焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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私たちはそれからというものの、
エリオハプトの観光地をめぐって王宮へ入った。



王宮内では執政官、ナルメスという男、他二人が出迎えてくれた。

ナルメスは一応の挨拶をした後、私たちをひと通り見る。
警戒されている。
こちらももちろん、ノーバリアなシンバとミストラス以外、
特に私やエナ、マスルールは目を光らせているが。



エリオハプトには、魔除けとして獣の面をつける風習があるらしかった。

なので、眷属機と同化してしまったドラコーンは怪しまれることなく仮面と勘違いされ、ことなきを得た。



そして、いよいよ私たちは王の間へ。


「ようこそ。我がエリオハプトへ。

外からの客人よ。歓迎する」



歓迎しているわけがないのに。



外界のものを急に取り入れるということは、
文化、民族、言語など、国に変化をもたらすことと同じだから。




国王、アールマカン・アメン・ラー。
玉座の彼はこう続けた。


「だが……不思議な一行だ。


イムチャック。それにササンの者がいる。


ただの旅人ではあるまい。
君たちは何者だ?」


シンは威勢良く答えた。


「私はシンドリア商会の当主シンドバッド。

元はレーム、今はバルバッドに拠点を置く、商人でございます。


ご覧の通り、イムチャック、ササン。

ここにはおりませんがアルテミュラと、力のある国々と同盟を結び、多国籍の商会として活動しております。」



この自己紹介も慣れたもので、世界にシンを知らない人はいないと言われていた。


彼らのこの様子だと、外界との交流を絶っていたというのは本当らしい。



「陛下!このエリオハプトは素晴らしい国です。


高度な建築技術、豊富な資源と高い技術の薬学。



陛下は今外交に興味をお持ちでいらっしゃる。

ぜひ私どもにエリオハプトを外界に伝える、
橋渡しとなるような役目を、与えてくれませんでしょうか?


必ずやエリオハプトのため、
陛下の力となることでしょう!!」



その時だ。

奥の廊下の方から、三人、また別の王宮の人間が近寄って陛下に話しかけた。


「お待ちください、若王よ」



「ずいぶん爺らしい言い方」

「こら、エナ」




「どこの馬の骨ともわからぬ連中に

御自らがお出になる必要はありません。

お引き取り願おうか、旅人諸君」



ナルメスらと対比になるような三人は、
私たちに強い口調で述べた。

緊張でこわばるマスルールの背中をなでてやって、
私はシンが引き際を判断するのを見守ることにした。




「私はエリオハプト王国 宰相ガフラー・カー。

こちらは亡き正王のお妃であられる、パトラ様である。



しかし執政官ナルメスよ………

君には絶望したね。


こんな時に若王様を他国の者と面会させるなど、

執政官 失格だな。




今がどういう時期かわかっているのか?


先王が崩御されて、

王子アールマカン様が即位されてからというもの
この国では不吉なことばかり続いている……」



やっぱり、内部で割れていたか。
エナも同じことを思ったのか、目があった。
ガフラーは続ける。



「お前も知らないわけがないだろう?

最近になって原因不明の突然死が増加していることを……

健康な若者が、ある時ふと理由もなく死ぬこの現象。

我々も全力で調査しているが、
町ではなんと言われているか君は知っているかね?




『呪い』だ」



つぎに、正王妃パトラも調子よく話し始める。


「そう!
偉大なる先王は、他国の異分子を嫌い、
エリオハプトだけの独自国家を貫いた御方でしたわ。


なのに現王は
先王のご遺志を無視し、こんなよそ者らを国にいれる始末………

とうてい許されることではありません。



偉大なる先王はきっとお怒りになられていることでしょう」




先王か現王か。


二つの派閥の火花がとび散り、
私たちは立ち尽くしたままだ。入る余地はない。

我慢ならずに、ナルメスは二人に激昂した。


「ガフラー様パトラ様!!

王の御前ですよ!!」


すると、ガフラーは両手を前にひらひらと上げ、謝った。


「これは失礼……

我々はそんなつもりで申したわけではございません。


若王様に、

『呪い』が向かないことを祈るばかりですね………」



年齢は定かではないが、先王についていたガフラーらはナルメスらより一世代上のようだった。

その彼らは文句をつけて帰るだけだったが、
若王様、アールマカンは黙って聞いていた。

これではどちらが大人なのかわからない。


ガフラーらが去った後、今何見せられたの、とエナがこぼしたので、

さあ。と雑に返した。

私たちが邪魔なのは百も承知だ。
エナもわかったうえで、いつものように、からかうつもりで言ったのだろう。



「すまないな、君たち……


外交交渉は後日にしてくれ。


お詫びに宿はこちらで手配させよう」



落ち込んだ様子のナルメスには何も言えなかった。

静かに追い出された私たちは、王宮の外から、改めて外観を眺めた。


「この国もいろいろな事情を抱えているようです」


「ああ……」


しばらくして、エリオハプトを案内してくれていた若い三人と合流した。


そのリーダー格の少年は、私たちに向け謝る。

「すみません……

それについては僕たちから説明させてください。


実はこの国では、つい数ヶ月前に先王が崩御され、
その王子であるアールマカン様が即位し、現王になられました。


先王は対外政策を行なわず、
諸外国との関係を長らく閉ざしていました。


しかし世界情勢が大きく変わる今

それでは遅れをとると、外交政策に切りかえたのは現王でした。

僕たち若い世代はそれに賛同し、支持しました。


ですが………


保守的な年寄りたちは反対しています。


今や国内は現王派と先王派で別れてしまっているんです……」



今朝の話の視線はこれだったのか。

シンは真剣な表情で話を聞いていたが、エナはくだらないものを見るような顔をしていた。

こういう時、彼女はなかなか偏った考えをする。
年寄りは若い者に任せればいい、とか、
先王より現王、だとか、人として平等な目で見ないのだ。

エナへ彼に聞いた。



「彼らを説得できないの?なんとかこう、論破を」



「今はできません。


でも……いつか彼らも分かってくれるはずです。





これが未来のエリオハプトのためになる。


僕たちはそう信じていますから!」





綺麗で爽やかな笑顔だった。

汚れのない澄んだ川底を見るような、そんな気持ちになった。

あくまで予感だが、若者の突然死というものが、
保守派の年寄りとの対立に関わりがあるものだとしたら。


たくさんの可能性を秘めたこの国は、至極もったいない気がした。





29.3.18


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