33策士





「俺の寿命は、あの日から13年。君たちの寿命は26年。成功したらの話だが。フォルク。それでもやるのか」


「レア。君が唯一の成功体だ。

エルディアの巨人文明に対抗しうる人材だ……。ロンバルド家。アッカーマン家と並ぶ武家。今はひっそりと名前を変え商会を開いていたようだが__。

私の目に狂いはなかったらしい」





レア副団長___?

俺の親父、グリシャ・イェガー。俺が見ているのは紛れもないその親父の記憶だ。親父はどこかで巨人化の能力を手に入れ、王家の持っていた【始祖の巨人】をフリーダ・レイスから剥奪し、余命が尽きる前、俺に2つの力を継承させた。

今頭の中で流れたシーンは幼い頃のレア副団長やフォルクと呼ばれる目つきの悪い少年が熱にうなされていたり、親父の調合した薬を飲まされていたり___どうやらそれが壁が壊される前に流行ったと言われている不治の病で間違いないらしい。


唯一の成功体であるレア副団長が手に入れたのは、巨人科学に反する力だ。巨人の視界に映らないという__。






「_______レン、」





「________エレン!!!!」



「……………はっ」




「出口を確保しました!」

「よくやった」

「レア副団長____」

「どうしたの、エレン」

「……………いや」

「ありがとうね。私の指示に従ってくれて」

「いえ!......あ、あの、ヨロイブラウンは__」

「エレンの体内に」

「あっ、あの後___」

「あれがなんだったのか__私にもよくわからないんだけど。
ともかくエレンはヨロイブラウンで巨人の硬質化の力を手に入れた。今まで失敗続きだった実験がほら、一発でうまくいったじゃない。ハンジにも見せてあげたかったな」


レアさんの言う通り、後ろを見ると俺の巨人化した抜け殻のような残骸が鉱石のように残ったままでいた。

「何タラタラしてんだ。馬車を待たせてる」

リヴァイ兵長とレア副団長の先導にしたがって上へ上がると、アルミンが手を差し伸べてくれた。無事で良かったと心から思う。ミカサと三人で揃うと、一気に気が抜けた。

今までやけに明るいところにいたせいか、暗い夜の景色にはまだ目がなれない。レアさんはその暗闇の中で「ひっ!」と悲鳴をあげた。

なんと兵長が包帯をキツくしめているところだったのだ。俺達が何事かと目をやった先には鋭い兵長の双眸が光っていた。レアさんは上半身を夜風にさらしていて、早く、と兵長を急かした。










「見て」

馬車に乗り込むと、ハンジさんが既に横たわっていて、怪我を負ったと言いながら笑っていた。あれを倒さなきゃ、壁内は地獄に変わるのよ。弾丸で肩を三発も撃ち抜かれたらしいレアさんは今、リヴァイ兵長に抱えられている。さっきの包帯が応急処置か。無理すんなと兵長に指摘されながらも、レアさんは巨人化したロッド・レイスを指さした。



「エレン。あなたをバケモノに変えたあなたのお父さんは、決して間違っちゃいなかった。こうして人類が生き残るために、あなたはバケモノになる必要があった」


「そうですけど……レアさん。俺はここで役目を終えてもいいと思っています。俺をあの巨人に喰わせれば、ロッド・レイスは人間に戻ります。初代王の記憶を王家の人間であるロッド・レイスなら思い出せる」

「___そんな!」

「そうみてえだな。人間に戻ったロッド・レイスを拘束し初代王の洗脳を解く__。これに成功すりゃ人類が助かる道は見えて来ると。
そして、そうなる覚悟はできていると言いたいんだな。エレン」

「はい」

「エレン、そんなことしなくていい」

「私もそう思うよ」

「レアさん……選択肢はもう一つあります」

「ヒストリア__?」

「ひとえに洗脳を解くといっても難しく、レイス家は何年も失敗しているようです。ロッド・レイスに記憶を新たに改竄されてもかないませんし……。むしろエレンが始祖の巨人を取り上げている今の状況こそが人類にとって千載一遇の好機なのです」

「私もそっちの選択肢に賛成だ。けど、いいのかい?ヒストリア。君のお父さんを殺す他ないぞ」

「_______」

馬車に寝込む負傷したハンジさんが、ヒストリアを見て言った。

「私はお父さんが間違ってないって信じたかった___。お父さんに嫌われたくなかった。


でも………もう、お別れしないと」


























「何を考えているエルヴィン!!!!」

「俺らを殺す気か!!」




ロッド・レイスの巨人はこの城壁都市 オルブド区に向かってきてはいるが、ひとまず、ここは安全だ。

作戦会議室へと変わった雑なテントに、憲兵のバラの紋章に混じる俺たちの掲げる翼。
決して飲み込まれることなく凛々しくあるその背中は、我らが団長エルヴィンである。

リヴァイはそれを一歩下がったところからみていた。俺の後ろには新しい班員が女王あわせて勢揃いだ。前にはハンジが座っている。


「住民を避難させず街に留めるだと!?」

散々に言われるエルヴィンをハンジは悔しそうに唇を噛み締めて見守っていた。そこにカツカツとブーツを鳴らして歩み寄る者がいた。レアだ。



「三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものです。
エルヴィン。この方達の言うことを聞いていては机上で空論を戦わせている間に壁が壊れて絶滅します」

「レア。大きな賭け事の後は君の嫌味ジョークがいつにも増して心に刺さるよ」

「聞きましたよ。酒場のギャンブラーでは飽き足らず、王様を相手取ったとか。博打討ちにジョブチェンジ…今からでも遅くないでしょうけど」

「はは、夢を叶えたらにするよ」



喧嘩まがいの二人の会話を、憲兵共は固唾を飲んで見守っているが、こいつらは知らないだろう。

レアとエルヴィンにはこれが通常運転で、加えてレアが強気なのは口だけであり、心はエルヴィンに絶対服従だということを。ここに小説家がいたら大いに喜ぶだろうな。こんな複雑な男女の関係はいい本になるだろう。

そして、レアは「あ、話が脱線してしまいましたけど」と今更思い出したように言うのだ。わざとらしく。


「文句は私に申してください。この作戦の責任の一切は私が負います」


「なんだと?」

「つまり......あの巨人はこのオルブド区外壁で仕留めるしかありません。そのためには囮となる大勢の住民が必要なのです」

「万が一失敗した場合にそなえ、オルブド区の住民には避難訓練と伝えておけば、オルブド区の外や内へ集団での移動が可能となります」


エルヴィンとレアの真剣な眼差しを俺はただ後ろから見守っているしかないが.....。
今まで内地のぬるま湯に使っていた奴らには響いたようだ。



「やるしか、ないようだな.......」



「目標はかつてないほど巨大な体ですが、それゆえにノロマで的がでかい」

「壁上固定砲が有効でしょう。しかし、それでも倒せない場合は、

調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません」




30.8.22



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