僕がゆいいつ慕ったあなた | ナノ




ある日のレア・ロハンネリとグイード・ミスタの喧嘩であるが、それはテーブルの全員を黙らせる程壮絶なものであったのでここに記しておきたい。




「やかましいわッ!そんなこと言ってないで食べなさいよッ!」

「ダメなんだよぉ〜ホントに!俺に4枚しかないピッツァから1枚取れって言うのかぁ?それはアレだぜ、オオカミのマスターベーションを鑑賞して感想文を書くくらい絶対避けたいコトだぜ!

あ?まあレアのソレなら何回でも見るし分厚い感想文を世に出版してやりてぇくれぇだが!!ブッッッ!!!!」

「汚らわしいッッ!!!!」



規律の厳しい家で育った反動か、レアはかなり規則やルール、法律が嫌いな方だ。一家の中では末っ子として自由に生きてきた方ではあるが、世に出てみればあのルールや門限はおかしかったのだと気づかされることが多い。
自由でいたい半面、どうしても組織の規則に囚われる方向へと、気付かぬうちに歩んで行ってしまう自分に嫌悪感を感じていたし、思いっきり自由でいるヤツには嫉妬もする。



レアにとってその嫉妬の対象とは、まさにグイード・ミスタであった。

レアはミスタと仲が悪い訳ではない。どうしても彼の身勝手な行動を許せないのだ。



加え、「レアとミスタのスタンドはとても相性が良い」とブチャラティに判断されたため、タッグを組む機会が増えた。となると、T.P.O.を弁え我慢しなければならない。





これはある年、クリスマスの任務中のこと。








ネアポリスのクリスマスパーティには刺客が紛れていた。刺客とは、パーティの裏で行われている麻薬取引を取り締まるため、パッショーネから派遣されたレアとミスタのことである。

レアはパーティの余興のために持参したバイオリンを片手に、ミスタにエスコートされていた。所謂、彼は彼女の護衛役だ。



「ちょっとミスタ。手つきが、あのっ、」

「どうした色女。急に耳元で話しかけてくんなよ。クスグッてぇじゃねぇか」

「色女って...あのねぇ。あなたが近いからこうなるのよ。少し距離取ってもらえる?さり気なく胸を触らないで」

「げ、バレた?」

「ええバレたわ。離して」

「男代表として離すわけにはいかねぇーなあ。これが今回のギャラでもいい!」

「なら給料は山分けしなくていいわね、吐いた言葉には責任持ちなさいよ」



ジト目のレアに「まあまあ、お嬢様。着きましたよ」と手を離したミスタは、彼女の背中から尻にかけての曲線美にゆっくり目を這わせた。それは彼だけではなく、多くのパーティ参加者も。

一方、黒のドレスに身を包んだレアは落ち着いた足取りで前に向き直る。ウンザリするほど集まる期待には生憎慣れている。何せ都合がいいと内心でほくそ笑んだ。これから起こる、イヤ、「起こすこと」を考えれば。


演奏曲のチョイスは、レアのスタンドを生かすためにも重要だ。選んだのは、サラサーテのツィゴイネルワイゼン。
悲劇的な冒頭から始まり、切なく展開されるメロディ。それは、


【人々の脳を洗脳するッッッ!!!】


「レディオ・ヘッド!!!!」



突如叫んだレア。彼女の頭上を飛び越えるように背後から少女が現れる。

音楽に聞きいっていたオーディエンス達に異変が生じる。頭の端の皮膚から始まり、体がりんごの皮むきのように剥けるのだ。皮はよく見れば五線譜の乗った楽譜である。
化粧直しから帰ったばかりの女はその惨状に悲鳴をあげたが、すぐに皆と同じ皮一枚になった。


「こうじゃなくっちゃあなぁ」


ミスタはほくそ笑んだ。音が耳に入らぬよう耳を塞いでいたのだ。そして辺りの楽譜達を見渡すと、



「______いたぜ」



ミスタの視線の先には、一体のスタンドがあった。人は楽譜で体をバラバラにされ分解される。スタンド使いはスタンドを隠せなくなる。それがレアのスタンドの一つの能力であった。そして今回のターゲットはパッショーネの金を横領し麻薬商人となったスタンド使いの男___。


「よっしゃお前ら、出番だぜ。セックス・ピストルズ!!________って、お前ら!!!」

「どうかしたのッ!?」


ミスタが覗き込むピストルの中にはいつも6人のスタンドがいるが、それは揃いも揃ってレアの音楽に聞き惚れて眠ってしまっている!


