焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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シンドリア商会 当主 シンドバッド 16歳

シンバは、エナにヒナホホ、そして私を連れササン王国へと訪れた。

あのさ、とヒナホホは言う。
「俺たちが留守の間、商会をヴィッテルとマハド2人だけに任せて大丈夫か?
ルルムもいるが、あいつは子守もあるから仕事は回せないぞ」

「大丈夫だよ、ルルムさんはヒナホホしか見えてないから!他の男に目移りしないって!」

「エナ、話が違う」

私の指摘に、エナは分かってるもーんとそっぽを向きヒナホホは苦笑いした。シンは答える。

「大丈夫さ。
ヴィッテルは商会の会計顧問になって頑張ってくれているし、
マハドも無口なやつだが人をよく観察する。雇い人の面倒見もいい男なんだから。

あの2人なら心配無いさ。それに…
初めての国なんだ、商会当主の俺が直接出向かないと………だろ?」

「とか言って、本音は冒険に出たいだけだろ?」

「ははは!新しい国は胸が踊るな」

「シンバ、美味しいご飯食べようね!」

「あー!飯も楽しみだな!」

「まったく…子供なんですから」

呆れる。けれど嫌な感じはしなかった。そして、私達はササンに着く。


「っ…!!外の人間!?

おぉ…穢れた世界の異教徒だわ…関わってはダメよ…」

「あの人たち…なんで避けるの?」

エナに服の裾を引かれた。その問いには使いの者が答える。

「この国では一部のものを除き、外界との交流が一切ありません。くれぐれも目立つ行為はお控え下さい…」


【ササン王国 外交塔】

外交官は交易を否定した。

「ササンは外界との交流はしないのです。貴商会との取引は応じられない…


ささ、お帰りを」

「エナ、色仕掛け」

「一肌と言わず二肌くらい脱ぐ」

「脱ぐなバカ!」

はだけさせたエナを止め、私も異議を唱える。

「お待ち下さい!失礼ですが、レーム帝国にはササン産の鉄や鉱物資源が一部流通しています。同じレームの商会である我々がなぜ交易を認めてもらえないのでしょうか?
納得できません」

「それはレーム帝国にササン国との友好の証として納めているものに過ぎないのじゃ。
ササンの資源は全て神の恵み、レーム皇帝は我らの信仰を享受してくださった!いわば同志とも言える存在…」

それを聞いた瞬間。エナは、身を乗り出し外交官の手を握り、爽やかな笑みを浮かべる。本当に、口より手が出る奴だ。

「私は、貴方を信じていますよ」

「異教徒の商人なんぞに売るためのものでは無い。心正しき人間しかササンは認めないのです。
分かったならどうぞお帰りを」

「無視……」

体を戻して涙目で訴えてくるエナの頭を雑に撫でると、足りない、と私の手を頭に戻したので、しばらく続けてやった。
シンは真剣な表情で言う。それは綺麗で、真摯で。拒む者の心を溶かしていく。


「ならば教えていただきたい。
商人としてではなく、私個人がどうやったらササンと友好を築けるのか…
貴国の為に私はどんなことができるのでしょう。
文化と信仰も共にする覚悟も、分かち合いたいと願う気持ちもあります。
この国の未来のためなら、私はどんな事でもできます」




ササンは同志を歓迎し、敬虔な信徒は拒まない…
もし君がササンと友好を築きたいという崇高な志があるのなら、ササン騎士団を訪ねなさい

なぜなら、ササン騎士団はダリオス・レオクセスという国の最高権力者がいるからだ。
騎士団に認められれば、交易できるかもしれない。


聞いて即、シンとエナは飛び出して行った。

「ちょ、待ちなさい!シン!エナ!」

ササン騎士団を訪ねなさい、か。いやでも、幾ら何でも、それは、



「たのもー!!俺を騎士団に入れて下さい!」


辺りは狙ったように静かで、季節外れの木枯らしが吹いた気がした。







「あれ?」

「だから言ったでしょ、バカーー!」






「わはは!面白いくらい相手にされなかったな」

「うーん、あそこまで騎士団って奴らが融通がきかないとは思わなかったな〜」

「PRが足りなかったんじゃないかな」

面白がるヒナホホに、シンは首を傾げる。見当外れな事を言うエナは私がしっかりと拾ってやる。
「な訳ないでしょ。ササンを守る統治組織なんですから。
失礼を働いてこの国から追い出されても、文句は言えないんですよ、その自覚をですね…」

「よし!次は絶対入ってやる。俺の勘が入れるって言ってる!」

「いいぜ〜裏から侵入するか?手伝うぞ」

「俺は正々堂々と入りたいな!何も悪い事はしてないし」

「煙幕使おう!」

「人の話聞いてますか?だから騎士団を刺激する事はやめなさいって言ってるでしょ。ヒナホホ殿も乗らない!」

「まあまあ、俺たちはどうせ夜間はこの外国人用の商業施設…もとい指定された領域から出るのを禁止されているんだ。
何もできやしないよ」

今日行動に移せる事はない。頭を捻り策を練らないと。3人共そう思ったようで、少しの間静まる。



「シンバ、それひとくち欲しい」「ん」


当然のように、エナの口に料理の一欠片を運ぶのをまじまじと見てしまった。シンの苦手な食べ物なのだ。普段、ルルムには暴露ないようそれは行われる。
溜息を吐いて、肘をつく。

