焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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レーム帝国 南方の地

通称 「 暗黒大陸 」



レームの属国であるカタルゴをのぞいて、
その大陸のほとんどは 未開の地 といわれる。






「暗黒大陸は北と南で気候が変わり、
我々が今いる北部ではこのような砂漠地帯が広がります。

南方にくだるにつれ熱帯化し、低木の草原地帯になるそうです」



「は?今日のおてんき?」←エナ



「未開の地といわれるのは主に南部の方で……」


「見渡すかぎりの地平線だー!!」←ヒナホホ



「我々が目指すのは南部の……」


「あそこにはオアシスが!!」←ミストラス



「ってきいてますかシン!!?」


ジャーファルさんがシンドバッドさんの胸ぐらをつかんだ。
ドラコーンさん、ヒナホホさん、ミストラスさん、エナさんたちはそこを囲ってさわいでいる。

その少し後ろで、ひとり俺は緊張をかくせない。




なんせここが、暗黒大陸。

俺の、ファナリスの故郷なのだから。






「マスルールの故郷か…家族や仲間が見つかるといいな」


「ああ、そうだな」


ヒナホホさんとシンドバッドさんがそう言った。

ジャーファルさんは、そこに割り入って別の民族も存在していることを話す。




「エリオハプト。


何百年も続く王家が統治する神秘の国と言われ、
ササンやアルテミュラに勝るとも劣らぬ力を持つといううわさも……」


「マサルトモオトラヌ……」


「かっこいいからって繰り返すなよエナ」


「ジャーファルがいないとボキャブラリーが増えないの」





「まあ…

南部に向かう私たちには関係ない話でしょうが…」



「よし!行こう」


「ええ そうですね、行き…


…………………

行くんですね………」


「ああ、行くんだ。



ここに暮らす人々なら、この土地に詳しいはずだろ。


俺たちの国づくりの参考になるかもしれない。

見ておくに越したことはないさ」



「ですが、ファナリスが住むといわれる南部とは別の方向です。

マスルールがどう思うか……」


「行きます」


「ほら!マスルールも行くって言ってるぞ」


「そうじゃなくて!
すぐシンに同意しちゃダメですよ!」


「『大丈夫です。
自分の意思で決めてます』

な!!言ってる!!」




「子供をだしに使うなって言ってるんですよ!!」


「してないってば!!」



「あれ?」


急にミストラスさんが俺を指さして言う。




「………そういえばマスルール君。


前より、大きくなってません?」



隣ではジャーファルさんがビクッとふるえ、
鏡が光を反射させたように反対側にドラコーンさん、ヒナホホさんと談笑していたエナさんもふるえる。


「あ、やっぱり〜
俺もそう思ってたんだよ〜」

「成長期っすかねー」

「うっす、商会の飯うまいんで………」


シンドバッドさん、ミストラスさん、ヒナホホさん、ドラコーンさんに囲まれ、口々に言われる。

その近くで、ジャーファルさんはものすごいオーラをだしている。
エナさんにいたっては目をギラギラとさせて俺を見ていた。







その時だ。

複数の足音と共に、何者かがあらわれた。




「へへ……
子供連れで砂漠越えかい。


痛い目見ないうちに荷物を置いてきな」









「…………なんだあいつら。
エナみたいな目えしてんな」



「うるせえ、まずはお前からだ」


「エナさん、なに仲間入りしてんスか」




「お前たちが盗賊か」


「カタルゴの警備兵が言っていた通りですね!シンドバッドさん」


「ああ。

痛い目見るのはそっち……ん?」



エナさんをなだめる俺、
後ろで腕を組んでいるヒナホホさんとドラコーンさん。

ミストラスさんとシンドバッドさんは
敵を目の前にしても余裕で、
雑誌で見た名所をやっとその目で見れた観光客か、というツッコミが似合うくらいの気の抜けよう。



そのように並んでいた俺たちのなかで、
スッとジャーファルさんだけ前に出た。




そして、一瞬にして縄で盗賊をしめあげてしまう。



「あわれな盗賊です。

私たちを知らないでケンカをうるなんて。




今の私は手加減できませんので、
覚悟してくださいね」





「…サディスティックだな」


「ジャーファルははじめっからSだったろ?」


「…は?服の話か?」


「え?

