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隊長の弟くんに会ってから、クソ隊長は上の空だ。それほど嬉しかったんだろうと思うけど、正直興味なかったり。また、隊長の弱小船で旅をし続ける日々にふけるのだが、一向に目的というものは達成されない。なんのために、グランドラインを逆走してんだって話だ。ゆらゆら揺れる船の中、アラバスタで買い揃えたチョコを口に含む。「またお前はそんなもんに金を…」とか嘆いている隊長を置いておいて久しぶりに真面目な話を切り出した。

「隊長。ぶっちゃけ自分たちオヤジの怒り買っちゃってる感じですよねー?」
「なに今更」
「隊長の弟くんに会って、喜んでるとこ悪いんですけど。ティーチって結局何の実食べたんすか?」
「お前何も知らずについて来たんか。アホか」
「余りに興味なかったもんで」
「…お前、サッチと一応仲よかったよな?」
「一応ね」

サッチが死んだのは正直驚いたけどそれ以前の話だろ。なんでオヤジがあんなに止めたのか分かんなかった。そう言えば隊長は険しい顔をする。あれ?変なこと言いましたー?普通じゃね?て。ただ、問題はそこじゃなかったらしい。

「サッチ死んで悲しくねーんかよお前」
「そら悲しいですけど。それ以上に腹立っちゃってるっていうか。サッチ報われねぇなって」
「お前のそういうとこ本当どうにかした方がいいよマジで」
「隊長に似たんですかね」
「……まじでいってる?」

ティーチってそんなに下剋上とかするやつだっけ。おとなしかったですよねー。だから尚更腹が立った。「殺したい気持ちはわかりますけど」と殺意を露わにしてみる。

「でもぶっちゃけ、あんまオススメしてないんですよね。ティーチおうの」
「何今更。おまえここまでついて来て本当なに」
「いやいや、これには訳が」

そんなメラメラしないでくださいよー。自分、一応変な実とか食ってないんで、とか言えば更に隊長の火力が強くなる。あんなのこの人、話もできねぇ。必死に無実を訴えるように両手を挙げた。そのおかげか、火力がさっきより弱まった模様。よかった、こんなクソ隊長でも話がわかって。そのまま話を続ける。

「あんだけオヤジたち止めてたのに理由あんのかって話じゃないですか」
「……」
「あれ?なんか訳あり?」
「お前こんな時によく直感働くよな」
「だれだって気になるでしょう」

自分は全然知らないんですけど。なんて言えば呆れたように怪訝な顔をする隊長。てゆうか、平隊員に教えてないって時点でどうなの。一応、死ぬ気でついて来た側なのに、と不満をもらせば余計に隊長の顔が引きつっていく。

「もしかしたら、相当やべーんじゃないかって。平静装ってたティーチが動いたってことは、勝気がなきゃやらないでしょー?普通」
「本当感いいなお前」
「当たり前じゃないですか。そんなの」

なめてんのか、このクソ隊長。自分のことバカにしてたのか何なのか知らないけど相当、隠し事があると思われる。ただ、その隊長の顔がまじだったので、口を紡ぐ。相当な覚悟とはこのことか。

「隊長、一応止めましたよ?」
「ああ、知ってる」
「それでもやるんですか?」
「ああ」

バカな上司を持つと部下は苦労するとはよく言ったものだ。本当にそれだなぁ、としみじみ。左手に持っていたチョコの残りを全て口に含んだ。

「……ったく、困った人だよなぁ。自分まだ死にたくないんですけど」
「バカ言え。まだテメェを楽になんかしてやんねぇよ」
「嬉しいような悲しいような。自分で死に場所も選べないんですね」
「当たり前だろ。そう簡単に死なせてたまるかお前みたいなやつ」

うっわ、なにそれ。自分はまるで生き地獄じゃねぇか。一瞬で、顔が引きつったのが自分でもわかる。

「……ほんっと、厄介ですよね」
「泣き言いうなら、働けって」
「それ、言っちゃいますー?」
「お前にしか言えねぇだろ。今は」
「…まぁ、それもそうか」

自分しかいませんもんね、今。なんて悲しい航海なんだろう。早くオヤジたちに合流したいなって思ったり。「本当、孤独。この旅」そう呟いた言葉は広い海に消えた。 next

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嘘つき、走る

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