焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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「失望しただ?あぁ、失望したよ。

全ての責任は俺が取る?…全然背負えてねーじゃねェか!?

勝手に自暴自棄になって諦めて、終わったような顔しやがって…


いいか、俺はなーーー…



テメェのその甘い考えに、失望したって言ってんだよ!!」


きつい、しんどい、そんなの誰だって同じだ。
誰だって綺麗に生きて死にたくて、
そんなやり方を模索しながら終わって行く。



「テメェのやった事がマーデルやパルテビアと同じだ?
それで自分が汚れた人間だって卑下すんのか!
ふざけんじゃねェ!!

こっちだって落とし前つけるためにあのババァと同じ手口でマリアデル商会をハメたんだ!

テメェが必死こいて守った商会を巻き込んで、ラシッド王も利用して、法に引っかからないだけの最低な詐欺に手ぇ染めてんだよ!!」


いつから互いの価値観を掛け違えたか。
恐らく最初からだろうが、今気付いた。
それでも、私はシンの作る全ての理想が叶った国を期待していた。



「俺もテメェも同罪だ。
その手はもう汚れてんだよ。それを自分だけは、お綺麗な手のままでテメェの夢を実現できると
本気で思っていたのかよ!!

思い出せよ。俺に語った自分の夢を、その夢は手を汚したら諦めるようなそんな安っぽいものだったか?
違うだろ!!?

作れよ。その汚れた手で国を、世界を、泣き事言ってる暇はねーんだよ、あんたが掲げたバカみたいな夢を実現する為に、俺はもう覚悟を決めてんだから…」


いつか、私とシンはこんな会話を交わした。


「めんどくせ〜今から勉強して商人になるって…王様になるなんてまだ先じゃねーか。ジンの力でドカンと一発できねーのか?」

「ジャーファル君、物事には順序だがね」

「お前が王様になるって言うからついてきたのに損してばっかりだ」

「ジャーファル、俺はな、理不尽な世界を変える為に国を作りたいと思っている…
でもそれは手段であって俺自身が王になりたいっていうのとは少し違うんだ。

だから…もしお前が何かやりたい事でもあるなら…無理についてこなくて良いんだぞ」

「はっ、バカじゃねーの」

「バカって何だよ」

「別に俺も王様に拘ってる訳じゃねーし。
ならとっとと実現しろよ。その馬鹿げた空想みたいな綺麗事をよ。

だから俺も勝手にやらせてもらうぜ。だってお前ーー…」


王の器。
背負うのは存外難しいのかもしれない。
それでも、それでも。



「シン、立ちなさい。
…次、貴方が弱音を吐いたその時は…
遠慮なく、ブッ殺してやるからよ」


シンは、泣いていた。



「俺みたいな奴を助けるほどのお人好しだからな。甘っちょろいのが主だと心配だらけだぜ。
俺が勝手にお前を手伝ってやるよ」

私は以前、そんな本心を零した事がある。
果たす事が、自分なりの恩返しのつもりだった。

「すまなかったな。ジャーファル」

「ええ。手のかかる主ですよ」

私はシンの手を引いて立たせた。そこにマスルールと奴隷達が来る。

「あの…シンドバッド…」

「ジャーファル…この子達も船に乗せてやってくれないか…?
反乱を起こす事が目的だったとはいえ、奴隷達を解放したいというのも本当の気持ちだった…
俺の運命に巻き込んでしまった贖罪に…生き残ったこいつらだけでも…」

「当然ですよ。全ての責任は俺が取る。
…貴方が言ったんですから」

「あぁ、その通りだな」



シンは、数ヶ月間奴隷を経験し、当主としてシンドリア商会へ帰ってきた。

「おかえり、シンドバッド」



その後、シンと私、ヒナホホ殿はラシッド王と面会、また別方面ではエナを探す為の特殊部隊が組まれた。









「どうぞ、入って」「…お邪魔します」

フェネの家に上がり込んだ私は、彼と妻テテと共に、遅めの昼食を取った。
食のマナーは地域や家庭ごとに違うものだが、ここでは食事中に話をしても良いようだった。

「あの…家族写真に写っていた、男の子は?」

「ああ、今は剣の稽古に王宮まで行ってるんだよ。明日には帰ってくる。会いたいのかい?」

頷いた。フェネはじゃあ明日に、と言って私の青い目が元に戻ったと指摘した。フェネは、私の薬が切れ、目の色が茶になれば、“シガラキ”について教えると約束していた。



「眼を見せてごらん」

その日の夜。戻ったね。微笑んでフェネは、リビングでホットココアを飲んでいた私の対極の椅子に座った。

「もう、良いかな」

早く話したいらしく、しかし私の様子も伺って眉を下げていた。世で優男、の類に入る彼だ。頷くと、本当に?と聞いてきたので、それに答えて二度頷いた。
彼は、なるべく急がないように、ゆっくり話すから、と言ったので、私は今更になって緊張した。


