結婚指輪

ジャーファル「エナ!」

エナ「ジャーファル!?あっ、」

走って、エナに追いついたジャーファルは力一杯彼女を抱きしめた。

ジャーファル「エナ。無事で良かった」

エナ「私も、ジャーファルが生きてて良かったよ」

ジャーファル「笑顔作ってる?そうなら、無理しないで」

エナ「ごめん、ばれた?」

ジャーファル「少なくとも私とシンにはね。我慢しないで、私に話して」

エナ「場所、変えよっか」

ジャーファル「部屋に行きましょう」



部屋の扉を閉めて、ジャーファルはもう一度エナを抱きしめ直す。

ジャーファル「…どうぞ」

エナ「あのね…」

ジャーファル「ゆっくりで良い」

エナ「うん、

…スパダを、死なせてしまったの。
本当に助けられる距離だった、私が手を伸ばすのがもう少し早ければ、こんな事にならなかったんだよ」

エナの目から、我慢していた涙が溢れてきた。
顔は見えないジャーファルは声で察して、彼女の背中に回していた腕を頭へ移動させ、ポンポンと優しく撫でる。

ジャーファル「うん、」

エナ「エリザベス。彼の妻との約束も果たせなかった。貴女が守るって言ったんじゃないって、スパダはもう帰って来ないんだって」

ジャーファル「…」

エナ「今、心の底から生きている実感が湧かないの、だからジャーファルにこうやって抱きしめてもらえるのが嬉しい。
私…生きてるんだ」

ジャーファル「エナは、生きてます。

エナが隊長として背負う物も大きいでしょう。
けれど、信じろ、貴女がそう言ったから、貴女の部下は背中を任せて堂々と戦える。
これからも、貴女を信じてくれたスパダの思いも背負って戦うのですよ。
この国の為に、シンの為に」

エナ「ジャーファル、泣いてる…?」

ジャーファル「く、苦しくて音を上げそうになったら、その時はこうやって私の胸に飛び込めばいい。辛いと泣けばいい。
このジャーファルが、全力で受け止めます」

エナ「うっ、ひ、く、」

ジャーファル「そう、それで良いのです」

エナは泣きながら、ジャーファルの腕の中で寝てしまった。

ジャーファル「あ、これ…」

ジャーファルはエナの怪我を思い出して、服をめくると包帯を見つけ、
巻き直してあげようと彼女をベッドに寝かし、包帯を医務室に取りに行った。

夏黄文「ジャーファル殿」

ジャーファル「あ、夏黄文殿」

夏黄文「エナさんの腹の調子はどうですか?」

ジャーファル「今包帯を巻き変えるところですよ、でも、なぜ貴方が怪我の事を?」

夏黄文「ジュダルが来た日、腹に穴が空いたから塞いでくれと頼みに来たのであります。
私はまだ戦うのです、と」

ジャーファル「そうでしたか、ご迷惑をおかけしました。うちのエナが」

夏黄文「うちの?」

ジャーファル「ええ、彼女はシンドリアに必要な人です」

夏黄文「はっ、そんな事言って、エナさんを1番必要としているのは貴殿なのでは?」

ジャーファル「はい、私は彼女を愛していますから。それに、貴方のような方に恋人だと名乗られて許せる程、寛容ではありません」



夕方。
2人はジャーファルが予約をしてくれたレストランに来ていた。

エナ「ジャーファル、良かったの?」

ジャーファル「はい?」

エナ「仕事は大丈夫?」

ジャーファル「部下に任せてきました。今日は仕事は忘れたくて、自分の分も早めに終わらせてきたんです」

エナ「良かったね」

ジャーファル「だからエナも、仕事は忘れて下さいね」

エナ「はーい」

ジャーファル「こんなレストランに来たのは久しぶりですね」

エナ「そうだね、このお店ができたばっかの時に来たね。
あー、これ美味しいよ!ジャーファルも早く食べて!」

ジャーファル「はい、今から食べます。
それにしても、喜んでもらえて嬉しいですよ。
今ではすっかり人気店、予約制になったみたいですよ」

エナ「凄いね〜」

ジャーファル「スパダの話になってしまうのですが、」

エナ「ん?」

ジャーファル「彼も私達の中ではなかなか古くからいた。長い付き合いでしたから、寂しいですね」

エナ「そうだね、色々あった。火が通ってない肉食べさせたりね」

ジャーファル「はは、スパダとミストラスと3人でお腹壊しましたよ。
あの時は大変でした。スパダもエナに好意を持っていたようですよ」

エナ「それ、シンドリアが建国したばっかの時、スパダから聞いたよ」

ジャーファル「え!?そうだったんですか!知られるのが嫌で黙ってたのに!」

エナ「今日は隠し事も話せるくらい、ジャーファルは特別な気分なんだね」

ジャーファル「隠し事なんて昔の思い出くらいですよ、けど、今日を特別な日にしたい」

エナ「私もだよ」



ジャーファル「エナ、」

エナ「?」

ジャーファル「今の関係じゃ物足りません。エナにもっと近づきたい。これからも貴女と居たい!
だから…」

ジャーファルは指輪の箱を開け、エナの前に出した。

ジャーファル「結婚してください」

エナ「は、はいぃ…」

ジャーファル「エナ、え!涙、これで拭いて下さい!」

エナ「うん、」

ジャーファル「良い返事、ありがとう」

エナ「うん、仕事上がりの官服でプロポーズなんて、ジャーファルらしいね。
真面目で、誠実な貴方を愛してる」

泣きながら笑うエナに、ジャーファルは思わず見惚れてしまう。

ジャーファル「…まさか泣いて喜んでくれるなんて」

エナ「ここに来るまで手繋いだ時、ジャーファルが汗すごかったから、なんとなく予想はしてたよ」

ジャーファル「え、そうでした?」

エナ「うん」

ジャーファル「ええ〜…」

エナ「嬉しいな、ジャーファルと結婚、いつかしたいと思ってたの」

ジャーファル「お互いがお兄さんお姉さんのうちに言わなきゃと思ってたんです」

エナ「そうだね、シンバみたいにおじさんって呼ばれてからは遅いから」


28.4.1
今頃噂をされてハクションシンドバッド大魔王さま
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