結婚指輪
ジャーファル「エナ!」
エナ「ジャーファル!?あっ、」
走って、エナに追いついたジャーファルは力一杯彼女を抱きしめた。
ジャーファル「エナ。無事で良かった」
エナ「私も、ジャーファルが生きてて良かったよ」
ジャーファル「笑顔作ってる?そうなら、無理しないで」
エナ「ごめん、ばれた?」
ジャーファル「少なくとも私とシンにはね。我慢しないで、私に話して」
エナ「場所、変えよっか」
ジャーファル「部屋に行きましょう」
*
部屋の扉を閉めて、ジャーファルはもう一度エナを抱きしめ直す。
ジャーファル「…どうぞ」
エナ「あのね…」
ジャーファル「ゆっくりで良い」
エナ「うん、
…スパダを、死なせてしまったの。
本当に助けられる距離だった、私が手を伸ばすのがもう少し早ければ、こんな事にならなかったんだよ」
エナの目から、我慢していた涙が溢れてきた。
顔は見えないジャーファルは声で察して、彼女の背中に回していた腕を頭へ移動させ、ポンポンと優しく撫でる。
ジャーファル「うん、」
エナ「エリザベス。彼の妻との約束も果たせなかった。貴女が守るって言ったんじゃないって、スパダはもう帰って来ないんだって」
ジャーファル「…」
エナ「今、心の底から生きている実感が湧かないの、だからジャーファルにこうやって抱きしめてもらえるのが嬉しい。
私…生きてるんだ」
ジャーファル「エナは、生きてます。
エナが隊長として背負う物も大きいでしょう。
けれど、信じろ、貴女がそう言ったから、貴女の部下は背中を任せて堂々と戦える。
これからも、貴女を信じてくれたスパダの思いも背負って戦うのですよ。
この国の為に、シンの為に」
エナ「ジャーファル、泣いてる…?」
ジャーファル「く、苦しくて音を上げそうになったら、その時はこうやって私の胸に飛び込めばいい。辛いと泣けばいい。
このジャーファルが、全力で受け止めます」
エナ「うっ、ひ、く、」
ジャーファル「そう、それで良いのです」
エナは泣きながら、ジャーファルの腕の中で寝てしまった。
ジャーファル「あ、これ…」
ジャーファルはエナの怪我を思い出して、服をめくると包帯を見つけ、
巻き直してあげようと彼女をベッドに寝かし、包帯を医務室に取りに行った。
夏黄文「ジャーファル殿」
ジャーファル「あ、夏黄文殿」
夏黄文「エナさんの腹の調子はどうですか?」
ジャーファル「今包帯を巻き変えるところですよ、でも、なぜ貴方が怪我の事を?」
夏黄文「ジュダルが来た日、腹に穴が空いたから塞いでくれと頼みに来たのであります。
私はまだ戦うのです、と」
ジャーファル「そうでしたか、ご迷惑をおかけしました。うちのエナが」
夏黄文「うちの?」
ジャーファル「ええ、彼女はシンドリアに必要な人です」
夏黄文「はっ、そんな事言って、エナさんを1番必要としているのは貴殿なのでは?」
ジャーファル「はい、私は彼女を愛していますから。それに、貴方のような方に恋人だと名乗られて許せる程、寛容ではありません」
*
夕方。
2人はジャーファルが予約をしてくれたレストランに来ていた。
エナ「ジャーファル、良かったの?」
ジャーファル「はい?」
エナ「仕事は大丈夫?」
ジャーファル「部下に任せてきました。今日は仕事は忘れたくて、自分の分も早めに終わらせてきたんです」
エナ「良かったね」
ジャーファル「だからエナも、仕事は忘れて下さいね」
エナ「はーい」
ジャーファル「こんなレストランに来たのは久しぶりですね」
エナ「そうだね、このお店ができたばっかの時に来たね。
あー、これ美味しいよ!ジャーファルも早く食べて!」
ジャーファル「はい、今から食べます。
それにしても、喜んでもらえて嬉しいですよ。
今ではすっかり人気店、予約制になったみたいですよ」
エナ「凄いね〜」
ジャーファル「スパダの話になってしまうのですが、」
エナ「ん?」
ジャーファル「彼も私達の中ではなかなか古くからいた。長い付き合いでしたから、寂しいですね」
エナ「そうだね、色々あった。火が通ってない肉食べさせたりね」
ジャーファル「はは、スパダとミストラスと3人でお腹壊しましたよ。
あの時は大変でした。スパダもエナに好意を持っていたようですよ」
エナ「それ、シンドリアが建国したばっかの時、スパダから聞いたよ」
ジャーファル「え!?そうだったんですか!知られるのが嫌で黙ってたのに!」
エナ「今日は隠し事も話せるくらい、ジャーファルは特別な気分なんだね」
ジャーファル「隠し事なんて昔の思い出くらいですよ、けど、今日を特別な日にしたい」
エナ「私もだよ」
ジャーファル「エナ、」
エナ「?」
ジャーファル「今の関係じゃ物足りません。エナにもっと近づきたい。これからも貴女と居たい!
だから…」
ジャーファルは指輪の箱を開け、エナの前に出した。
ジャーファル「結婚してください」
エナ「は、はいぃ…」
ジャーファル「エナ、え!涙、これで拭いて下さい!」
エナ「うん、」
ジャーファル「良い返事、ありがとう」
エナ「うん、仕事上がりの官服でプロポーズなんて、ジャーファルらしいね。
真面目で、誠実な貴方を愛してる」
泣きながら笑うエナに、ジャーファルは思わず見惚れてしまう。
ジャーファル「…まさか泣いて喜んでくれるなんて」
エナ「ここに来るまで手繋いだ時、ジャーファルが汗すごかったから、なんとなく予想はしてたよ」
ジャーファル「え、そうでした?」
エナ「うん」
ジャーファル「ええ〜…」
エナ「嬉しいな、ジャーファルと結婚、いつかしたいと思ってたの」
ジャーファル「お互いがお兄さんお姉さんのうちに言わなきゃと思ってたんです」
エナ「そうだね、シンバみたいにおじさんって呼ばれてからは遅いから」
28.4.1
今頃噂をされてハクションシンドバッド大魔王さま