焦るな!ジャーファルくん | ナノ



35/35









「この御方こそ、真のエリオハプト王



第二王子 シャルルカン様であらせられる!!」





その時が、私たちとシャルルカンの出会いだった。


シャルルカンは、幼すぎて覚えていないらしいが、
出会ったばかりの私たちは王子と一般人という、遠い関係性にあった。



ガフラー・ラーは、怒り口調で私たちに言う。



「我々を侮辱し、シャルルカン様の正当な王位を否定するなんてどういうことだ!?


ナルメスよ。
執政官として恥を知れ!」



王家の人とは思えない、上品さを捨て去った言葉に、私はあきれた。

それに対して、ナルメスもきつく返す。



「私の言っていることは事実だ!


王家の墓に入れず、叙任式をおこなえないことを利用して、
王座を狙っているのはあなたがただろう!?」


「フン……

その程度で揺らぐ王位などこの先が知れているというもの……」




これから、他国との関わりなくしては国はどんどん衰えていくだろう。

やっぱり、私たちが早く迷宮入りしなくては。

私はシンバを急かすように右腕を掴んで、体を揺すった。顔を合わせる。

シンバは、気持ちはわかるが、今じゃない。と静かにこぼして私を手で制した。

ガフラーは続ける。



「やはりシャルルカン様こそが正統であるという証。

官民の多くはすでに先王派に傾きつつある。

いい加減認めたらどうだね?」



「ガフラー!貴様……」


ナルメスがかっとなって前に出ようとするのを、アールマカンが制した。

彼は話し始める。



「私は三十六代目エリオハプト国王。

王としての責務と覚悟はとうにできている。


お前たちが何をしようとも、何を謀ろうとも、私が揺らぐことは、けしてない。


覚えておけ」



アールマカンは、ここにいる人間のなかでも特に冷静だ。

王の器、その言葉がふと頭をよぎった。
シンバ。アールマカン、シャルルカン。


「黙りなさい。偽王アールマカン」


「!!?」


シャルルカンだ。
玉座で大人しく奉られていた彼は、腹違いの兄弟、アールマカンを偽の王、だと。


「王座に着くのは余である。

先王からのご遺志を託され、第一継承権を持つ余こそが正統な王位を継ぐ者である……


なぜなら、余は見たからだーーー


父・先王が次期国王の名としてその棺に刻んだのは……

余の名である」



「……いたっ!

は?なんですかエナいきなり!」


叩かないでくださいよ!と頭を抑えるジャーファル。

「ごめん、突っ込みどころが多くて、つい」


「ついじゃないでしょ………なんで私ですか」


シャルルカン。
彼がいきなり喋り始めたことで彼らは動揺しているが、これはおかしい。

私の突っ込みどころ、とはここである。


なぜもっと早く言わなかったのか。

……皆、初めて聞きましたみたいなリアクションしてるじゃん。


シャルルカンは棺に掘った名を見たのだという。


幼いながらに、しっかりと王座への執着がある。

シャルルカンは、ただ周りの大人に担ぎあげられているだけではないのだ。



ガフラーらは喜んでシャルルカンに言った。


「素晴らしい!ならばこそ、あなた様こそ疑いようもなき正当な国王!!」


「なぜそれをもっと早く言わなかったの!

それが本当なら今すぐにでも叙任式を……正式に発表しなければ!!」




「ふざけるな!!




