焦るな!ジャーファルくん | ナノ



18/35






【レーム帝国 ナーポリア シンドリア商会】

「今日もシンドリア商会は繁盛しているな、みんな!」

「シンドバッド会長!」

「お戻りになられたのですね!」

私達はミラ女王の治めるアルテミュラからシンドリア商館へと帰って来たのだった。

「長い間留守にしてすまなかったな。状況を確認したい。ルルムはいるか?」

「ルルム殿は臨月のため只今里帰り中でして…」

暫く会ってないキキリクの事を思い出す。
他方では、ミストラスとエナが話しているのを見つけた。
ひと段落したところ、私はエナの手を引き、倉庫に酒樽を取りに行った。
途中ですれ違ったのは、当主の留守の間代わりを務めていたヴィッテルだ。シンは彼に礼を言い、更に

「ササンとアルテミュラの仲間も皆に紹介しないといけないしな!
と、来たらもちろん…

「宴会だーーー!!!」



「もしかして、見越して?」
倉庫に着いてからこっそり聞いたエナの口に人差し指を当て、酒瓶を渡した。





こっちはササンのミストラス。
ササン騎士王の子息で、こう見えて立派な騎士だ。

アルテミュラのパルシネ。
彼女は本国の外交官も務めている。

2人はササン、アルテミュラ両国との友好の象徴であり、代表者だ。
商会としては交易に関わる大事な食客になる。
この新しい仲間を歓迎してやってくれ!





「皆!シンドリア商会はこれからもっと大きくなる!!
ササン、アルテミュラ、イムチャック…この3国は俺達に未来を与えてくれる…
頼もしく愛おしい最高の仲間達だ。
仕事も人員ももっともっと増えるだろう。でも俺達ならできるさ。

俺達の国(せかい)を作ろう。理想の未来のために!!」

「おーー!!!」

シンはこうして引っ張る。
お互いの顔を見合わせて微笑んだ私とエナは酒を飲みはしないが、もう充分に酔ったように気分が良かった。

その後、シンを囲んで私達はこれからの事について確認した。

「ふう…やらなきゃいけないことばかりで大忙しですね、エナ、

って酒臭っ!!」

「んなこと言わないでー、ジャーファルー」

私の腕に抱きつくエナは、いつの間に飲んだのか酒に酔っていた。とにかく近い。距離が。

「飲んでるでしょう!まだ貴女は幼いんですからダメだと言ったのに!」

「何言ってるの?もう私も12だし、立派なレディーだよ?」

「貴女はアルテミュラで何を覚えてきたんですか!」

エナは首に手を回して色っぽく耳元で囁く。

「…オトコの誘い方」「はぁー!?」

と、頑張って抵抗しても彼女の抱きつく腕を解けず負けてしまう。
恋とは時に人を弱くするものである。
ヒナホホに声をかけられる。

「おーい、何じゃれあってんだ小物共〜」

「エナ、離れて」「はーい」

「ふう、」

「ジャーファル、あれ何?」

その時、突然の来客に商会の一部は騒然とする。二足歩行の怪物1体とその連れ3人。
ドラコーンとセレンディーネ、そしてその元侍女、サヘルとタミーラであった。

4人を奥の方へ通す。シンは久々の再会を喜んだ。

「久しぶりだな、ドラコーン。見ない間にお前随分変わったな」

「…お前は変わらんな」

「えーそうか!?」

和やかな雰囲気に合わず、セレンディーネは威嚇している。ドラコーンを睨んだ。

「………ドラグル」

「大丈夫…人払いは済ませてある。

此処にいるのはお前の過去を知り、お前と共に行動してきた仲間だけだ。
安心して話してくれ…」

その通りだった。部屋には4人の客とシンの他に、エナやヒナホホ、私、ヴィッテル、マハドしか居なかった。

「ありがとう。シンドバッド…」

「こんな奴に話すことなんて何も無い。その男は裏切り者だ」

「姫様!」

ドラコーンはシンに感謝した。
しかしセレンディーネは違った。彼女はシンを恨んで敵だと言う。
警戒を解かない彼女から、道中の過酷さが伺えた。

「説明は私からさせて下さい…」

サヘルが話し始める。
彼らがパルテビラに追われ、逃げてきたその一部始終は、セレンディーネの心を荒らすには充分すぎる事だった。
経緯を知った私達は、ドラコーン達に睡眠をとるように言い、休ませた。






