さめない熱が欲しければ 3
「こりゃ運命だな」
「意図的だわ」
「陽。お前、まさか分からないなんて言うんじゃねぇだろうな」
「はあ、何に?」
「陽と俺の指を繋いでやがる赤い糸……これって運命の」
「騙されるかァァァ!!!!!」
物好きなのだと思う。
この時代に人形細工なんて流行りものでは無し。しかしサソリはこの不思議なカラクリを大層気に入っているのである。彼の指から伸びる操り糸に手刀をストンと落とすと、何すんだと不満げなサソリ大王様がいた。
「お前、今夜は介抱してやらないからな」
「それ飲みのお誘い?」
「ちげーよ。解放だっつーの。飲みに行くのは前提だ。陽が酔い潰れるのもな。一生記憶に残るような夜にしてやる」
「申し訳ないけど私は気持ちよく飲みたいのよ。今日はデイダラ君と飲むわ」
「陽はアイツにもケツ振ってんのか?あァ?」
「サソリ。そんなんじゃ本命に振られるわよ」
またね。なおも顔を顰めるサソリの肩をトンと叩いて休憩室を後にした。
ーーーーーー
そんなんじゃない。そんなつもりじゃなかった。
陽はいつも思い通りにならない。思い通りになったことなど今の今まで一度もなかったはずだ。
【今日陽と飲むのか?】
透き通るように心のよく読める、また空気も読める後輩デイダラのことであるから、きっと大丈夫だろうとは思うが、まさか陽のことを狙っちゃいまいな。
「あー、誘われたけどな。断ったぜ。うん!」
奴は淡々と告げた。
ならいいか。コイツに用は無くなった。デイダラに背を向けた瞬間、「待ってくれ!旦那!」と呼び止められる。
「あ?」
「陽のこと、人形にするっつうのは本当か?うん?」
「人形......」
人形っつうか、人傀儡の方が正しい解釈だ。だが噂に疎いデイダラの耳にも入っているようであれば、このゴシップは社内の相当な奴の耳に既に入っているだろう。
死にたいと言ったアイツの願いを叶えてやりたいが為に、俺が声をかけてやっている。傀儡にしてやると。
良かれと思って言ってやったことが、裏目に出ている。「陽を殺したい」みたいな意味を含んで出回っている。
「人形にしたら、陽は心ごと無くなっちまうのか!?」
「ああ」
「芸術は一瞬の美だろう!
確かに陽は気立てが良くて、イイ女だから、惚れちまう旦那の気持ちも分かるが、アイツの心まで殺すこたぁねぇ!旦那の言う永久の美っつうのは、そんな残虐な美なのかよ!?うん!?」
何をそこまで必死になるんだよ。呆れる程の早口で捲し立てるデイダラに返す言葉も出ず、
「...............そうなのかもな」
傀儡にしてやる。その本懐を失いつつある。陽に求めていたものとはただ恋愛の生まれる関係だったというのに。そう。原点に立ち還ればもっと単純で、純粋なものなのに。
いつから生まれた誤解なのか、もうその歪みを直すことは、自分自身では到底不可能なことである。
「お前、俺に協力する気はあるか」
「え?」
くだらないプライドは捨てて、コイツに頭を下げ助成を請うしか、最早 道は残っていないのか。
31.3.5
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