「おっさんがハロウィンとか……引きます」
「んな固いこと言うなって朧ォ、娘のために楽しんでやるのがパパってもんだろうが。節分で鬼役を買って出るのとなぁにが違うんだよ」
「買って出ると言うか、松平様の場合は 勝手にやる です」
訳あって松平邸にお邪魔している朧であったが、上司はなぜかドラキュラのコスチュームで出迎えてくれた。おっさんのドラキュラはなんと言うか、その妙に西洋っぽくて生々しい。
「あの……お父上をお願いしますでござりまする」
「あ、はい」
娘の栗子はさりげなく俺にこの事態の収拾を頼みお勝手の方へ逃げてしまった。まあこんな収拾のしようがないパパ、俺でも嫌だ。
「松平様ご存知でしたか。ハロウィンは仮装した側が楽しませるのではなく、楽しむ方です」
「あ?そうなのか」
「はい。ほら、行きますよ」
「おい朧、こんな夜中にどこ行くってんだ」
「決まってます。せっかく番外編の枠をもらったのに終始おっさんにフォーカスするわけにもいきません」
「はぁ?朧知らねェのか今はなァ、おっさんずラブってのも流行ってる」
「あれは田中ケ◯だから成立したんです。それと、変にフラグ立てられても困ります」
さ、イケメンを登場させれば万事休すです。片栗虎を外に引きずり出し車を発進させた朧はその時、あいつらに任せればなんとかなると本気で思っていた。
「お前ら、かぼちゃにマヨネーズをディップするかマヨネーズを上からかけるかどっちがいいと思う」
「どっちにしてもマヨネーズから逃げられないんですね」
「ダメだ。クセが凄すぎた」
「あれ、どうしたんですかい。朧兄さん」
「総悟か」
とっつぁんにまともなハロウィンを教えてやれ?小首を傾げた沖田の姿はやはりドラキュラのコスプレだったが、まだ松平様のに比べたら可愛げがある。
「やっぱり、こうでしょう。
おい雌豚。お前渋谷を俺の許可なしに歩いたんだってな。ジャックオランタンみたくその破廉恥なかぼちゃコスでお散歩でもするか?それとも、ご主人様ごめんなさいと醜く泣きつくか?」
「…スパイスが効きすぎなんじゃないか」
「何言ってんです。朧兄さんだって好きな女くらいこう、性的に手玉に取らないと。男が腐るってもんですぜ」
「それなら腐っても本望かな俺は」
「いいなそれ。キャバのネェちゃんに使えそうだ」
「そんなことしたら出禁になりますよ」
普通のキャバクラでそのSMプレイはお門違いである。呆れて物も言えなくなった朧は、そう言えば近藤の行方が知れないと気付き沖田に聞く。
「ああ近藤さんなら、あの人のところにトリックオアトリートしに行きましたよ」
「お前ら、暇だな」
警察ってこう、ハロウィンになると渋谷でDJポリスするもんだろう。今年もその役目は見廻組のエリートたちに取られてしまった俺たちの言えたことではないが、せっかくのイベントなのだからもう少しマシな過ごし方したかったと今更になって思う。いいこと思いついた。阿音ちゃんのハロウィンコス見に行こうとキャバクラに急かすクソ上司に連れられた先には案の定近藤もいた。
「はあ、」
大人のハロウィンなんて痛いと頭の片隅に入れながらも、キャバ嬢の丈の短い魔女っ子コスを密かに透に着せて犯したいと思ってしまった。沖田の言葉を借りるなら、俺の男はまだ腐ってない。
30.10.20