大切な人の為に あなたは
どこまで自分を犠牲にできますか。
「先生。松の下の花が、今年も綺麗に咲きそうですよ」
「ありがとう。
朧、透のことを忘れずにいてくれて」
「先生?」
「______少し、昔話でもしましょうか」
とても不幸な子だった。
「透が幼い頃から、私は透の隣にいた。
私が幾ら殺戮を繰り返しても、透は黙って私の後をついて来た」
私はあの子に生き残る術を教えた。
酷く狡い術だった。人を殺す技だった。
それでもあの子はその一切を受け止めた。
あの子にとってこの世は どうでも良いものだったからだ。
私のためにその腕を振るう、その足を踏む。
虚の手足、奈落は彼女をそう称した。
いつ死んでも構いません。
あなたのために死ねるのなら本望です。
彼女はこの先も到底、自分の命に関心を持つことができないと分かっていた。
そんな彼女がひとつだけ、嫌うことがあった。
「彼女はこの世に執着のない者を殺すことが嫌いでした」
「___それは、何故です?」
「ある日、気づいてしまったからです」
「自分の命に、終わりが無いことに」
人は何回も死なない
30.3.15
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