焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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夜。私たちは宿屋まで案内してもらい、
私は少年に礼を言った。


「今日はありがとうございました。

すみません。
最初、疑ってしまって………」


「いいえ!もう気にしてないですよ!」


「よければ、明日も町を案内してくれませんか」


「もちろん!よろこんで!」


私は彼と握手を交わした。

変わらず人懐っこい笑顔で私たちに良くしてくれる彼らは、
きっと信用しても大丈夫だ。


近くでは、シンが宿屋の主人に、あんたに客が見えている、と伝えられ、
周りのミストラスらはもう女ができたのかと騒いでいる。




「もう、うるさいですねーー…


明日はもう少しおとなしくさせますから……

どうぞよろしく……」



私が少年の手を握りながらそう言った瞬間。




手から力が抜けて、少年はなんの抵抗もなしに音を立てて倒れた。




そばでは若い三人のうち、一人の女性が悲鳴をあげた。


場の様子に一瞬の沈黙、動揺が走り、シンが駆け寄る。



「どうした、二人とも!?」





私は少年の首、左胸の心臓に脈を確認しようと手を伸ばした。
身体はすでに冷たく、生命の鼓動は感じられない。





「死んで……いるーーー……!!?」






「ジャーファル………まさかお前……




つい昔の癖で人殺しを!?

凍てつく刃が牙をむく!?」



「してません」



これには腹が立った。


私を疑った上に、お世話になった少年の死を前にそれでもボケようとするのだから。



「わかってるよ ジョーダンだよ

危ない、やめてジャーファル」


私は癖で出していた縄縹をしまって、
少年を囲むエリオハプトの人々から少し離れた、ドラコーンらの輪に入った。


「しかし、いったいどういうことなんだ……?


さっきまで俺たちと一緒にいた奴がなんで?」



シンがそう言って、ミストラスと話し始める。


「ジャーファル」


「はい?」


私に声をかけたのはエナだ。

彼女は王宮を出た後、若い三人のうちの女性一人に、
私たちとは別のルートで町を案内してもらっていたのだ。


いわゆるいつもの情報収集を、
適度に変装もしながら、観光だと見られないようにやってみせたのだ。


「その呪い、で今月、二人の死者が出ているらしいよ」


「彼を含めると三人目、ですか」


「うん。
町では、大人から年寄りまでが先王を支持しているから、
現王を支持する若者は肩身がせまいの。

ひどい場合、親に勘当された若者もいたんだよ」



つまり、エナが言いたいのは、

「他殺、ですか?」


「考えられるよね………」


しかし、科学的根拠、証明するだけの知識が私たちにはなかった。


宿屋の広間ではエリオハプトの人々が、
旅人である私たちに不信感を抱いた、嫌悪の視線を容赦なく向ける。


私たちのせいだ、なんて騒ぐ者もいる。



「困りましたね」


「うん………

私たちはよそ者だからなぁ」



困った顔を見合わせるしかできない。

その時だ。奥の方から女性の大声が聞こえた。


「落ち着け 皆の者!!


安心しろ、これは『呪い』などではない……


れっきとした殺人だ」



女の両端には従者が一人ずつ控えている。
この従者二人も女だ。

女が振り返ると、宿屋の主人は、
シンに用があると言ったのはこの人だ、と言った。


まぎれもない。セレンディーネだ。




「すまないな。店主。

ただこの状況を見過ごすことができなくてな……


遺体を見てくれ。
外傷もなく綺麗な状態だ……



だが、
一箇所だけ刺し傷がある。

これは毒針の痕だ。


死亡直後なのにその体温は異常なほど低く、
この筋肉の硬直を考えると………


おそらく心臓毒の一種だ。




寒冷地に群生するギブロス草と
オオフキガエルの体液を混ぜて煎じると、

死の直前まで症状が現れない
こういった猛毒ができる。



この地方ではあまり作られないものだな。

体内に痕跡を残さない毒だ………

わからないのも無理はない。



だが、これは毒殺だ。

『呪い』などではない!!




そんなものに惑わされず冷静に考えるべきだ。


何か異論はあるか?」


私たちだけではない。
さっきまで散々私たちのことを疑っていたエリオハプトの人々らは、彼女の言葉に何も言えない。


「わかったらさっさと警吏を呼べ。


遺体と現場を引き渡さなければな」



数十分後。
私たちにかかった疑いは警吏によって晴れた。

なので私は、改めてセレンディーネとその従者に問う。


「さて、助かりました、という前に事情を伺いましょうか。


なぜあなたたちがここにいるのか………」



部下のサヘルが話そうと身を乗り出して、セレンディーネに止められる。
彼女自身で話す気があるようだ。

「すまない。
彼女たちは私の身を案じてついてきてくれただけ………

勝手にお前らを追いかけたのはこの私だ」


「!!?

砂漠越えしてここまで後を追ったと………!?
どうしてそんな危険な真似を……」


「危険なのは承知だ……
でも私はかつては毒蜘蛛姫と呼ばれた軍人。

充分戦える……足手まといにはならない!

ちゃんと私もお前たちの力になりたい……!!

待っているのはもう嫌だから……

だから…頼む。


私たちをこの旅に同行させてほしい……」


「セレンディーネ姫……」


「わかった」

「シン…!?」



私はシンの決断に反対だ。
思ったよりもこの国の闇は深い。
セレンディーネは同行させず、戻した方がいいだろう。


「砂漠越えしてここまで来たんだぜ?
相当な覚悟だろう。

それにお前もさっきの事件で助かったじゃないか」


「そ、それはそうですけど…」


「それに……彼女らは一度決めたら曲げないさ」


セレンディーネたちは、シンの許しが出たことで、
先ほどの張り詰めた表情とは一変、笑顔も見せている。
私は、うまくシンに言いくるめられた。


それから、私たちはこの事件を伝えに王宮に繰り出す。

夜なのに?と不満をこぼしたエナも引き連れて。
昼間の調査を経て、エナは、王宮の人間はすでにこの事件が起きている理由を突き止めているはずだとシンに言っていた。

だから今更いく必要もない、そういうことだろう。



けれど、シンは知りたがった。
この国の内側にあるさらなる問題、歪みを。






29.3.19


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