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それは先月前、
先王アテンクメン王が崩御されたことから始まった。
先王には二人の王子がいた。
アールマカン様とその弟君、シャルルカン様だ。
アールマカン様は第二王妃との子息であったために、王位継承権は低かったが、
弟君は齢九と幼く、
アールマカン様が即位された。
しかし、それを快く思わない者がいた。
翌月、第二王妃様が亡くなった。
突然のことだった。
ほどなくして市中でも同様の突然死が続いた。
みな、若き王アールマカン様を支持する者たちだった。
アールマカン様は次々と後ろ盾を失っていった。
そんな時。
先王派と称したガフラー・カーたちは一連の事件を『呪い』といい、
弟君シャルルカン様の即位の正当性を主張し始めた。
「ですが我々も、気づいてはいるのです。
第二王妃様の死、それについだ現王派の者たちの死……
それらがすべて『毒殺』だったこと。
そして恐らく、
それが先王派の者たちの仕業だということも………」
ナルメスはそう言った。
シンはその中での疑問を、つい口に出した。
「そこまでわかっていながら、なぜ何もしない?」
「残念ながら、先王派によるものだと言える決定的な証拠がないのです。
ですが、このまま続けば争いは内紛へとつながる。
どうしたらいいのか……」
「もういい。ナルメス」
ナルメスの言葉が切れて、アールマカン様、と呼ばれた王子がこちらへ近づいた。
ナルメスは私たちの前では話しても、
王の前で話す気はなかったのだろう。
むしろ聞かせてはならない、罪悪感。
「アールマカン様!!」
「異国の旅人よ。我が国の問題で迷惑をかけたな。
これ以上巻き込むわけにはいかない。
早々にこの国を出て行かれた方がいい。
帰りの護衛はこちらで手配する。
………それと、
もう争いは終わりにしよう。
私は明日「王家の墓」に行く」
「なりません!!もしその御身に何かあれば……!!」
「……ナルメス。もうこれしか方法はない……」
王家の墓、というのは危険な場所なのか。
神聖で、祀られるべきものなのに、なぜナルメスがいい顔をしないのか。
それはわからない。
けれど、この気持ちはよくわかる。
きっとこの気持ちを、
私はこれから死ぬほど呑み込むことになるんだろう。
シンが大きな存在になるにつれ。
目の前の王と従者。
数年後の私たちの関係なのかもしれない。
ナルメスはその苦味を呑み込んで、承諾した。
「……ならば我々もお供します。
「王家の墓」に……………いえ、
王家の墓だったもの……
今では謎の建造物に変わってしまったあの場所へーーー!」
「ちょっと待ってください!
その建造物ってもしかして……」
話に置いていかれかけていたかシンが食いついた。
聞き覚えがあるようなフレーズだったからだろう。
「ああ、君たちは旅人だから、知らないのも当然か……。
実はこの国ではもうひとつ問題があってね。
我が国の領内に、ある日突然見たこともない建造物が出現したんだ。
それは、幾度も兵を送るが誰一人として帰ってこない謎の建造物でね……」
急に出現し、何人もの挑戦者が挫折する。
迷宮だ。それしかない。
「その建造物は我が王家にとって重要なある場所……
代々の王が眠る「王家の墓」に、
まるで入れかわるように出現し、「王家の墓」はその建造物と一体化してしまった様相になった。
「王家の墓」は我々にとって最も神聖な場所。
代々の王に見守られ、新たな王が誕生する叙任式をおこなう場でもあるのだ……」
叙任式?
アールマカンの言葉に、シンが質問した。
それにはナルメスが答える。
「エリオハプトでは「王家の墓」で、
先王が指名したものを次期国王にするのが古くからの習わしです。
ーーですが、今や王家の墓は別のものに変わってしまった……
我々はいまだに叙任式をおこなえていないのです。
先王の言葉はその棺に刻まれています。
だが「王家の墓」に入ることのできない我々では内容を確認することはできない。
つまり、アールマカン様が正当な王であるかは、
実は誰にもわからないのです」
「読めてきました。
先王派はそこも狙って別の王を立てようとしている……?」
「そのとおり。
「呪い」をでっち上げ、不安定な王位からアールマカン様を引きずり落とそうと考えているのです」
私がそこに参加すると、
どゆこと、とエナに裾を引っぱられた。
彼らのために迷宮に行くんです。
私がそう言うと、彼女はああ、そう。とあっさり受け入れた。
「我々は信じています。
アールマカン様こそ正当な王であると言うことを、
それが証明できればこの争いが終わることを。
「王家の墓」に行ければ………
あの建造物さえ消えてくれれば………!!」
ナルメスは強く祈るように言う。
それを隣のシンは微笑んで、
「ご安心ください陛下。
その建造物……いや、「迷宮」は、
俺たちにお任せください」
「迷宮」へ行くことを宣言したのだった。
ナルメスらはシンの言葉に衝撃を受けていた。
彼らも、外交をしていれば迷宮を知っていただろう。
そうしたら、アールマカン、
もしくはもうひとりのシャルルカン、という王子のどちらかが、金属器を手に……。
私の考えとは別に、シンは続ける。
「それは今 世界中で出現している「迷宮」で間違いないでしょう。
「迷宮」は危険なところです。
ですが攻略すれば建造物は消え、元の場所に戻ります。
俺たちは二度攻略しています。
ぜひ俺たちにお任せください」
「……シンドバッド。
君たちは……いったい……」
その時、急いだような荒い足音が近づいてくる。
そして、甲高い女性の声だ。
「お待ちなさいあなたたち!!」
ナルメスはとても驚いた。
正直私はまたか、と小声で愚痴をこぼしたくなった。
「宰相ガフラー、それに王妃パトラ様……!!」
「ああナルメス……なんて嘆かわしい。
我々が毒殺や呪いを画策したことなどそのような嘘をつくなんて……!!
国を正しく導けるのは我が息子、
やはりシャルルカンだけのようね!!」
奥の通路から、金属音がして大きな玉座が運ばれてきた。
エナに目を向けると、
何でもかんでも我が息子って言うでしょ、と眉をひそめた。
早く迷宮に行きたくて仕方ないのだろう。
まあ、それに関しては私もだ。
また彼らと、冒険がしたくて仕方ない。
29.3.21
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