その目は、最初から最後まで透を見つめ続けていた。

戦争で英雄になった時、いくらでも女を抱けただろうに、あいつは一切の邪な欲を持たず、ただ透だけを求めていた。
だから今になってその反動の波が押し寄せてきたなどと言うのなら、それはまあ真っ当な理由であるが。


「重い、重いんだけど」

ある日の呉服店で銀時と神楽は見てしまった。二人が仲睦まじくショーウィンドウを眺めているところを。仲睦まじくと言うか、あれは羊が肥えるのを待つ狼ネ。神楽が朧をそう揶揄したことはあながち間違っていない。

朧は透の頭に顎を置きべったりとくっついていた。透の方は迷惑だと言う様子が隠しきれていない。

「荷物持ってやろうか」
「あ、ありがとう。………いや、でもそう言う意味で言ったわけじゃ」
「じゃあなんの意味だ」
「頭、重いんだけど」
「これは愛の重みだ。取り外し機能はついてない」

透は頭を動かし逃げ出そうとするが、努力むなしく腰をがっつりホールドされた。愛の重みだとか、朧はふざけたことを言って逃げないように顎をグリグリとつむじに押し付けてくる。

「今日やろうか」
「やだ」
「なんでだ」
「白昼堂々、夜のお誘いしてくる人なんてお断りです」
「いつまで待てばいいんだ」
「待ってたとか聞いてないから。朧はおモテになるんだから、他の女性にところに行けばいいのに」
「この非道が!三十路の女なんだから考えを改めたほうがいいぞ。これが最後のチャンスだと思え」
「別に心配してくれなくてもいいよ」
「お前……人生ボアのメリクリみたいにうまくいくと思うなよ。ずっとずっとそばにいる?そう言える相手が本当にいるのかよく確かめてから歌え」
「真夏にそれ言うナンセンスさに突っ込もうと思ったけどその前に怖いよ怨念がこもってるよ」
「透は安心していい。ずっとずっと俺がいる」
「会話が成立しないんだけど。その上どこまで行っても平行線かぁ」
「自分で言うのもアレだが、結構いい物件だと思うぞ」
「聞きたくなかったよ」
「俺は透が釣れなくて本気で困ってる。透は俺が他の人と行為に及んでもなんとも思わないのか?」
「思わない」
「この血も涙もない女が…クソ。余計興奮する」
「怖」

巻き付く腕に体を預けながら、透は朧のムッとした顔を想像し心の中でぼやくのだった。あなた肝心なこと忘れてますよ、と。




まだ告白がない
30.10.22