「虹、疲れてるわね」


「うん………ん?!ううん!全然!」


「……下手ね」



誰の目から見ても、虹は疲労を隠せていなかった。

そして、誰から見ても、虹は自分の幼馴染であるダメ男、太刀川慶に良いように使われていた。


「入隊した時点で価値観の相違がありすぎるわよ。

よく一緒に居られるわね」


「慶さんといると楽しいけど、私は無駄な時間を過ごしてる気がする。

気分によって冷たかったりするし。



蓮さん……慶さんは、何でああなのかな」



「太刀川君なら昔からあんな感じよ」



「そう……」



「なんで太刀川君のところに弟子入りしたの?」


「慶さんに面倒見てやるって言われて、断れなくて。

まあ、慶さんも剣道やってたって言うから良いんだけどさ………」


「え?
太刀川君、剣道の経験ないわよ。

中学の時の体育の授業くらいしか」


「……………………え?」


「嘘つかれてるわね」


「最悪だ………………


あー、何で弟子入りしちゃったんだろ」


「今からでも忍田さんの所に行ったら?」


「行ったよ。

慶さんが稽古つけてくれないときは、忍田さんがつけてくれるから。
それにしても……なあ〜」


「こき使われすぎよ」


「………ですよねー」



虹は大きなため息をついた後、私に助けを求めるように合掌して、こう言った。


「蓮さん!お願い!


慶さんをどうにかする方法を教えてください!

蓮さん、慶さんの幼馴染でしょ!」


「そうだけど……」


「お願いします!」


「はぁ………

虹も大概ね。」


「………私は慶さんとは違うから!」


「そこがまずダメよ」


「え?なにがダメ?」


「違うとか違わない以前に、同じものとして見ないことよ。

太刀川君は、新しいジャンル。それが大前提」


「新しいジャンル……」



「それだけ教えとくわね。

そこからは虹の正義感で、思うようにやってみなさい。

結果次第で、次の方法を教えてあげるわ。

また私のところに来て」










それから、三ヶ月が経った。
入隊してからは八ヶ月経っただろうか。



「あー可愛い。本当に可愛い。

どうしよう………俺、どうなっちゃうんだろう。


いや、虹にならもうどうされてもいい!」




あれだけ虹を尻に敷き、パシリにして居たはずの太刀川は、今では立場逆転。

虹の事で頭がいっぱいの、弟子煩悩、というよりは
虹に恋をした、そんな様子だった。





「慶さん!稽古の時間です!お願いします!」


「虹もう来たのか!ちょっとこっち来い、いいモンやるから」


「あ、蓮さん!こんにちは!」


「……………本当、馬鹿ね」


「何が?」


「色々と」


「ほら、虹早く!」

「嫌ですよ!どうせ碌でもないもんでしょ?」

「違うよ、これ。

この前の東さんのランク戦のビデオ!」

「あー、慶さんもランク戦のビデオとか見るんだ?」

「はあ!?そんくらい見るよ俺だって!
これ見て対策立てようぜ!ハイここ座って!」

「この前までは興味なかったのに変なの。

東さんのスナイプは殺気を感じれば何とかなるとか言ってたくせに」

「何とかならないもんなんだろ!?この前、虹が言ってたじゃん」

「覚えててくれたんですか?」

「ああ、ただ説得するだけなのに、虹泣くからな」

「それは覚えなくていい!」

「いった!キック!いった!」

「蓮さん!慶さん抑えて!

ドロップ行きまーす!」

「ちょ、やめて!やめて!あああああ!」





弧月を手に取ってからというものの、私は、響子さんの勧誘を受け、准と一緒に沢村隊に攻撃手として所属。


蓮さんのおかげで、適当に扱われていた慶さんにきちんと師匠として弧月を教えてもらえるようになった。

他に、忍田さんにも地獄の稽古と呼ばれる週一回の追い込み練習、
東さん、風間さん、蓮さんの連携・戦術指導、
なぜ始まったか分からない響子さんのメンタル指導、
最近では風間さんや迅にも開発されたばかりのスコーピオンの使い方を教わりはじめた。


そして、二ヶ月前から結果が出始め、私は攻撃手のなかでも上位に食い込むようになった。

一位と二位には慶さんと迅がいつもいたが、
古参の桐絵やスコーピオンを始めたばかりの風間さんを勝ち越し、
私は三位の座を奪ったのだった。






微笑み一つで沢山なのだ

「私がいま、このうちの誰かひとりに、につこり笑つて見せると、たつたそれだけで私は、ずるずる引きずられて、その人と結婚しなければならぬ羽目におちいるかも知らないのだ。女は自分の運命を決するのに、微笑一つで沢山なのだ」(太宰治/「女生徒」)





29.3.29

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