「お前ら勘弁してくれェ!お、No.1........起きてるのか?」

「ミスタ!おいら以外寝ちまったんだよ!」

「他のやつをテコでも起こせよ!今がチャンスなんだ!」

「ムリだ!No.5は特に不貞寝してるんだから!」

「なんだとォ!?」


「ちょっとミスタ!早くして!私の能力にも限界ってモノがあるの!!」


レアは演奏を続けながらも、額に脂汗を滲ませている。これ程の(ざっと見て100人以上はいる)脳を洗脳することは難しい。経験として、100人以上の大学の大講義室に潜んでこの能力を使ったことはある。大学ならまだよかった。皆まっすぐに前を向いている。

しかし今はバラバラな意思を洗脳にかけている。想像以上に、苦しい。



「あなた達、好き勝手やりやがって……」

「あと少しだ…あと少し、堪えてくれレア……」


ミスタは装填した弾丸を撫で、No.1に用意はいいかと問う。そしてリボルバーを回転させ、ターゲットに照準を合わせ、

「ん___いない!!?」

(さっきまでそこにいたのに……見失ったッッ!!!!)




レアはレアで、満足に演奏できていたバイオリンの調子が狂う。まるで、下賤の暇つぶしであるかのような汚らわしいアンダーグラウンドな音楽に変わる。
背中を這うような感触も居心地が悪い。背中がかゆい!感じて我慢できずに、右手を後ろに回す。その瞬間だった。

「ウグッ・・・いやああああ!!!!!」



後ろに手を取りまとめられる。背中を這うような感触とは、ホントだったのだ!やがて双方の手は釘に刺され、背中に硬い木の板が当たる。彼女の痛みで歪む視界には、スタンドと妖しい笑みを浮かべる中年の男が映る。

レアの姿はまさに、誰もが拝し崇めるイエスの最期の姿を連想させるものだった。


「レアッッッ!!!」


ミスタは焦って一発二発と彼を撃つ。二つの弾丸をNo.1ひとりに任せるのは心許ないが、彼の頭には他の選択肢がない。


【ドドッッッ!!!】


「外れてるぜ、お前。俺に当てる気ねぇだろ」


(おかしい!!!確かに、確かに男に当てたはずなのに____!!!野球のフォークボールのようにズレ落ちたぞ!?どうしたNo.1、調子が悪いのか!?

_______いや、違う。
なぜだかレアが弾の犠牲になっているッッ!!!!)



「ギャハハハ!!!
これこそ【ラスト・クリスマス】だ!!この女が全ての犠牲になってくれるんだ!!

かつて神が十字架に貼り付けられたようにな、味わわせてやるぜ!キリストの再来とまではいかなくても、イイ追体験だろう!!

サァ嬲れ!お前の全身全霊、貫け!!この女も誠心誠意受け止めてくれるからよォォ!!!」



先程までの艶やかな見た目と一変して、今のレアは血の通わないゾンビのようだ。口からは鮮血が滴り、ひゅうひゅうと小さく何か言っている。


「ミ、ミスタ......ギセイに、てッ...ゴフッ!!!」


「犠牲にしてだと?らしくねぇなレア!今助けてやッ、」


(る.........待て............どうやって!!!どうやって、何を根拠に助けてやると俺は言ったんだ.........


まだ何の策も、思いついてねェ!!!)














「それでさあ、最後はホントどうしようかと思って!けどヒラめいたんだよ!

【クリスマスパーティしませんか?】ってなぁ!

そしたらやっぱり!その男はクリスマス好きでよ!うーん、さすがクリスマスに麻薬という彼なりのプレゼントを配ろうとしていただけあるよな!クリスマスだと聞いた瞬間のアイツは傑作だった!まるで草むらでデカイ虫を捕まえた時のガキの顔して!レアを解放したんだよ!

まぁその時のレアの顔ったら!ホラー映画の主役顔負けの顔面蒼白で!いや!どっちかって言うと幽霊が適役か!ぎゃははははは!あー!腹痛い!!!

________あれ?お前ら!どーした皆揃ってあの時のレアみてぇな顔して!!」

「.......................」

「いや、ミスタ。後ろ」

「いいのよぉ。続けてミスタ。今宵は【サンタのオジサンやってくる】を《*1》短調で、そして4分の4拍子で歌ってやるわ。勿論、ベッドでバスローブ。大サービスよ」

「ギィヤァァァァ!!!!頼むッッ!それだけはやめろ!!!」

《*1》短調...曲の雰囲気が暗くなります。
4分の4拍子...ミスタの嫌がる数のテンポで演奏します。


「いい夜になりそうだな」

「ブチャラティ、本気で言ってるんですか!」


レアの色気満載のお誘いを、ミスタは頭を抱えて拒絶する。席に着き、ブチャラティにフォークでシーフードを口へ運んでもらっているレアだが、その手は痛々しく包帯で固定されていた。当分、動かすのは無理だろう。


「レア。折角のクリスマスなんだ。楽しもうや」

「懲りないわねアバッキオ。下心丸見えの媚薬カクテルだわ」

「頑なだなお姫さん。その痛々しい腕のせいか?」

「そうかもしれないわね。私は今日、彼の身勝手さに殺されかけたけど、同時に彼の自由さに救われたんだわ」

「本人に言やいいじゃあねぇか」

「ワザワザ聞かせることでもないわ」

「素直じゃないねぇ」

「結構よ」


この会話を聞いていたブチャラティは、やっぱり二人をタッグにしてよかった、と安堵した表情を見せるので、レアは再度タッグ解散実現を要求するのであった。


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