焦るな!ジャーファルくん | ナノ



8/35



「これは飴色になるまで炒めるのですよ」

「はい!」



実は最近、




「できた!」

「素晴らしい!」




いや、初めて会った時から、




「ジャーファル!見て!生姜焼き作ったんだよ!」

「おー!美味しそうですね!」




エナと目を合わせられない。



「はい、食べて」

「ありがとうございます!いただきます!」


冗談じゃない。スパルトスじゃない。(まだ出てませんよ)

けど、私はエナが笑いかけてきたり、また最近抜かした身長のせいか、見上げられたりなどの動作にとことん弱い。




「キキリク〜、良い子にしてた?」

「べー」

「そっぽ向かないでー」

「ぶっ」

「上から見下ろすのもダメ!もう、キキリクはさぁ、いつになったら…

ねえ、ジャーファル?これでも努力してるのよ?毎日こうやって話しかけるの」


「え、ああ、頑張ってますね」




出会ったばかりの時は、お互い敵対していた。

直接的にではなく、シンを暗殺しようとする私達と、エナ達、と言った感じだ。


そして迷宮ブァレフォールでは、人質として捕らえ、配下にした。
エナには、多くの拷問に耐え、ファーランの魔法も何度も自力で解いてしまう精神力があった。
敵地に味方がいなくても、決して主のために折らない心。

素直に、羨ましかった。
自分にもその心が向けられたら良いとも思った。


自分の特別になりつつあるエナも、
自分を特別にすればいい。




「ジャーファルう、助けて!」

「はいはい、今行きますよ」

「助かるよ、私出来ないからね、オムツ替え」

「え…もう前にオムツは卒業して、1人でトイレに行っているでしょう」

「あ、そうなの?でも…したっぽいよ」

「本当だ、匂いが」

「どうしよう、大変!」

「はあ…」

「呼んでくるね!ルルムさぁーん!」




一般的に特別と言ったら、2人だけの時間とか、秘密とか。それがエナとの間に少しはあると思う。

シンやルルムさんには見せられない、お互いにしか打ち明けない自分の弱さや悩みがある。

エナは普通なふりをしていても、辛い時は頼ってくる。この前なんかもそうだ。



突然声をかけてきて、私を倉庫まで連れて来たエナは、泣いてる顔を隠すように私の胸に顔を埋めて、抱きついた。
何かある度に行われる2人だけのそれは、私にとっては良くも悪くも甘い時間。
最近は慣れてきて、腕を背中に回してあげて頭を撫でたりする。

「どうしたの?」

「…ぐっ、ふん」

「落ち着いてからで良いですよ」

呼吸を整えてから、エナが息を深くすう音が聞こえる。

「あのね、……シンバに会いたい」

苦しげにその一言を絞り出して、声をあげて泣き出してしまう。

頼ってくれるのが素直に嬉しい。自分は自分の精一杯の良い答えを彼女に伝えようと、いつも私は思う。




それは、大人になった今もだ。





「エナ、貴女は言いましたよね」



昔から、私にとってエナは、素晴らしい奉仕者だった。自由を主に投げ、自分を捨てた者。

同じく組織の為にと殺しをする自分と、重ねてみた時はとても惨めな気持ちになった。



周りからはまだこんな小さいのに、憐れんだ見られるが、気にしない彼女は強い。シンに仕えることを心から望んでいる。

恩を一生かけて返すと。
今は食料調達の為の役割も、やがて新しい国の偵察を任され部下を持つようになり、最後には密偵部隊、先駆隊となってゆく。まるでスパイのようだが端的に言って汚れ仕事。
平和なシンドリアに、と掲げて立たせる時、エナはそれを自ら買って出たのだ。

私はそれが、自分を自分で過去に縛り付けているように見えてならない。返したい恩とは、どこまで大きなものなのか。

せっかくシンに自由をもらったんだから、主の為だけに、とエナには思い詰めないで欲しい。

結局私は、エナに主であるシンの方ばかり見ないで、自分の方を見て欲しかっただけなのかもしれない。
初めて会って誘拐した時も、自分の部下にしようとした時も。
自分を頼ってもらえるように、1人になろうとするエナを追いかけて。
媚を売ってるようなものだ。



「シンは王になる人だと。それに仕える貴女は、見返りなんて求めちゃいけない。甘えちゃいけない」



たまにショックを受けるような酷い言葉をかけて、


「でも……シンの顔を早く見たいのは私も同じです」


安心できるように同情する言葉をかけて。

もっと頼って、もっと自分を必要とすればいい。
エナが欲しいという気持ち。
純粋ではあるけど、汚くもある醜い独占欲。



意識した日から、それは留まるところを知らない。


ただひたすら、エナに恋い焦がれた。








28.4.8
28.12.22 改訂
ジャーファルが恋を自覚したエピソードを時間かけて書きました。


[back]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -