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「これは飴色になるまで炒めるのですよ」
「はい!」
実は最近、
「できた!」
「素晴らしい!」
いや、初めて会った時から、
「ジャーファル!見て!生姜焼き作ったんだよ!」
「おー!美味しそうですね!」
エナと目を合わせられない。
「はい、食べて」
「ありがとうございます!いただきます!」
冗談じゃない。スパルトスじゃない。(まだ出てませんよ)
けど、私はエナが笑いかけてきたり、また最近抜かした身長のせいか、見上げられたりなどの動作にとことん弱い。
「キキリク〜、良い子にしてた?」
「べー」
「そっぽ向かないでー」
「ぶっ」
「上から見下ろすのもダメ!もう、キキリクはさぁ、いつになったら…
ねえ、ジャーファル?これでも努力してるのよ?毎日こうやって話しかけるの」
「え、ああ、頑張ってますね」
出会ったばかりの時は、お互い敵対していた。
直接的にではなく、シンを暗殺しようとする私達と、エナ達、と言った感じだ。
そして迷宮ブァレフォールでは、人質として捕らえ、配下にした。
エナには、多くの拷問に耐え、ファーランの魔法も何度も自力で解いてしまう精神力があった。
敵地に味方がいなくても、決して主のために折らない心。
素直に、羨ましかった。
自分にもその心が向けられたら良いとも思った。
自分の特別になりつつあるエナも、
自分を特別にすればいい。
「ジャーファルう、助けて!」
「はいはい、今行きますよ」
「助かるよ、私出来ないからね、オムツ替え」
「え…もう前にオムツは卒業して、1人でトイレに行っているでしょう」
「あ、そうなの?でも…したっぽいよ」
「本当だ、匂いが」
「どうしよう、大変!」
「はあ…」
「呼んでくるね!ルルムさぁーん!」
一般的に特別と言ったら、2人だけの時間とか、秘密とか。それがエナとの間に少しはあると思う。
シンやルルムさんには見せられない、お互いにしか打ち明けない自分の弱さや悩みがある。
エナは普通なふりをしていても、辛い時は頼ってくる。この前なんかもそうだ。
突然声をかけてきて、私を倉庫まで連れて来たエナは、泣いてる顔を隠すように私の胸に顔を埋めて、抱きついた。
何かある度に行われる2人だけのそれは、私にとっては良くも悪くも甘い時間。
最近は慣れてきて、腕を背中に回してあげて頭を撫でたりする。
「どうしたの?」
「…ぐっ、ふん」
「落ち着いてからで良いですよ」
呼吸を整えてから、エナが息を深くすう音が聞こえる。
「あのね、……シンバに会いたい」
苦しげにその一言を絞り出して、声をあげて泣き出してしまう。
頼ってくれるのが素直に嬉しい。自分は自分の精一杯の良い答えを彼女に伝えようと、いつも私は思う。
それは、大人になった今もだ。
「エナ、貴女は言いましたよね」
昔から、私にとってエナは、素晴らしい奉仕者だった。自由を主に投げ、自分を捨てた者。
同じく組織の為にと殺しをする自分と、重ねてみた時はとても惨めな気持ちになった。
周りからはまだこんな小さいのに、憐れんだ見られるが、気にしない彼女は強い。シンに仕えることを心から望んでいる。
恩を一生かけて返すと。
今は食料調達の為の役割も、やがて新しい国の偵察を任され部下を持つようになり、最後には密偵部隊、先駆隊となってゆく。まるでスパイのようだが端的に言って汚れ仕事。
平和なシンドリアに、と掲げて立たせる時、エナはそれを自ら買って出たのだ。
私はそれが、自分を自分で過去に縛り付けているように見えてならない。返したい恩とは、どこまで大きなものなのか。
せっかくシンに自由をもらったんだから、主の為だけに、とエナには思い詰めないで欲しい。
結局私は、エナに主であるシンの方ばかり見ないで、自分の方を見て欲しかっただけなのかもしれない。
初めて会って誘拐した時も、自分の部下にしようとした時も。
自分を頼ってもらえるように、1人になろうとするエナを追いかけて。
媚を売ってるようなものだ。
「シンは王になる人だと。それに仕える貴女は、見返りなんて求めちゃいけない。甘えちゃいけない」
たまにショックを受けるような酷い言葉をかけて、
「でも……シンの顔を早く見たいのは私も同じです」
安心できるように同情する言葉をかけて。
もっと頼って、もっと自分を必要とすればいい。
エナが欲しいという気持ち。
純粋ではあるけど、汚くもある醜い独占欲。
意識した日から、それは留まるところを知らない。
ただひたすら、エナに恋い焦がれた。
28.4.8
28.12.22 改訂
ジャーファルが恋を自覚したエピソードを時間かけて書きました。
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