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「シン、昨日の見習い騎士に会いに行くんですか?」
「ああ!騎士王の子息とあれば大きな接点だ。この機会を逃す気は無いぜ」
「一時はどうなるかと思いましたが….…貴方は本当に悪運が強い」
「ほめるなよ〜」
「ほめてないですよ…」
「この前なんか森で昼寝したら蜂に襲われたもんねえ」
「それはエナも一緒の時だったろ?」
「エナも人の事言えないですよ」
「暗殺集団にさらわれたりね!」
「その筆頭に気に入られたりな!」
「ははは!」
「……」
「はは、ジャーファル言い返せねえな」
翌日。騎士団へと歩く私達の前に、1人の男が現れる。ユナンだ。
「やあ、シンドバッド……」
「お前は……ユナン!」
「久し振りだな!お前は変わらないな」
「そうかい?シンドバッドは老けたね」
「老けてねーよ!成長して大きくなったんどよ。男前になっただろ!」
「ふーん?」
「ユナン!私は?大人っぽくなった?」
「うん、背が伸びたね」「やったあ!」
嬉しくてユナンに駆け寄ると、頭を撫でてもらえた。彼は、時折私たちの前に姿を突然現す。
ルフが多いシンバに注目しているのだとか。確かに、シンバは攻略者でもあるから、ユナンのような魔術師が目を付けるのは自然だ。
親しく話す私達を余所に、ジャーファルは良く思わないようだった。怪訝そうな顔で誰かと聞いてくる。
「2年前、バアルの迷宮に俺を導いてくれた旅人だよ。エナとも縁があるんだ。何者かは俺も知らないけど」
「私も知らないけど」
「え〜酷いなあシンドバッド。
僕はずっと君を見ていたのに……」
ユナンは残念がっているようで、実は思っていない。思い出したと手を叩いて、話を変えてくる。
「2つ目のジンを手に入れたんでしょ、シンドバッド」
「そんなことまで知ってるのか。相変わらず不思議なやつだ…
今日は何の用だ?」
「君も知っているんじゃないかな?」
各国の王族、権力者たちが迷宮に挑みジンの力を手にし始めている事、そして、今彼らのいる国の騎士王ダリオス・レオクセスもその中の1人だという事。
攻略者は、シンバ1人だけでは無いのだ。ユナンは問う。
「どうする。自分以外の攻略者…君は顔を合わせられるかい?」
「ああ、そのつもりだよ」 「へえ」
「元々、俺たちはササンとの交易交渉をするために、騎士王との謁見を求めていたんだからな…騎士王が迷宮攻略者だろうが、関係のないことさ。
むしろ、楽しみが増えたみたいだよ」
「…クレイジーだね」
「どうしたんですかエナ」
つい零した私に、ジャーファルは顔を覗き込んで不審がった。
「………君は相変わらず面白いね。
攻略者同士、どんな反応が起きるか…楽しみにしているね…シンドバッド………」
ユナンは言い残して、魔法で姿を消し去ってしまった。
「ミストラスに、会えない!?」
所変わって私達は、騎士団のいる城まで足を運んだ。どうやら状況が変わったらしい。
「ああ…本来なら部外者であるお前達に話す義理はないのだが、事態は急だ。
ミストラスはササン騎士団の脱退を正式に宣言した」
「ならば、彼はもうここにいないと?」
「いや、まだここにいる。だが、時間の問題だろう」
「外の世界の者には分からないだろうが、我々ササンの騎士は一度騎士の洗礼を受ければその身を全てササンの地に捧げなくてはならない。その誓いを破ることは、どんなことも許されない。ゆえに…」
「騎士をやめるということは、死の宣告に等しい」
本来は見張り番として私語を許されていない2人が、次々とこの事態の重大さを語ってくれる。少し興奮気味だ。
「唯一生きて騎士をやめる方法がある…
それは………」
ミストラスが挑戦者として現騎士王を倒してまで騎士王になり最高権力者になろうとするのは、騎士団を抜けようとするまでに至ったのは、恐らくシンバの話を聞いたからなんだろう。元々願っていた透明で掴みにくい物が、はっきりとイメージとして頭の中に降りてきた。ある意味、必然的だった。
「俺と勝負しろ!俺が勝ったら俺は…自由だ!!」
私達は、観客席でミストラスとダリオス・レオクセスが対峙する様子を見ていた。
「シン。門番の話では敗者は首をはねられるということですが…」
「分かっている。だが、今は静観しよう…」