………え?」







「見てよミストラス。
ジャーファルのあの、鬼の形相」


「うわ、やばいっすね、
いや、でも、エナさんも真顔やばいっす」


「え?それは嫌だな、どうしよ、

どうするミストラス………笑う?ほえる?」


「どっちも怖いっす」




ドラコーンさんにヒナホホさん、エナさんにミストラスさんはそんなまぬけなやりとりをしながら、盗賊を圧倒。
俺たちは勝利を収めた。




その後、
夜には火を炊き、歩き続け、
暑さに弱いヒナホホさんを皆で支えながらもなんとか、
エリオハプトに到着することができた。

















神秘の国 エリオハプト王国


独自の巨石文化を築くこの国では、
巨大遺跡群のような都市を形成し、高度な建築技術を有している。


その様は訪れるものを驚かせ、
神秘の世界に誘うという………








「大きいですねえ…
どうやって建てているんでしょう」


私が素直な感想をのべると、隣でヒナホホ殿は自身とドラコーン殿と比べて言った。


「俺たち二人がかすむデカさだな」



「はっ!!」


「どうしたミストラス?」

「た、大変です」


「あ、アルテミュラ以上に、この国………

女性の露出が………」



「うわーお。びーだ、びー」


「こらエナ。
ここはまだ未開の地ですから、規制音は気軽に頼めないんです。控えなさい」


「そういう問題なんですか?」




ミストラスとシンはいつもこうだが、
エナは普段は潜入捜査やなんやらでいない。
二人が騒いでいるだけで、静めるのが大変だというのに、
エナも胸の前で輪っかを作ってはしゃいでいる。

いつもの倍、苦労しそうだ。
私は彼女の頭を一応叩いておいた。




「女性があんなに胸をはだけているなんて、
目のやり場に困りますよ!」


「いや、なんの問題もない!

この国はそう言った文化なんだろう。

ならばこそこそせず、俺たちは堂々とするべきなんだ」


「ということは!?」


「俺たちは正面から堂々と見ていいということなんだ!!」


「そうですね!さすがシンドバッドさん!!」





「おい、待てお前ら」


私は決め台詞を捨て去ろうとする二人を回収して
縄でしめあげる。


「何をするんだねジャーファル君!」


「それはこっちのセリフですよ。



あんたのそういう行動が、

ササンや、
特に

アルテミュラで!!


大変な目にあったのもう忘れたんですか!?

もうトラブルに巻き込まれたくないんですよ!!」


「なんの騒ぎだ!?」


「ほら!来たじゃないですか」



エリオハプトの人が三人ほど寄ってくる。
彼らは、私たちを見て驚いた。


「この国の……人じゃない!?」




まずい。
また騒ぎになってはいけないと、私は焦った。

しかし、彼らは爽やかな笑顔で、そのうちの一人は二言目にこういったのだ。


「ようこそ!神秘の国 エリオハプトへ!旅人さん!


砂漠越えは大変だったでしょう。」


あろうことか。手まで差し伸べて、私たちを歓迎するようだった。


「よろしければ宿屋まで案内しますよ!」


さすが神秘の国の人、彼らは輝いて見えた。

私たちは今まで数カ国を回って来たが、現地民にこれほどいい待遇をされたことはなかった。

よって、彼らのこころよい行動は怪しく見える。


「それとも観光案内がいいですか!?」

「それはいいな」


「すみません。

見ず知らずの方にそこまでしてもらう理由がありません」


シンがいい顔をしたのを、私はきっぱりと断るつもりで言った。
また谷底に落とされてはかなわない。


「何か別の目的があるのでしたら他を当たってください」


「あ……

すみません……僕たちまだ慣れてなくて……

説明がまだでしたね。




このエリオハプトは、砂漠に囲まれ、
長い間外との交流がないままでした。


ですが、現王の新たな政策により、
今後は積極的に他国と交流しようという流れになっているんです。


僕たち若い世代が率先して交流し、その架け橋になろうと、
こうやって旅人さんに声をかけさせてもらっていたんです。



でも、焦って説明不足でしたね。

警戒させてしまってすみませんでした」



「ジャーファル、お兄さんらいい人じゃん」


「そう言われてもですね、」



エリオハプトの若い三人衆は、そろって私たちに頭を下げる。

隣に来て耳打ちするエナに、まだ警戒は解けない私はあいまいな返事をした。
シンがこっちを向いて話す。


「ジャーファル…
そういうことならお願いしてもいいんじゃないか?

観光案内」


「完全に信用するんですか?」


私に答えず、シンは彼らに頼んでしまった。

頼まれた彼らは晴れやかな顔で、シンとがっちり握手した。

彼らはもう楽しそうな雰囲気だが、私は不安をぬぐえない。

彼らの歓迎とは裏腹に、
この国に入ってから、ずっと異様な視線を感じる。


後ろからゆっくりついていこうと歩みを止めた私に、
マスルールとエナが近寄って、私の肩に手を置いた。




「ジャーファル」


「エナ?」


「完全に、は、信用しなくていいと思うよ。

私たちは、まだこの国に足の親指しかつけてない」


「親指から行くんスか」


「親指から行くとも」


「かかと派っス」


「つま先接地のほうがね、足に負担が、」


「どうでもいいですよ。
まあ、今は何もできませんから。
二人とも、警戒だけは怠らないように」


「うっス」


「ジャーファルはこういう視線はゾクゾクするタイプだからね」


「変態みたいな言い方やめてください」


「私はね、ジャーファルのそういう視線がゾクゾクする」


「ただの変態か」


「おっ、おっ?バトるか?おっ?」


「スモウなら負けませんから」







29.3.17


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