22枯れ時のハナ

「嘘だ!巨人が夜に動けるはずがないのに!」
「嘘じゃない目の前を見ろ!!」

「な、なんで巨人が.......」

夜のウトガルド城は鬱蒼としていたが、私達が夜を明かすにはうってつけの場所だった。
そんな一時の安寧を味わっていたその時だ。足音が地を鳴らしたのは。私達は疲れきった神経を尖らせ屋上にてブレードを抜く。


「皆、少し落ち着いて」

「__レア副団長!!」


作戦を一緒に確認しよう。そう言ってレアは巨人に背を向け、私達ひとりひとりと目を合わせた。

「巨人が現れるのって、想定の範囲内なはずだよね。ここは壁外も同然。一旦落ち着こう」

この状況下で巨人に背を向け、穏やかな笑みを浮かべていられるのはレアくらいだろう。背後にある死を感じさせないというか。
怖いもの知らずだな。リヴァイならきっとそう言う。

「この数の巨人に用意された刃では当然足りない。大きい巨人の項だけを狙う、いいね?」
「はい!」

「それでも勝てるとは言い切れないけど、」

巨人と向き合って、レアはブレードを夜の空高く翳す。月光が美しく反射して彼女の目に映った。


「............作戦を始めよう」




足掻いても何も変わらない。
残された選択肢はいつだって生きるか死ぬかの二つ。
戦おう、生きよう。そう決心しても待っているのは死かもしれない。そうやって生き延びて今がある。


「レア、」
「どうした」

「____巨人が味方だったら良かったね」



そんな泣き言を言っても変わらないから。


兵士になって5年。いつからかこう思うようになっていた。死にゆくつもりで生きたいと。

つまりは己への慰めである。
生きているみたいに死んでも、死んでるみたいに生きても大差ない。そんな気がしていた。


「ナナバ?何ぼさっとしてんの」
「少し、思い出しちゃってね」
「何を?」


「君が死を待ってた時のことさ」





あれはいつだったか?

レアが壁外で馬をなくしガスを切らし、草むらに横たわって死を待っていた時は。

鳥が遠くで鳴いていて、私は偶然通りかかった。

彼女の目を覗き込むと、それはもう終わってしまった黄昏をのぞむようにぼんやりとしていた。


まるで花みたいだと思った。

そして水分がなくなって今にも枯れそうなその唇で、彼女は言葉を紡いだのだ。


「生き残ったの、私だけみたい」



その時のレアは、まさに死にゆくように生きていた。












「ううああああああ!!!!」


ザシュッ。ゲルガーが刃とガスを大胆に消費して巨人をなぎ倒した。そんなの無駄遣いだ。分かってるのか。でも分かってて私も、刃を縦に入れてしまう。効率悪いって、リヴァイとレアなら冷たく返すんだろうな。

でも私達には、ここで死ぬだけの覚悟がもうできてるんだ。




どれだけ兵士として功績を残しても、いつか、手にした栄華は崩れ落ちる。

受精をハチに託し、後は死を待つだけの花。
自分の子孫がどこで生まれたのかを知る由もない。生まれるのかさえわからない。



それでも、いつも同じ選択肢を選んできた。最後まで戦うだけだった。







「すまねえ__ナナバ。

頭打っちまって。もう力が、入んねえ」

「ゲルガー!!!」



これが最後の刃だ。

この小さな抵抗を、私の最後を仲間のために使えるのなら、それは誇らしいことだ。


最後の刃を使い果たした。切れそうだったガスも最後にひとつ大きく吹いてなくなった。


何が楽しいのか巨人はそろって私を見つめている。
顔から血の気が引いていくのを感じる。もう、じかんだ。



「ああ、いざとなったら怖いな。レアは今、生きてるのか...?」





私は花だ。死を待つ花だ。


今の私はかわいそうな花に見えるか。

残念だが、私はただ死を待つだけの花じゃない。

まだ、人類の英雄が、希望が___ここにあると信じて。




巨人に腹を掴まれた。凄まじい握力で私の胃液が吐き出される。


私は自分のことをまるで他所のことのように見ていた。意識が遠のく。痛みが心做しか薄れて、ああ、もう遠くに行くのかな。

風に揺られて花びらを飛ばしたあの時の花が、目に焼き付いて離れないよ。レア。あなたもそうだよね。

視界がぼやけてきた。いよいよ最後か。


希望の光がひとすじ、私の足元を走っていた。
私はその光に足を据えて、ゆっくり、ゆっくり、歩いてゆく。あの人が、ミケが導いてくれている。



じゃあね。あとのことは、託したから。







「_____はあ、はあ、はあ」

「レアさん!しっかりしてください!」
「ダメだ、もう、虫の息だ_____」


「ナナバさんがやられた!これで先輩達はレアさん以外皆やられちまったぞ!!

最後の砦だ!レアさんはどうした!」


「あの猿みてぇな巨人が投げた石で、腹部が_______レアさんは、もう、助からないかもしれない」











「私、崇高にいきたかったよ」



耳元であの子の叫び声が聞こえたような気がした。
叫び声と一緒に、後悔の言葉も。近くで聞こえる。

地面に横たわったあの日、隣で咲いていた花は、まだ元気でやっているだろうか。


私達が花なら、とっくに花びらは枯れ落ちているよね。そうでしょ。ナナバ。





遠くに行っちゃ、やだよ。






30.8.2
ナナバにはもっと幸せに亡くなって欲しかったです。死に幸せは変な表現ですがアニメはトラウマものだったので。



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