊長しか奴には勝てないであろう。我ながら情けない話だが。ぎゃーぎゃー喚く隊長を見てると、なんだか仏に見える。言い争っていた隊長はハァ、と深いため息をして「おい」とヤシロに呼びかけた。なんだろ、真面目な話みたいだ。

「いいかヤシロ。お前には特例を任せることになった」
「え。すっげぇ珍しいこと起こった」
「不本意ながら。マルコとビスタとイゾウからの伝令だ」
「ここで唯一の良心キャラビスタ隊長が言うなら致し方無い」
「ほんっと調子いいなお前は」

珍しいことが起こったとか言うけれど俺たちにとっては珍しいことではない気がする。なんせ、こうヤシロが貸し出されることは稀ではないからだ。2人ともそれを分かって喧嘩するとかどんだけだよ、とは思うけれど。それは心に仕舞っておく。おっけーっと気の抜けたヤシロの返事で余計に隊長の機嫌が悪くなる。

「んじゃ行って参ります隊長。すっげぇ面倒くさいけど」
「わかったからさっさと行けや」
「寂しいって?泣かないで下さいよ」
「だれが泣くか。むしろ精々する」
「…ほんっと素直じゃないですよねえ」
「燃やすぞこら」
「ジョークジョーク。行ってきます」

ここまでくると隊長にここまで言えるヤシロをやや尊敬する。なんでこうも上司を馬鹿にできるんだろうか。それにしても、気になることが…

「…あの、エース隊長。いつも思うんすけどヤシロは何であんなに任務任せられるんすか?あいついい加減っすよね」
「お。お前いい目持ってんな。分かってくれて嬉しいよ」
「…いや、多分二番隊全員が思ってると思うんすけど」
「びっくりした。あいつそんなに嫌われてんのかウケる」

暗黙の了解だと思いますけど、なんて言えばゲラゲラ隊長は笑う。あんなのがいい奴なわけありえないのは隊長が一番ご存知ではなかろうか。本音をぶちかませば、隊長は笑いながらこう言うのだ。

「…いやぁ、まぁいい加減な奴だけどいざとなったら使える奴だよあいつは」
「珍しいっすね、隊長がヤシロ褒めるなんて」
「褒めてねえよ!」

馬鹿野郎!と怒鳴るあたり。それって認めてるようなもんじゃないかな。我が隊も素直じゃない奴の集まりなのかもしれない。ボソボソと言いにくそうに口を開くけれどきっと本音だろう。

「…まぁ、でもポンコツだけど喧嘩とかそういう部類は得意だとは思うぜ。肝がすわってるし。口喧嘩ならやらせたら一級品だしな」
「あぁー、なんだか納得です…」
「闘ったらそれなりに強えし、欲しいやつはいっぱいいんだよ」
「…それ本人には、」
「言うわけねぇだろ」

ヤシロが使える奴というのは分かる。確かに剣術とか意味もなく強い気がするし。よくビスタ隊長に教えて貰いにいってたっけな。エース隊長もそういう努力は見てるんだろうか。ただ、自分から褒めるってことはしたくないらしい。ツンデレか、と。

「俺が見つけてきたんだ。存分に働かせねえと付け上がるかんな」

そうは言うけれど本当は手放したくないんじゃ。何気いつも楽しそうだもんな。そう思ったが心の内に留めて置いた。だって、もう少しみたいから

「…エース隊長って、なんやかんやヤシロを買ってるんすね」
「買ってるとかそういうの死んでも思いたくねぇわ」

ならなんだっていうのだろう。本音を言わないと伝わらないこともあるのに。ふうん、と隊長の話しを聞いた。

「まぁ、居なきゃ寂しい程度にはなるかもな。あんなやつでも」

それは隊長にとって必要な存在ってことなのだろうか。俺には理解はできないけど、理解はしようとは思う。「そうっすね」2人の喧嘩見られなくなるほど悲しいことはないから今はそれで納得しようと思う。

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