「神の競技の元、公平な勝負を…ここに……
はじめ!!」
素早い槍術で、ミストラスはダリオスに攻撃を当てた。
「…強いね」「はい」
「…カッコいいね」「っ、はい!?」
「槍術かぁ…」「……」
しばらく黙ってから、槍は相手した事ありませんね、と投げやりにジャーファルは頬を膨らました。
「確かに、大口を叩くだけの力はあるようだ。だが、その程度の攻撃…
撃ち返せよ。アロセス」
煌めく金属器の印。ダリオスの前には壁のガードが作られ、ミストラスの攻撃を跳ね返した。
シンバはダリオスの金属器に驚き、目を見張る。ササンの観戦客も同じ様だ。ダリオスは普段これ程手を焼かないのか、あるいは彼ら大勢の神聖視だろう。
ミストラスは槍を投げ、それを囮にダリオスの方へ回り込んだ。一か八かの策だった筈だ。
しかし、ダリオスはミストラスの攻撃の威力を金属器の力によってそのまま返した。
ミストラスは吹っ飛び、倒れてしまう。上がらぬその様子を見て、ダリオスは待ちを切らした。
「…ここまでか。見習いといえども仮初めの騎士…せめてもの手向けだ」
ダリオスは倒れるミストラスに槍先を向ける。
「騎士ミストラス。貴君の健闘を讚えよう」
父が息子に剣を向けるなんて非情な。どこまでも仕来りを守る連中、という言葉が浮かんだけれど、それには特有の懐かしさがあった。
「その勝負、ちょっと待ちな!」
「あ、横入り」「はぁ」「何となく予想はついてたけどな」
「ずっとニヤニヤしてたからね」
交易を賭けると言って、シンバはダリオスに勝負を挑む。ミストラスは必死に止めるが聞いて止まるような易しい男ではない。
いくらシンでも冗談無しに心配です、ジャーファルの溜息にはもう慣れた。
多分シンバは、お前だけじゃ無いんだと、示したくなったんだろう。
大口を叩いた分だけ、金属器雷光(バララーク)を発動させ、ダリオスと互角に渡り合ってみせる。皆を魅了しながら。というのは、実に彼に合ったフレーズ。それくらい、今輝いている。
「見せてやるよ。ジンの本当の力をな!」
金属器の力で姿を変えていく。
「憤怒と英傑の精霊よ…我が身に宿れ…我が身を大いなる魔人と化せ…」
「全身魔装 魔装バアル」
後。ミストラスやジャーファルの心配を余所にダリオスと共に空へ飛び上がったシンドバッドは、雷光剣(バララーク・サイカ)を使いダリオスに勝った。
共に地上に戻って、ダリオスは結果を言い渡した。
引き分けだ。続けて声を張る。
「私は彼をササンに迎え入れたい。同じ神に選ばれた使徒として!」
「ササンの使徒だって!?」
最初は出てきたばかりの外部の者を使徒にするのかなどとどよめいたが、シンバの力を目の当たりにしている以上、彼らは受け容れようとし始めた。私達は、駆け寄ってシンバを祝福する。ジャーファルはぶつぶつとまだ文句を言っていたが。
そして拒むように見えた騎士達も、口を揃えて、
「我ら騎士団一同…使徒シンドバッドを…ササンの民に迎え入れる!」
そう言ったのだった。
対してシンバは、ダリオスに謝罪の言葉と、同盟がシンドリア商会に重要であることを伝えた。
「ミストラスは、これからどうするのかな?」
「私達の船に乗るんですかね?きっと」「そう!嬉しいな!」
「嬉しいんですか?」「うん!」
「なんで?」
「え…、何となくだけど。仲間が増えたら嬉しいし、」
「まあ、それはそうですね」
「それに、槍術と手合わせできるかもしれないね!」
「ああー……それなら私が相手しましょうか?」
「ん?できるの?まあ、それより、ジャーファル最近忙しそうだからね」
「できるようになりますよ。そうですか?」
「できないんじゃん、今。
他にね、ミストラスが来たら、私の料理の味見とかしてもらいたいかも」
「それは絶対、私がやります」
「え!なんで?」
「エナの料理を食べられるのは私しかいません」
「美味しくないってこと!?」「違いますよ!」
「じゃあ良いじゃん」
「いや…でも…駄目」
「もう、よく分かんないなぁ」
「分からなくていいですー」
28.4.10
28.12.29 改訂
エナがミストラスカッコ良いって言ったことを気にしてるジャーファル。
次はちびスパルトス出ますよ!
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