東京喰種【DUECE】 | ナノ





2013年9月1日 【鈴屋什造】



《鈴屋什造》


「待ってたよ、什造」


あの人と篠原さんが僕を助けてくれてから、もう何年か経つ。何年経ったかちゃんと覚えてない。けど、アカデミーにいた時間はすごい長く感じた。



早くコサメさんに会いたくて、頑張りました。

そう言ったら肩をナイフで刺したことは許してくれた。可愛い後輩ができてよかったね、と篠原さんはコサメさんに言っていた。



「遺書もう書いたの、」
「まだですよ」

ラクガキだけ書くのはもうよしてね、篠原さんにはそう言われた。
仲間や友達にありがとうでいいんだよ、そう言われたけど、まだ何も書いてない。


「白紙でもいいですかねえ」


コサメさんはこっちを見ていいんじゃない、と笑ってくれた。


「什造は死なせないから」




しゅうげきの予定はその次の日だった。



《宇井郡》




「作戦を開始する」


梟 隻眼 討伐作戦は和修常吉の号令で始まった。




「今度こそ死ぬ気がする」
「あ、ホープびびりモードだ」
「コサメだって、いつ死ぬかわからないだろ」
「じゃあ私が死んだら墓前にはピアーノパパのシュークリームとナッシングスのハワイアンパンケーキ、それから」
「そんな面倒ゴメンだ絶対に死なないでくれ」
「ホープ私今キュンとした」
「イかれてるんじゃないのか」




有馬兄妹は遺書を書かないらしい。
有馬さんは悩んだ末に白紙で遺書を出すとタケさんは言っていたが、小雨の口から遺書と語られたことは今の今まで一度も無かった。


今回、彼女とは違うフィールドで戦うことになる。

この梟討伐を期に5年間のパートナー関係を解消したからだ。今私は第0番隊の副隊長で、コサメはタケさんの班にいる。


こうやって小雨無しで立つと、彼女の支えがどれだけ心強かったか思い知らされる。


篠原特等が殺したはずの梟がもう一体現れた。
加えて鈴屋くんと篠原特等の片足が失われた。

戦力は減る一方だった。


「宇井も倒れたぞ!」

「何やってる!鈴屋だけを戦わせるな!」

「負傷者は下げろ!」

「ダメだ!人員が足りない!」

「有馬はまだか!!」



片足で鈴屋くんが戦ってるのに、私は何もできないなんて_____


「鈴屋くん、もういい。撤退だ」



「い、や、だ___」



有馬さんの到着は、0番隊の到着はまだか____




「全く捜査官の鑑だね、鈴屋ボーイは」


「望元さん、タケさん!!持ち場は、」

「局長の指示だ。既に作戦は追撃戦に移行している」

増援に来たタケさんと望元さん、鉢川さんのクインケは既に予備のものだった。
それだけこの作戦で消耗してしまったのだ。



「心配ない。


俺達の後ろには____」









「コサメがいる」





梟と私達を見下ろす程高い所から、コサメは得意の【シンコイワ】を振りかぶって飛んだ。






「今夜のメインディッシュは、私だよ」






振ると刃先が伸びるブレード、【シンコイワ】。コサメの大きな斬撃が辺り一帯に広がり、梟を切り裂いた。


「コサメ、遅いぞ」


「ごめんなさい。



______もう、こんなに犠牲が出てしまった」



援護要りません。そう言った小雨の瞳はいつになく冷たかった。

隙を与えない攻撃を繰り返し、梟を確実に追い込んでゆく。

明らかに、今日は動きが違う気がした。

一人で梟を倒してしまいそうな勢いだ。


「コサメの野郎、援護要らねえって偉くなったつもりでいやがるのか!!」

「援射やめろ!足引っ張んな!」

「でも、鉢川特等!あいつは出来損ないですよ!」

「いや。ありゃ出来損ないのする動きじゃねぇ___」

小雨の化け物じみた動きを見るやいなや、局員からそんな言葉が聞こえ始めた。

隣でタケさんは笑っていた。

「ここでようやく飼い慣らしたか。出るぞ。遅すぎる本気が」

「タケさん...?」


「普段のコサメは本気の10分の1程度しか力を出さない。いや、出せないと言った方が正しい。


アイツの強さは、意志の強さに比例する」








「今日の梟は娘か」


こんな大きい戦は久々のように感じる。

初陣の時は15だった。その時から私は遺書を書くことを避けていた。

誰も読んでくれるとは思えなかったから。


私は出来損ないだし、この命はそう長くない。

そうやって諦めながら生きてたけど、本当は死にたくないのだと、今気付いた。



有馬貴将がいなくても、私が____!!!





【各地に散っていた0番隊が集結。“隻眼の梟”の下へ集結しました】



「本当、やる気にムラがある」

「有馬さん!!」

「や、遅くなったね。

0番隊、待機」


到着を皆が待ち望んでいたというのに、有馬さんはただ小雨と梟の姿を見るだけだった。

「コサメのところへ行かなくていいんですか?有馬さん」

「必要ないよ。それにああやってやる気が出てる時は邪魔しちゃ悪いし」

見ての通り、援護する間も作らないしね。有馬さんは言った。

確かに小雨は連携が得意だ。援護する隙は私もいつも貰ってた。だけど、今回に限ってはない。

「きっと今は使命感に襲われてるんだよ。
俺がいなくてもやらなきゃ、ってね。だからあんなにパワーが出る。

有馬貴将はいないって設定にしといて。タケ」



梟は大分弱った。

「なっ!!梟を、喰った!?」

しかし、あろうことかもう一体の地に伸びている梟を口に入れ逃げる。


小雨が一度引き私達の方へ来る。



「追います。羽赫下さい」

「よくやったな有馬上等。後は俺が行こう」

「_____有馬特等。私も最後まで」


クインケを持って飛び上がる有馬兄妹を尻目に、タケさんは大人げない、とこぼした。




「可笑しいな。ずっと出来損ないのままかと思った」














「篠原さん_____」

「もう、目を覚まさないのかもしれないな」



結果、梟 隻眼 討伐作戦は多大な犠牲を出し失敗に終わった。




しかし、有馬兄妹の存在、特に妹の実力を目の当たりにした局員らは彼女への見方を変えた。

まだ増大な戦力を内に秘めているという事実は、CCGに希望を与えた。


「什造。私はいいから篠原さんの方に行きな」

「コサメさんが僕を死なせないって言ったこと、本当でした。ありがとうございます」

「足を失くしたでしょ。

私が遅れて到着しなくても、什造を守れたかは分からない。
篠原さんを意識不明まで追い込んだのも、私」

「守ろうとしてくれたです。僕のことも、篠原さんのことも。


篠原さんの体が帰ってきてくれたので、僕はいいです」





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