ジャーファルと彼女の亀裂
エナ「ただいま!」
ピスティ「おかえり!エナさん!」
エナ「ピスティ、迎えに来てくれたんだね」
こうしてやっとシンドリアへ帰還したエナ。シンドバッド達とは行き違い、1人で帰ってきた。
エナ「シンバにしか連絡入れていなかったから、誰か待っててくれるなんて思わなかったよ」
ピスティ「ジャーファルさんが良かった?」
エナ「いや、誰が来ても嬉しいよ。けど、今ジャーファルは何となく顔を合わせにくいかな」
ピスティ「喧嘩したの?」
エナ「そういう訳じゃないんだけどね」
練紅玉と友達になってしまったこと、夏黄文の恋人扱いされてしまったこと。
事情を説明されたピスティは、顎に手をあててニヤリと笑った。
ピスティ「なるほど〜ジャーファルさん嫉妬しちゃうね」
エナ「向こうの姫様と友達になるなんて大ごとでしょ。
ジャーファルに余計な負担は欠けたくないから、黙っておこうと思って」
ピスティ「そっか、内緒にしておくよ」
エナ「ありがとう、ピスティ」
ピスティ「あ、そうそう、アラジンとモルジアナとアリババがここの食客になったんだよ」
エナ「へえ、あの3人ねぇ、話した事はないけど」
ピスティ「エナさんなら仲良くなれるよ!」
エナ「それならよかった」
*
王宮に帰ってからは、風呂で汗を流して着替えを済ませた後にジャーファルを探した。
ジャーファル「エナ!お帰りなさい!」
エナ「ただいま!ジャーファル」
ジャーファル「おいで」
エナ「うん!」
エナは、手を広げて待つジャーファルの胸に飛び込む。
ジャーファル「エナ、少し痩せました?煌帝国で食事は十分に取れたのですか?」
エナ「ああ、うん、十分過ぎるくらいに」
ジャーファル「そうですか」
エナ(はあ、ほぼ王宮の料理を食べてたなんて言えないなぁ)
ジャーファル「今夜こそは一緒に寝ましょうね」
エナ「いや、今夜は寝かせないよ」
ジャーファル「ふふ、挑発ですか」
エナ「下剋上です」
ジャーファル「勝てるものなら」
ピスティ「あ、ジャーファルさんと、浮気者のエナさあがっ!」
エナ「なんで浮気者?誤解されちゃうよピスティ!」
ジャーファル「え?今なんて?」
エナ「いや、あのね?」
ピスティ「エナさん煌帝国で男と諸々出来たんだって!」
エナ「違う!(*)男みたいな友達!」
(*)練紅玉
ジャーファル「…」
ピスティ「…ジャーファルさん?」
エナ「本当に、違うの!」
ジャーファル「まさかエナが、そんな事するわけ無いでしょう」
そう言ってジャーファルは去って行った。
エナ「ピスティ!遠回しに言い過ぎて誤解が生まれやすくなってる!」
ピスティ「へ?」
エナ「どうしよう…」
*
そして夜になり、報告書を書き終えたエナが2人の部屋のドアを開けると、まだ机に向かうジャーファルがいた。
エナ「ジャーファル…怒ってる?」
ジャーファル「…」
エナ「ジャーファル?」
ジャーファル「へ!?
あ、私書類を徹夜して終わらせるので、お構いなく」
エナ「…わかった」
エナ(怒ってる?それとも大人な対応?でも確実に誤解はされてる)
エナは目元に既にクマができていたジャーファルにそれ以上話しかける事ができなかった。
誤解は解けないまま、2人は少し離れていく。
*
その後はバルバッドの様子を見る為、密偵部隊が再び偵察に行った。
彼らの偵察はシンドバッド達より長くかからなかった。
シンドリアの王宮に戻ったエナはまだジャーファルと気まずいまま。
そして4ヶ月の会談を終えて、シンドバッド一行が帰ってくる。
彼らが帰ってきてからひと段落して、エナとシンドバッドは密偵部隊の報告を行う為、王室に入った。
シンドバッド「聞いたぞ。お前…練紅玉と友達になったらしいじゃないか」
エナ「…はい」
シンドバッド「詳しく話せ」
エナ「煌帝国では兵士に化けていたのですが、兵士の集団行動から外れたところを夏黄文殿に見つかってしまい、
命を保障する代わりに姫様と友達になる、という話を持ちかけられたのです」
シンドバッド「それに乗ったと?」
エナ「はい、煌帝国には私達の存在が割れています」
シンドバッド「そうか…」
エナ「申し訳ありません」
シンドバッド「謝るのは俺じゃないだろ」
エナ「え?」
シンドバッド「エナは十分情報を得ている、それで会談に役立つことも多かった。
だが、お前はいつから夏黄文との子供を作ったんだ?」
エナ「夏黄文殿とは何も!」
シンドバッド「どういう事だ?エナはジャーファルの恋人だろ?」
エナ「夏黄文殿は、姫様に私を恋人として紹介したのです」
シンドバッド「…なるほど、つまりお産で帰国すると言うのは都合良く国を抜け出す理由、と」
エナ「はい」
シンドバッド「エナの意志じゃないんだな?」
エナ「勿論です!私にはジャーファルしか、」
シンドバッド「分かった。話はこれまでだ。
ジャーファルとしっかりやれよ」
エナ「ごめんなさい…シンバ」
シンドバッド「良いよ、何かあったら隠さず言いに来い」
*
時はさかのぼり、
エナが帰ってきた日、シンドバッドが帰るのはまだ先という日の夜。
ジャーファルは同室で先に眠りにつくエナの前髪を払い、その額に自分の額をくっ付けた。
ジャーファル(あったかい…)
彼女と口を聞かずに何ヶ月が経つだろう、
自分から避けたのが始まりで、彼女も私に寄り付かなくなった。
…煌帝国の男と関係を持ったのは本当かな。
そうしたらエナのこの優しさやあたたかさや、特別な感情はその男に向けられるんだ、
彼女しか持ち得ない嫋やかさ、体も、わずかに開かれた唇も。
もう触れる事を許してもらえないなら、最後は勝手に。
眠るエナに、ジャーファルはひとりよがりなキスをした。
28.3.31
背中を押してやるシンドバッドさま
次は謝肉宴やりますよ