焦るな!ジャーファルくん | ナノ



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シンバがナーポリアに残ってから数ヶ月後…

彼はシンドリア商会を作り、レームの商人組合から認可を受ける商館を建てるまで成功した。
それを教えたのはバルバッド国王である。

私達は彼と再会し、シンドリア商会として、また新たなスタートを切るのだった。

「ヒナホホ!この荷物はどうするの?」

「あそこに積んである箱の隣に置いてくれ!」

「はーい!」

「エナー、」

「なぁに?ヴィッテル」

「今日、手合わせできるかな?最近体動かしてなくってさ」

「いいけど、ジャーファルには相手してもらわないの?」

「ジャーファルさんはキキリクの子守に忙しいって聞いたからさ、声掛けずらくて」

「そっか、でもジャーファルはどこに行ったのかな?」

「散歩じゃないかな?」

「へえ、もうすぐお昼ご飯だよね、探してくるよ。手合わせは夕方、外でね!」

ヴィッテルを後にして、外に出る。
木々を飛んで渡ると、割と早く彼らを見つけた。肩車をするジャーファルは今にもキキリクに潰されそうだ。

「あ、エナ」

「ジャーファル!何でこんな所まで来たの?」

「それはこっちの台詞ですよ。私はここで迷ってるんです。助かりました。とりあえず降りてきて」

「はいよっと」

「葉っぱ付いてますよ」

「とって」

「今、手放せないので」

そう、と言って自分の頭を適当に叩くと、自分より上の方にいるキキリクと目が合った。

「ねえ、また大きくなった?」

「……」

キキリクはムスッとしてそっぽを向いた。

「まだ懐いてくれない…」

「顔が怖いんですよ、中濃ソース顔だから」

「美味しいじゃん」

「赤ちゃんには見てられないんですよ」

「ひどい!これからお昼だから呼びに来たのに、もう!そのまま迷い続けろ!」

「ちょちょちょ、置いてかないで」

ジャーファルは私の手を引く。手放せないって、さっき言ったくせに。

「ここで貴女がいいとこ見せたら懐いてくれるかもしれないでしょ。さあ、帰り道を教えて下さい」

「絶対にない!もう見下されてるもん。
この前なんて人差し指を握られて骨折したの!指が反対側にお辞儀したんだから!」

「それは涙と一緒に流しましょう、ね?」

「まだ骨折が治らないの!剣が片手しか握れなくて!」

そう、仮にも負傷中なのであった。

「はあ…」

「だぁ〜」

「あ、蝶々」

気付いて蝶々に手を伸ばしたキキリクは、ジャーファルの肩から落下。大声で泣き始めた。

「びぇ〜〜ん!」

「自業自得でしょ!
またそうやって暴れて…泣きたいのはこちらの方だというのに!」

いつも以上にエナもツンケンしてるし!そう加えたのに眉を顰めた。そっちこそ。矛盾だ、矛盾。
溜息をついて、ジャーファルは寝そべって暴れるキキリクに手を差し伸べる。

「泣き止みなさい!ほら、行きますよ」

その手を払って、キキリクは再び泣き始めた。
隣を見ると、案の定目が釣り上がっていた。

「っざけんなクソガキ!勝手にしろ」

「ぶーぶぶー…」

ジャーファルは彼を放置して歩いて行ってしまう。

「え?ジャーファル?どこ行くの?!」

「お前も来んじゃねェ!」

「筆頭〜……」


止まる様子はない。止まって欲しくない。止まっても面倒だ。対応に困る。
それに、私は泣き喚くキキリクを前にして、ある挑戦をしたかった。

頬を2回叩いて向き合う。私はお姉さんだ。仮にも、彼の。
今はこんなだけど、きっと懐いてくれる。


「よーし、キキリク〜
お姉さんがとっておきのお歌を聴かせてあげ…」

「びえええ〜〜ん」

「どうして耳塞ぐの!まだ歌ってもないじゃん!

あ、じゃあお話を聞かせてあげる!

……今、ここに可愛いキキリクという男の子がいましたぁ」

「びえええ〜〜ん」

「褒めってんじゃん!!!!そんなに私嫌?!」

「びえええ〜〜ん」

「もういい加減にして…」

その時、だ。私達に大きな影が迫る。

「びえええ〜ん」

「キキリク!泣いてる場合じゃない!
ちょ、耳開けて!」

言うことを聞いてくれなくて、キキリクは健闘場から逃げ出したらしき大型モンスターに捕まってしまう。

さっきまでのポジティブは一掃され、緊張で太もも攣りそうだし色々どうにかしそうだ。
今までこのサイズ感のモンスターとは相手した事はあるが、最近まで船に乗っていたせいで余裕が生まれない。加えて片手しか使えない。