古来から極東の島国を真似て作られた組織、“シガラキ”。
暗殺から護衛、スパイをこなし、頭脳と身体能力に秀でる国のお抱え武闘集団として腕を買われていた。

「お前達に、新たな任務を与えよう」

「明日、私は別荘に行く。妻とお腹の子供、3人でだ。お前らにはその護衛を任せる」


「4年前、僕は分家の生まれで、国王の従者を勤めていた。
生活は人並み以上に充実していてね、
素晴らしい王に従者として仕える事ができた。俺の誇りだったんだ。
王は優しく強かった。側室は一切取らず、正妻を一途に愛する男だった。

私情を持ち出すと、僕には同棲する彼女がいて、同じ王宮の料理人だった。

その時は国のお抱え武闘集団、“シガラキ”の護衛、他国の密偵の成果は素晴らしかった。その支えもあり、国の情勢は安定していたんだ。

だが、幸福の渦中で忘れかけていた不幸は、突然訪れる」



「お前は…私の正妻を、娶る気はあるか」
ある日の王は、私にこんな言葉を掛けた。

「何をおっしゃるのです。自分は従者の身分故、そのような、」
「惚れているのだろう。あの女に」

哀愁が漂うその姿は、怖い程脳裏に焼き付き、忘れられなかった。

私はそんな目で見てはいなかった。彼女には王がいる。倉庫で駄弁る彼等から、こんな会話が聞こえた事も勿論一度では無かったが、王宮の者達は強く律して破る事は無いと信じている。

「テテは…私を見てはくれなくなった。
あの女が見ているのはお前だよ、フェネ」

「何かの間違えでは…?」

「間違えなどではない。テテは、確かに私の隣にいるお前を見ていた。今もだ。

…もう、限界だ。夫婦同士であるというのに、愛する女は別の者を見ている。

だから許してくれ…フェネ」

それは大きな予兆だった。
後日。僕が王室に向かっている時。
部屋の前で彼女の声がしたんだ。

「カナ?」

カナとは、料理人、僕の当時の彼女。
王と彼女の声だけれど、内容は聞き取れない。
大方、夕飯の献立の話だろうと思ったから、彼女が退室するまで部屋の前で待っていた。漸く、扉から彼女が出て来た時、僕は偶然を装って扉を開ける一歩手前の位置にいた。

「やぁ、カナ。用が?」
「ええ…そうよ。貴方も?」
「うん」
「仕事に戻るわ」
「うん、後でね」

恋人としては、随分冷たい会話だった。しかし、職務中はこの程度だろう。そう自分を満足させて、僕は開き掛けの扉に手を置いた。
行ってしまった彼女の服には、見覚えがなかったのに。

6日後。

「明日、王は別荘で休まれるそうだ。護衛は“シガラキ”に任せてある。僕らも明日、何処かへ出かけないか?」

僕は彼女にそう話を振った。フランクな誘いだ。最近は彼女から誘わなくなったよな、片隅に置いてある事実を蹴っ飛ばす。

「いい提案ね。けど、私明日は友達と買物をする予定を入れてしまったの。ごめんなさいね」

結局、断られてしまったけれど。明日は留守番かな。僕は彼女に気が利いた言葉を掛けた。

「ああ、いいよ。お腹も大きくなってきたんだから、無理せずに楽しんできて」

翌日、早朝。僕は王の忘れ物を取りに王室に寄ってから彼の待機する馬車へ急いだ。

「城の留守は頼むぞ」

そうして王と妃様のいる馬車は発ち、僕は王宮に戻る。そこには、居る筈がない彼女が、

「フェネ殿!王は何処へ?!」

王妃テテだった。彼女は王の別荘行きに省かれたのだ。

「王は昨日の夜、別荘の話などしておられませんでしたわ」

「左様ですか…」

彼女にはとても言えない。同じ馬車の中には別の女性が居たなど。

「テテ様。今我々が出来ることはありません。部屋にお戻り下さい。
王宮内の者は、妃様が同行していると思っております。貴女の姿が見えては、皆怪しまれるかと」

「分かりました。戻ります」

今に消えそうな彼女の腕を掴みたい輩は、沢山いるのだろう。可哀想な事に、彼女は離されたのだから。
あ、ちょっと待って、そう言われて僕は、彼女を振り返った。

「後で、お茶を入れに来て頂ける?」

「お伺いします」

彼女は、涙を殺しながら強く、強く立って笑んだ。



ごめんなさい。僕は知っている。

貴女の想いも、貴女が置いていかれた真相も。







28.8.20
29.2.5 大幅改訂


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