愚かな………そこまでましてお前は王座がほしいというのか………



王家の面汚しが!!
二度と私の前に現れるな!!」




アールマカンは呆れと怒りを込めてシャルルカンを貶し、この場を去っていった。

いや、呆れと怒りだけではない。
目を開くことのないその顔には、確かな焦りがあった。




私たちが迷宮を消して、シャルルカンが王になる。

これで、ガフラーらのするべきことは決まったようなものだ。

ガフラーは明朝に迎えを出すとシンバに伝え、満足げに帰った。


私は腹が立った。
王家の出ではない私は、政治のために家族と対する気持ちはわからない。


それでも、大言をはきながら、意志の弱い表情をするシャルルカンが、許せなかった。



ヒナホホがシンバに問う。


「本当に引き受けちまってよかったのか、シン?」


「………ああ。

元々「迷宮」なら攻略するつもりだったからな……

内政は俺たちには関係ない。問題ないさ。


それより……」


シンバは、シャルルカンを見ていた。
つられて、私たちも彼を見る。

セレンディーネはシンバに同調した。


「奇遇だな。私も気になっていたところだ」


「……へえ」


「王族の勘……というやつだ」





「こわばってますよ」


シャルルカンを凝視する私の肩に、ジャーファルが手を置いた。
ふいにされたので、私は驚く。


「あ、ごめん」


「気になるんですか」


「………まあ、」






私たちの様子に気づいたのか、シャルルカンはこちらに近寄って、私たちにこう告白した。




「余もお前たちと話したいと思っていた……




異国の者よ、感謝する………

お前たちのおかげで母上とガフラーの注意をそらすことができた……



余はこの王宮であの二人に監視され、

言論も、行動も常に制限され、勝手に動くことは許されない。


母上とガフラーは兄を御することができなかった。


そのかわりに、余を王に据え、政権を自分たちが握ろうとしている。


それを知りながら、余には止めることができなかった………」





なんだ。ちゃんとお兄さん、アールマカンに対する愛情もあるじゃん。



私はシャルルカンの人間らしさを見てほっとした。

さっきは無性に腹が立ったのに、今はかわいいな、とも思える。


意志薄弱な喋り方、表情は変わらなかった。

しかし、聞いていてわかった。


シャルルカンは締めあげられるような王子としての生活の中で、
うまく生きれる方法をあみだしたのだろう。

それが、この、きらびやかな装飾に相反する軟弱そうな佇まい、雰囲気だ。






「先ほどの……先王の棺に余の名が刻まれているという話も、


すべて嘘だ」



唖然とする私たちの中で、セレンディーネが一歩出て問うた。


「おかしいと思ったんだ。

それだけの事実をなぜ正王妃や宰相に伝えていなかったのかとな。

なぜそんな嘘を?」



確かに。
冷静に話を聞いていたら、おかしいとセレンディーネのように思うだろう。


しかし、ガフラーらは、あの時だけはシャルルカンの王座が目前に迫ったような感覚に陥り、浮かれていたといえば仕方ない。


シャルルカンは言おうか迷ったのだろう。
少し黙っていたが、やがて決心したらしくぽつりと話し始めた。



「ああでも言わなければ、

母上らが、あの建造物に人を近寄らせないからだ……



赤の他人の……異国の者に頼むのは筋違いかもしれぬ。

でも、もうお前たちしかいないのだ。



頼む……「迷宮」を消してくれ」



「シャルルカン王子……

もちろん我々もそのつもりです。


ですがひとつ……

もし王家の墓にご自分の名が刻まれていないときは、その立場が危ういものになりかねないのは……


王子の方なのですよ?」



ジャーファルは、シャルルカンにそう注意を促した。
言われたシャルルカンは、変わらず無表情だ。



「承知している。


生まれた時から余と兄は、常に対立を煽られ、矢面に立たせられてきた……


だが、争っているのは周りだけ……

余はそんなこと望んでいない」



シャルルカンは少し何かを思い出したかのように固まったが、すぐ手元の杖をぐっと握って、



「…………嫌われてもいい…

それであるべきエリオハプトに戻れるのなら……」


と言った。

本当はアールマカンと、もっと兄弟らしくいたかっただろう。

だがこうなった以上、どちらかが昇り、どちらかが蹴落とされなければならない。


もう、叶わないのだ。普通なんてものは。



それも全部わかっていて、受け入れて、シャルルカンはそこに立っていた。






翌日。


私たちは「迷宮」へ入った。

中に入って目を開けると、全員が揃っていた。

全員というと、シンバにジャーファル、ヒナホホ、ドラコーン、私、ミストラス、マスルール、セレンディーネ、サヘル、タミーラ。

このミストラス以降の五人は初めての迷宮である。


普段は時間差があるので合流するのは難しい。


その、時間差、といえば、迷宮にいる時間は現実時間では倍になるのか、感覚が狂うのか。

とにかく、エリオハプトの問題を背負った私たちとしては早めに攻略しなければいけなかった。



分かっているシンバは、宝物庫までの近道、と言ってバアルの金属器で魔装し、扉を打ち壊そうとした。




そのとき。

私たちは瞬間移動した。
誰かの魔法に包まれたような感覚。



「どこだ、ここ……」


近くで魔装がとけたシンバが頭をかきながら言った。

それに、誰かの声が答える。上の方だ。



「ここは宝物庫。

私にとってもこの「迷宮」は思い入れがあってね、

壊されたくないからここまで転送させてもらったよ。



私はこの「迷宮」のジン。



精神と傀儡のジン………ゼパル。


ようこそ、人の子よ」




拍子抜けだなあ、もう宝物庫か。

私が言うと、油断しないでくださいよ、とジャーファルに咎められる。


ゼパルは、私たちを見回して不思議そうに言う。
おそらく、シンバに向けてだ。


「君……変わっているね。


複数のジンを引き連れて、まるで“かの王”のようだ……


でも、“かの王”と言うよりむしろ…………………


いや、なんでもない」



なんでもないんかい。

ずこっ、と転けたようなそぶりをすると、やはりジャーファルに睨まれるけど、
いやいや、マスルールもやってたって。

そうアピールするためにマスルールの肩をばしん、と叩くと、え、なんですか、ととぼけられて、
ますますジャーファルの目がきつくなる。

こういう時だけソルティーだわ、と言うと、マスルールはペッパーも入れてください、と言った。

ソルティーに見せかけて実はノリノリなマスルールだ。


はあ、とため息をついて、ジャーファルがゼパルにここで迷宮は終わりかと質問した。




「そうだよ、だって。

君たちの多くは、すでに一人の王に心を決めているようだからね……

……うん、でも、そうだね……


シンドバッド。類いまれなる魔力を持ち、複数の金属器を所持する君はまぎれもなく王の器だ。

だが、


君自身ではなく仲間の力を試す。


王としてどれだけの仲間を従えているのか……




それが、この私ゼパルからの試練だ」






「それって、裏切り者探し?

これからウソ発見器的なのでてくるやつ?」


「どこのバラエティーですか」




「ロシアンルーレット対決」


「それもバラエティーでどうぞ」






29.3.22


[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -