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ティーチ大捜索からだいぶ月日が経つとある日。金欠生活からの脱却(主に自分の材料をクソ火拳野郎に売られたことによる)で、何日ぶりか宿屋に泊まれることになった。とはいえ金が無いのは今もなお変わらない。そんな自分たちは一室二人でベット争奪戦がちょうど終わったところだ。もちろん卑劣な技で火拳野郎の大勝利となって幕を閉じたのだけれど。ほんと腹立つな、このクソ隊長は。ふてくされて、黙って床に横になる自分の頭上でカタンと音がした。なにやら、隊長が良からぬことを考えている模様。思わず顔を上げて怪訝な顔を露わにしてしまった。けれど、火拳野郎は何食わぬ顔してドスっと床に座るではないか。なに、怖い。恐る恐る

「…なんすか、隊長」
「盃だ」
「はぁ?すみません、意味わかんないでスルーしてもいいですか?」
「すんなアホ」

うっわ、すげぇ意味わかんねぇこと言い始めた。盃って。何それ。クソ隊長の顔を見れば何やら言いにくそうにモゾモゾとしている。その行動自体がもはや謎の極致。ようやく口を開く隊長。

「盃をかわすと、血が繋がってなくても兄妹になれるんだ」
「いやいや、そうじゃなくて」

だからどうして盃の話になってんだって聞いてんだよ馬鹿野郎かよ、そう呟けばゴツンと頭が鈍い音と共に痛み出す。「お前マジたまには黙って聞いて本当」とか急に真面目か。なんだか、らしくないなぁと思いここは黙って聞いてあげることとしようではないか。我ながら、ちょう優しい。

「兄妹、なるんすか自分ら」
「ああ」
「すげぇ失礼なこと言ってもいいですか?兄妹とか死んでも嫌です」
「お前マジで一回滅んだ方がいい」

つうかお互いに思ってること同じだろ。だれが成りたいんだって話じゃねーか。心の中で思ってても中々口には出せない。何故ならばこれ以上文句言うとマジで燃やされそうだから!ぜってーそんなのやだし。命には変えられないのだ。グッと言いたい事を飲み込み、根本的なことから少し。

「ていうか何で自分が隊長と盃かわさなきゃならないんですかー?兄妹とか柄じゃないでしょう」
「そうだけども。お前に家族がいねぇの可哀想だと思って」
「…うっわ、最低だ。自分、一応白ひげ海賊団の一員なんですけど。実はウェルカムしてないとか聞きたくねぇーし」
「…なんだ分かってんじゃねぇか。良かったよ、理解が早くて」
「…マジで海に落ちて死ねばいいのにボソリ」
「だから聞こえてるよお前。本当一言多い下僕だな」

酷いことを口走ったのは隊長が最初なのになんでこんなに被害者ぶるんだよ。数々の暴言に納得いかない自分はとりあえず再び横になることにする。そしたら何か布団を引き剥がされた。そして顔面を平手で殴られ起こされる。いってぇなこの野郎、と睨みつければ「なに?やんのか?」と何故か喧嘩腰。だから卑怯なんだってクッソ火拳野郎め。

「いいか。俺には2人の兄弟がいる」
「へぇ初耳。ていうかこの状況で話始めるんですねー隊長。本当精神タフタフ。ある意味尊敬します」
「お前マジで黙って聞くこと覚えろ。真面目な話しだ!」
「怒んないでくださいよジョークジョーク。燃やすのやめてくださいって」

そんな怒鳴らなくても。無実を訴えるようにどうどうと両手を上げればチッ、と舌打ちされた。うっわ、うぜぇ。何なんだよ黙って聞いてあげる身にもなって欲しい。そして隊長、コホンと咳払いし話を続ける。

「ルフィとは会ったな」
「まぁ」
「もう一人いたんだ。昔に死んだけど」
「…うっわ、なんか聞いちゃいけない事聞いた気しかしないんですけど」
「いい奴だったよ、本当に」
「……自分の世界入ってったよこいつ。とことん自分の都合無視なんですねー隊長」

誰も火拳野郎の過去なんて聞いてねぇよボソリ。しかもなんかシリアス的な話だし。顔を歪ませツッコミ入れながら聞く自分の心情は無だ。そんな過去があっても、絶対同情なんてしてやらね。そんなことを胸に秘め、口を開く。

「で?その兄弟とこの盃どう関係あるんですか?マジで理解不能なんですけど」
「だからぁ、お前も仲間に入れてやるっつってんの!」
「…頼んでねーし」
「ははん。顔にはお願い、入れて!て書いてるぜ」
「…どう考えても書いてねぇだろボソリ」

どんだけ自己中なんだよこいつっ。なんか振り回されてるような気がするんですけど。そう言えば「馬鹿野郎、俺が振り回されてんだよ」とかまた訳のわからないことを。

「とりあえず、呑め」
「……」
「なんだよ、その目」
「…いや、なんか意外だなと」
「なにが」

床に用意されたお酒を凝視しながら顎に手を当て珍しく考え込む。結構、クッソ隊長には恨まれてると思ってたんだけどな。ここまでするとは。目の前の火拳野郎を一瞥すると怪訝な顔で睨んでくるし

「隊長がそんな大事な思い出にいつも下僕と罵っている自分を入れてくれるのが」
「……意外か?」
「そらもう。だってメリットないし」
「……」

ね?と問えば隊長は黙りだ。メリットとかデメリットとか自分としてはどうでもいいけれども。そしたら隊長、なんかフッと鼻で笑う。え。なに。それを見てキョトンと目を丸くした。

「…まぁ、そうだな。お前はいつも口を開けば文句ばっかいいやがるし、上司を敬う心もねぇ。馬鹿だし、うっぜぇし、いっそ燃やしてやりたい」
「隊長、自分に相当恨みがあるんですねー。ほぼ悪口だしそれ」
「無いっていう方が可笑しい」
「…本音ぶちかましすぎだろクッソ野郎ボソリ」
「あぁ?なんか言ったか」
「いや、なにも」

ぜってぇ、ほぼ9割の割合で隊長から喧嘩ふっかけてるし。そんなことをボソボソと言えばキッと鋭い眼光が。もう嫌だなぁ、この火拳野郎。そして何を言うのやら。次はため息をしやがった。

「…憎いやつだが、お前を拾ったのは俺だ。あの時から俺がお前を見捨てることはありえねぇ。そういう事なら、まどろっこしい事したくねぇ。考えれば答えは自ずと出てくんだよ」
「……」

うっわ、なんか凄い気持ち悪。隊長が拾う拾わないとかぶっちゃけ興味はないし拾われてねーしって言えばきっと怒るんだろうなぁ。苦い顔していると「…なんか言えよポンコツ」とか言っちゃうあたりマジで憎きクッソ野郎だ。

「…隊長って、本当良く分かんない人ですよね。常日頃、そういうところがあるから部下は付け上がっちゃうんじゃないんですかー?」
「そうだな。お前みたいなやつにな!」

自覚あんなら直せよな。そう思いながらもなんか隊長って大変なんだなと思うのはたまに感じる良心だ。こんなんだからティーチがうんぬんになっちったのではなかろうか。不憫だけど自業自得だ。だからこその自分の出番だ!なんつって

「まぁ、でも感謝くらいはしてあげてもいいですよ」
「なにその得意気。なんだろ、すげぇ腹立つな」
「まぁまぁ落ち着けって。ほら自分だけはこうやって隊長について来てやったんだし大丈夫だって」
「ほんっと燃やしたい」

ポンポンと哀れむように隊長の肩を叩けば手に火が引火した。うおっ!と飛び乗れば「ざまぁ」とか言いやがる。…うぜぇ確かに既に右手は火傷の痕出来てますけれども。自分の傷口えぐる行為は断固反対だ。「…ほんっと外道」ボソリ。急いで火を消したからなんか焦げ臭い。ハァ、と深いため息するとか久しぶり。

「兄妹とか死んでも嫌ですけど、形式上くらいならなってあげてもいいかなとか思ったり」
「ケッ。素直じゃねぇなお前は」
「自分がこれ以上素直になったら隊長、過労でぶっ倒れちゃいますよ。まぁ、それでもいいですけど」
「良くねぇよアホ」

ていうかぶっ倒れろ。まださっきの根に持ってんだからな。とか言ってたらベシンッと頭に鈍い痛みが。またそうやってすぐ手が出るんだから本当クッソだな火拳野郎

「お前みたいなの1人にしとく方がよっぽどめんどくせえ」
「有難き幸せ」
「褒めてねえよ!」
「またまた」

明らか悪い奴になりきれない隊長ってただのツンデレぶり返したやつですよねー。なんて言えば「うるせっ」とか顔を背けるあたり。乱雑に酒を酌み、それを自分へ差し出す。

「知ってましたー?こういうのお節介って言うんですよ。別に自分のことなんて放っておけばいいのに」
「それが出来たら苦労しねぇわバカ」

バカはどっちなんだか。人生初の盃を交わした。 next

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嘘つき、走る

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