東京喰種【DUECE】 | ナノ



2009年 5月1日 【看病】

《平子丈》


「おはようございまーす、あれ、タケさん。どこへ行くんですか?」
「俺はこれから有馬さんを引き摺って特等会議だ。
宇井、お前に頼み事がある」
「ハイ?」
宇井はニコニコと返事する。可哀想な奴だ。これからお前が何に向かおうとしているかも知らずに。

「コサメの看病に行ってくれないか」
「・・・・・・え、」

凡人の俺はもちろん、ホープと期待されるお前さえ、有馬兄妹からは逃げられないんだよ。





《宇井郡》

有馬一等。有馬小雨。コサメ。胃痛を起こすこの名前。奴にはひと月で何度振り回されたことか。初捜査と言い昼飯に付き合わされ、行列のできる原宿のソルビンに付き合い、朝礼の時間に来ないので電話すると隣国ソウルなうと言われ、急に写真を撮られて何してんだと掴みかかればTwitterに変顔を晒された(いいね501件)。

そして、彼女へ連絡する機会も増えたのが私のストレスの原因ともいえよう。会議をするにも彼女がいなければ成り立たないのだ。
彼女との連絡はこれまた面倒くさい。LINEは既読無視されてしまうし、(現にこの機能は彼女とLINEを始めるまで知らなかった)電話は非通知にされてしまうしで、最初は逐一番号を変えていたがそれも面倒になり、Twitterを始めることにした。(いずれGPSを導入しそうな自分が怖い)

Twitterでは彼女の動向がタイムリーに見れるので安心だ。彼女もTwitterを始めたばかりで、今はそれにとても熱中している。Twitterを始めたばかりの人というものは、ものすごいスピードでタイムラインが更新されるのである。聞くところによると1時間に1投稿だとか。
しかし、彼女は【もっと】である。思った事いちいちツイートしないで口に出せば?という具合である。本当に子供なんだから。あ、まだ17歳か。

そして、今日も今日とて彼女の投稿をチェックする私は本当に馬鹿。良いように振り回されてる。
最新の投稿を見ると、リプライというTwitterの機能で、『ありがとう!これからもよろしく!』など調子のいい言葉が並んでいる。なんだ?これは。
詳しく見ると、お友達【@hairu_ihei0929】さんから『コサメちゃんお誕生日おめでとう!(私の携帯では見れない絵文字)(私の携帯では見れない絵文字)』だった。ちなみに私の携帯では見れない絵文字は全部はてなブロックのように表示される。アップデートというものが面倒なのだ。

本局を出た私は、スマートフォンをポケットに突っ込み、財布の中を開く。お札は銀行だが、カード払いなら出来そうだ。

「・・・・・・・何か買ってくか」





「・・・こんな時間に何?」
寝起きのすっごいイライラしてる感じ、苦手なんだよなあ。特に年頃の女の子って、どうなの。お見舞いだけど。あ、テキトーにどうぞ。玄関前で雑に行われたやりとり。それとは打って変わったピカピカな部屋。本当にいつも怠惰な生活を送ってる有馬小雨さんのお宅ですか?

「お見舞いありがとう。寝ます」
「こら、ちょっとちょっと。薬は?」
「ナイ」
「体温は?」
「ナイ」
「零度とお見受けしてよろしいでしょうかね!それは!はいここ座って。体温測って有馬さんに連絡しなきゃいけないから」
「お兄ちゃんが気にかけるなんて有り得ない」
「心配してたよ」
「ウソだ」
「まあ、確かに命令したのはタケさんだけど」
「ほらね」
有馬さん、確かに無表情だから分かりにくいよなぁ。ムスッとしながらも、小雨は体温計を脇に挟んだ。古くて、検温に時間が掛かりそうだ。

「遅くない?脇の力で壊れた?新しいの買ってくるか?」
「余計なことしないで。これは、小さい頃から使ってるから仕方ない」
「そう」

「ホープはお金持ちだから、そういうの分からないんだ」
「え?」
「いつも新しいもので身を固めてるから、そういうの分からないんだよ。この【現代っ子】め」
「どっちのセリフだ 【トレンドサーフィン女】」
「いだだだだっ、病人に何するんだっ」
頭を鷲掴むとやはり痛がる。この頭誰か治してくれ。風邪よりも先にこっちだろ。
「全く。風邪の時まで憎まれ口叩きやがって」
「うるせぇバァ〜カ」
「はよ寝ろ病人」
「ヘイヘイ。熱さまシートある?」
「買ってきたけど」
「あざ」
「ありがとうございますと言え」

はあ・・・やっと寝たか。このじゃじゃ馬娘。熱は38.6。タケさんに連絡をすると、『お前が面倒見てやってくれ。すまない。今出先だ』と。ああ、有馬さんは当然、タケさんすら看病を変わってくれそうにない。小雨のパートナーになってから管理を任された彼女のスケジュール帳を自分の鞄から漁り、開く。つい昨日【ニイヨン】から帰ってきたばかりだというのに、また任務。有馬班は多忙だ。
ペラペラと5月より前のスケジュールを開く。自分が配属される前の有馬班のスケジュールも、かなり詰め詰めだ。
3月中は女の子の文字。きっと小雨が1人で書いていたのだろう。(きっと仕方なくダラダラと)
しかし、昨年と1月、2月は男の文字だ。やはり、前代のパートナーに任せてたんだな。元彼を気にする今彼のような気分になった。
やめよう。有馬班の息の詰まるようなスケジュールはきっと永遠不変なんだろう。

5月のページに戻した。ここも任務だらけの窮屈な文字の羅列。そこに私はピンクのペンでお誕生日おめでとう、そう記した。もう18歳、いやまだ18歳と言えるか。こういう女の子らしいことも書いてあげなきゃな。JKごっこ、今度の休みに付き合ってやるか。

戦いの中に身を置いていても、無邪気な心を忘れないで欲しい。
眠る彼女の前髪を、そっと梳いた。







「・・・・・どうしてこうなった」

冷や汗、冷や汗、冷や汗しか出ない。普通に寝ればまだ汗をかく季節でもない。宇井郡、どうしてこうなった。

私は今、どうして小雨の抱き枕に?

ち、近い・・・。彼女の顔が目の前にあって、柔らかい肌に包まれていて____ダメダメ。考えたら負け。

「なんのるいろぼりん・・・・・・・・」
「は?ぱーどぅっん?」
どうした本当に。有馬さん、タケさん。こいつを看病する時はいつもこんな感じですか?いつも抱き枕やってるんですか?

「起きてるだろ、お前」
「はらむ、孕む・・・」
「・・・・・・。」
「はら、原村さん」
孕む?原村さん?孕む寸前までシた元彼の名前?何の夢?叩き起すか?






「_____スミマセン。私のせいで」
「は?」










「私が、出来損ないだから」





「コサメ、どうした」

訳もわからず、抱きしめる。
小雨の額を涙が伝った。






*なんのるいろぼりん(韓国語)私はあなたを失った
29.8.9
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