「…だからですよ。昼間にしか行動出来ない、騎士団とも進展は望めず八方塞がりですよ」

「そう悲観的になるなよ、ジャーファル」

シンは焦らず、気長に交渉を進める気でいる。

「それに……
露出が少なくて残念だが…ササンの女性は慎ましやかな美しさを内包してる」

「……女か」「…女ですか」「ん?」

その時エナは、ある者に呼ばれたのか間の隅の酒樽の方へ近づいて行った。しばらくして、エナはシンドバッドの所へ少年を連れてきた。

「シンバ、この人が相席どう?って」
「すみません、ここ、俺と相席してくれません?」

「私は良いよ」
「このお嬢ちゃんも言ってる事ですし!」

シンは口を開けて辺りを見回すと、まだある空席を指して言う。

「相席になんてしなくても…」

「お兄さん、ほら、正直に!」

エナは少年の背中を叩いた。なぜ、出会ったばかりの彼にそこまで。少し歪んだ気分になる。
彼の頬は少し紅潮して、緊張を表していた。


「俺!皆さんとお話ししたいだけなんス!」

「このお兄さん、訳ありなんだって」

「俺は騎士見習いだから戒律が厳しくて…
旅人さん!騎士の俺に、外の事教えてくれませんか!?」

彼が騎士!?
求めていた物はそこまで降りて来たのだ。私は椅子を用意し、ヒナホホは飲み物を注ぎ、シンは追加を頼む。

「ね?良い人だから大丈夫って言ったでしょ?」

「こら!エナ!年上のお兄様には敬語を使いなさい!」

「え?」

まずい。笑いかけるから、つい口を突いて出てしまった。



その時、店の女性がズカズカと歩いて、少年に怒鳴った。

「ここは外国人専用の商業施設です。一般人や、ましてや騎士が立ち入るのは禁止されています!何度言えば覚えるんですか!?」

「分かってるよ…でも少しだけ…」


「ジャーファル、あのお兄さんは敬語を使ってないのに、お姉さんは使ってるよ」
「あぁ、気付きましたか。おかしいですね。あの少年…何者なんでしょう」

さらに女性は捲したてる。

「ご自分の立場を自覚してください!ただの騎士ではない…貴方は、


貴方は騎士王のご子息なのですよ!?」




少年はミストラスという現騎士王ダリオスの子息、ササンの次期騎士王候補者だった。



「エナ…凄い人にナンパされたな」

「捕まえた魚は大きい」



女性から許しをもらい、その場で彼らは話し込んだ。金属器や、騎士団の話だ。彼らは互いに興味を持ち夢中で聞いたので、直ぐに時間は過ぎた。
やがてミストラスは王宮へと帰り、私達は宿で就寝準備をしていると、エナが服の袖を引いてきた。

「ね、1人の部屋は怖いよ」

「はあ、仕方ないですね」
内心は満更でもない。
「じゃあ枕を持ってきて。一緒に寝てあげます」

一人一人に用意された部屋があった。エナは未だ自分一人の部屋を用意してもらった事は無いらしい。シンに居候させてもらっていた時から、自分で拒むのだとか。これからのシンドリア王宮でも、一人部屋になる事は無い。明日にはその部屋も、宿代を考慮してチェックアウトする筈だ。
なんて役得。次の日の許可もその場でしておいた。あくまで優位は保っておく。

エナは明日の着替えを部屋の隅に固めて置いた。

「ねえ、ジャーファル」
「何ですか?」

「ミストラスは、不真面目なのかな?」
「え?ああ、あの時彼が言った事ですか?」

先程のミストラスは、この国が嫌いかと問うたシンに、こう答えたのだった。


………嫌い…と言うか…この国は、

教義に決められて自由もないし、マジメでお堅い奴らばかりでつまんねっス。

この狭い国で息詰まらせて生きるくらいなら、俺は、広い世界で呼吸して死にたいです



「ジャーファルはミストラスが不真面目だと思う?」

エナはベッドに入りながら、もう一度言った。
不真面目、と一言に片付けても、色々形はある。各々の判定基準によるものだ。
彼は騎士として修行を積んでいるのだから、騎士として不真面目だという判は押されないだろう。確かに騎士団の目指す所には反しているが。ただ、少々厄介者、として扱われるにしては元から求められている器が大きすぎる。

なるほど…と、エナは俯いて唸る。
本当に理解したのかは分からなかったが、彼女は苦笑いを添えてこう返した。

「ミストラスは不真面目だと思うよ」

意外だった。


ミストラスはこの国では不真面目。厳しい規則がある所の下ではパルテビアでシンバが受けた扱いと同じ。不真面目だって言われるんだよね。
でも、それはきっと冒険家気質だからだと思う!

シンバみたいに、ミストラスも海に放せば、


全く。時に予想外の所から投げ込んでくる。
目を輝かせガッツポーズをしたエナが可愛くて、やんわりと背中に手を回してこちらに寄せた。

「ん?」 「もう寝ましょう」

シンの所に行っても良かったのに、なぜ私を選んだのかはもう気にしなくても良い。
以前、王になる人に甘えるなと言った。それをエゴだとは知らずに甘えられるのが心地良くて、緩やかに意識を手放した。


28.4.8
28.12.26 改訂
お気付きでしょうか。この作品、前作の気ままにシリーズからお寝んねシーンがとても多いんです。それだけ、きっとベッドには魅力が詰まっているんでしょうね。冗談です。


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