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「全部隊ッ、異常ありません!」
「このままキジデスを抜けて行け!」
キジデスの森を抜ければ隠れ宿があり、そこへ泊まる事になっていた。
後にエナちゃんは報告書にこう書いた。右方から、味方ではない者の気配がして直ぐ。馬車の窓が割れ、中が揺れる。それも一瞬で、白い服を纏った小さな子供は左方の窓から勢いよく飛び出す。苦無を投げると、子供は茂みがある左へ転がり消えた。
(無事ですか!筆頭!)
(あ、怪我が!)
(…チッ。脛を凶器でやられたか。あの女、俺に気づくのも早かったしなぁ。
ん?これは…何の武器だ…?)
*
「フェネ様!非番に申し訳ございません!
王が!王を乗せた馬車が襲われました!」
「何だって!?」
「フェネ様、指示を!」
「馬の準備を!国軍の一部隊と僕で行く!」
そうして僕は軍を引き連れ馬を走らせた。焦れば焦るほど、自分の嫌な予感が確信に変わっていくのを感じた。
「全員!馬を止めろ!」
「スクードは不在です。王は、王は彼方に!」
スクードは不在です。自分は“シガラキ”だと示す言葉だった。“シガラキ”の小僧が指した先には、血に濡れた様子のない、窓が割れただけの馬車が停まっていた。僕達は馬から降りて、中を調べるため馬車の扉を開けたんだ。
今でも覚えているよ。
むせ返るような血の匂いがして、寄り添うように最期を迎えた2人がいたんだ。
それは王と、カナだった。
とても綺麗な殺し方だった。外から見ても中の者が死んでいるか分からない程にね。
そこでエナちゃんは言ったんだよ。
白い死神、みたいだったってーーー
嗚呼、疲れたな。僕は、何故。何の為に。
忠誠心など綺麗なものは残っていなくて、ただ震える膝を眺めた。もう一度二人の様を見るのは気が引けた。
後ろから、親友に話しかけられた。声に耳を傾けながら、僕にはもう、彼しか居ないのかな、漠然と思った。
「この女は王の正妻、テテ殿では無いだろう?」
「…ああ、そうだろうね」
この女、孕んで居る。
レンからこぼれた言葉は残酷だった。
全てが繋がったからだ。カナにデートを断られたのも、お腹が膨れて居た事も。
後に彼女から産まれた子供、それが、スパダなんだよ。
やはりスパダは、王とカナの間の子だった。
“シガラキ”が滅亡した。ドミノ倒しのような負の連続。それも全て王の嫉妬のせいだと思うと、くだらなくて、僕は今までが馬鹿らしくなった。
許してくれ…その意味は。
王は、僕がテテに好意が無い事を知りながら…カナを騙して弱みに付け込んだのだろう。
次の王が先代の弟へ引き継がれ、僕は次代の従者も任される事になった。
元は養女だった為、王宮内で血縁者のいなくなったテテは居場所が無くなった。
テテは、折り入って話があると、私を呼び出した。
彼女はあの時のよりも幾分か吹っ切れたように笑った。
「貴方をこっそりとお慕いしていました。
…あの人には、分かっていたのですね」
僕は、この先を知るかのように威張ってみせた。
「先代は気付いていたようでした。ですが、先代の行いは決して良い事ではありません」
「では、私達も好きなようにすれば良い」
目が合って、迷う事なく唇を重ねた。
「…私ではいけませんか?
……もう、遅いですか?」
僕達は、それを忘れてはいけない。
いつも互いを見て思い出すんだ。あの忌々しい事件を。
スパダは先代の実子だから、今王宮で生活しているんだ。黙っていて悪かったよ。
スパダは、次の王になる子だ。
28.8.20
29.2.5 大幅改訂
スパダはスパゲッティから、フェネはフェットチーネから名前を付けています。カナ、テテは適当に付けました。王は王です。
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