まず、このサイズは世界観ぶち壊しでないか。
ならこちらもぶち壊しに行くか。駆逐してやる、1匹だけなら。

そういえば占い最下位だもんな。自分を呪うような、そんな具合に顔を歪めて、地を蹴って飛び上がる。

苦無を放つと、何本か刺さったがビクともしない。攻撃を避けて、近くの木に飛ぶ。

奴にとって、苦無は小さい針程度なのだろう。
他に短剣がある。それを使っても爪楊枝から裁縫針程度しか変わらないだろうが、やる価値はある。

懐から出し、2本とも左手に。利き手が使えない不利な状況だ。

飛び出すと、当然隙ができて殴り飛ばされてしまう。怪我を庇って受身は崩れる。

そして、体勢を直そうとした時には、モンスターは上まで迫っていた。





後ろを振り返った。危機的状況に、急いで引き返す。自分が目を離したせいで、キキリクとエナが大型モンスターに捕らえられてしまったのだ。奴が肉食かどうかに関わらず、早くしないと。荒くなった息を整えて、縄縹を握り直す。


「シャム=ラシュ式暗殺術技……縹操術!!」


この技は、昔から手に染み付くような感覚がある。最近は鍛錬でしかしないものの、妙に自信があった。それがいけなかったのだ。
モンスターの手首には金属で枷が付いていて、縹を塞がれ、殴り飛ばされてしまう。

「くっ、!!」

地面の向こう側でエナが勢いよく飛ばされ転がる。モンスターが防いだ方の手は、エナを握っていたのだ。恐らくその拍子に解放されたのだろう。
エナは、苦しそうに2回咽せた後、立ち上がった。いつになく彼女の目は厳しい。お前もやれ、と言っている。確かにこの時から守る事に関しては人一倍努力していたし、人一倍厳しかった。
体に鞭を打つ。膝の土を払おうなど考えもしなかった。木を飛び回り何度も斬り込みに掛かる。

エナという立派な後ろ盾が付いていても、不満に思ってしまう。

殺しだけが俺の取り柄だったのに。と。
こんなに弱くなって。
他にも強い戦士はシンの周りに沢山いる。

年下であるエナにも、正直抜かされそうで怖かった。最近分かったことだが、彼女はこれといった才能が備わっていない。
しかし、彼女は努力を苦と思わないのだ。

それは時に才能を上回る。
才能を買われて生きてきた自分は、努力する事が苦しい。では、何れ抜かされてしまうのか。
これじゃあ、俺がいる意味なんて、

「…ファル!ジャーファル!」

「は、」

「あんまり考えない方がいいよ、」

「う…分かってる、」

「考えても出来るとは限らない。こういう時は特に。好都合か不都合なズレは必ず生じる」

エナはそこに、ある種の希望を掛けていた事に、その時の私は気づかなかった。

「ズレ?」

「そう、だからマイナスな考えはやめてよ。信じて」

エナは確かに手を握って、次の攻撃を繰り出す為に離れて行った。

不思議と、救われた。

そうだ、変わったんだ。

組織を抜けてあいつらと行動を共にして、殺し以外の場所を与えてもらった。暗殺が全てだった自分を導いてくれた。
意味なんて、それで充分だ、


「腕が鈍った事を後悔してるんじゃねぇ……
今すべきなのは、この人たちを守ること…

キキリクを…助け出すことじゃないか!!」

「ジャーファル!?」



力を求めよ 我は眷属…
雷の「ジン」バアルより生まれし雷光の眷属!!






眷属器!双蛇金票(バララーク・セイ)!!!

電気を帯びた眷属器はモンスターの体を締め上げる。
ああ、やっと。自然と笑みが零れた。
使えないはずの右手が軽く感じて、幾分か気持ちも楽になった。二刀流の構えをとる。


眷属器!双隠剣(バララーク・ダガーサイカ)!!!



意識は、そっと手放された。


シンバの声で目が覚める。ルルムと2人で迎えに来てくれたのだ。
恐らく気を失っていたのは、マゴイの使いすぎだろう。最もその時、マゴイ、とはあまり広まっていなかったのだが。

起き上がってぼんやりと頭を触る。こういう時でも寝癖は付くらしかった。

「遅いから探しに来たんだよ。一体何があった!?」

「たしか、モンスターに襲われて…金票が光って気づけば雷が出てたような…」

「光った?」

「エナの剣も光ってますよ」

本当だ。これは、ジャーファルに初めて会った、というよりかは襲われたあの時も、同じように光っていた筈だ。

「理由はわかりませんが、武器に何らかの力を与えたのでしょうか?
精霊の宿る金属器にはまだ私たちの知りえない事があるのでしょうね… 」

「俺のバアルの剣が、」

「私の武器に力を与えた…?」

「すごい!ジンの力はこんなこともできるんだな!?
俺が初の攻略者ならお前らは初めての…ジンの戦士だ!」

「シン…!この力があれば…何でも出来そうな気がします!」


その時はまだ、眷属の恐ろしさを知り得ない。未熟な私達だった。




28.4.5
28.12.25 改訂


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