夜。私達の集まる部屋で、エナはシンと並んで巻物を見ていた。部屋に入って私は話し掛ける。

「シン。全員に充分な食事を与え、湯浴みさせました。今は寝所に入ったそうです。
店子の話によると倒れるように寝入ったとか…
よほど憔悴しきっていたのでしょうね…」

「そうか…」

サヘルが入室した。彼女は真っ直ぐシンに向かい、頭を下げた。

「シンドバッド様、先ほどは姫様が失礼しました…
にも関わらずこのような恩情を賜り、感謝します」

「そんな事…貴女も早く休まれて…」

「いいえ。帝都から脱出して我々がどうなったのか…まだ肝心の話が終わっておりません。

どうか…姫様を許してあげてほしい。
彼女を、私達を追い込んだ陰惨な逃亡生活を…
ドラグル様の悲痛な環境を…知って下さい。

この一年間の事を…」

パルテビラからの大勢の追っ手シャム=ラシュと対峙する危機的な状況の中、ドラコーンはバアルの眷属器と同化した。

圧倒的な力を手に入れた彼等は、追っ手から逃げる事に成功する。しかし。同化した彼の怪物のような姿では街を歩く事は出来なかった。

「そうして我々はレームを目指し、街を転々とし港を目指しました。
今でも分かりません。
あれが…正しい事だったのかどうか」

「現実的に考えてドラコーン殿は人里には降りられないでしょう」

「間違ってはいない…だが…」

「此処からは私の憶測になってしまいますが」



「サヘル殿。もう良いのです」

新たにひとつ声が加わる。
ドラコーンだ。彼は継いで説明する。

ある日。ドラコーンは必死の思いで盗った商隊(キャラバン)から、シンの書いた書物を見つける。
彼は助力を求めてシンへの怒りに染まっていたセレンディーネに内緒で、サヘルに相談していた。

それから、セレンディーネを連れ此処へ来た。だが彼女は理解した途端、騙されたと取り乱し今に至る。


「これが…私達の一年間の真実です」


加えて、ドラコーンは眷属器との同化についてシンに説明する。

「眷属同化により私は人間の姿を捨てた…それがこの姿なのだ。
もし私以外にも眷属器を発動させたものがいるなら気を付けろ。

私のようになりたくないのであればな…」

眷属器を発動させたのは、1年前のエナと私だ。
怖かった。これで主人の力になれるのならと、心寄り添わせるだけでは我慢ならない。
シンの赴く先に同行出来ないとなると、大きな戦力を持て余す。それは果たして、眷族の意味を成すのか。

拒めない事実を受け入れる覚悟は、まだ無い。





ドラコーン達も部屋に帰った後、私は彼等を食客として他国に送る事を提案した。
それをシンは蹴り、商館に置くと言い出したのだ。

「ジャーファル、シンドリア商会は大きくなったよな」

「ええ、まあ。ナーポリアでも有数の商会になりましたが」

「それは今まで出会ってきた人達のお陰だと俺は思っている。
誰が欠けてもダメだった。仲間が居たから此処までこれたんだ。

だがそれ以上に何か大きな流れのような力を俺は感じているんだ…」








「気持ち、お汲みします」

久々の2人部屋で、エナはそう言って頭を下げた。
ついでにお茶も。コップを出して乗れば快くハイ!と返ってくる。

それからした暫くの談話。
そこで、彼女の発した言葉。


「主人の傍で、主人の間違った道を正していく。それは私達の役目でもあるからね。

それに、今のシンバは自分を過信しすぎてる。

何か、嫌な事が起きる気がするの」


「勘だから、忘れていいよ」


これだけは、耳から離れなかった。



28.7.30
29.1.9 大幅改訂


[back]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -