「ねぇ、一生のおねがい!論文手伝ってー」

「ダメだ、自分でやれ」

「うげ、」


「鋼にも来馬にも頼るな。
お前はいつになったら一人で論文が書けるようになるんだ、今まで散々助けてきたんだから今度こそ一人でやれ」




と、風間さんから伝言です」


「ンガァァァ死ぬゥゥゥ」

「死ぬなんて言わないで、紅恋ちゃん」

「滅びるゥゥゥ!

大体なんでビデオメッセージ!
ムカつく顔が動いててウザさの極みなのよ!」

「まあ、落ち着いてください、俺はこういうの良いと思います。
紅恋さんがそういうと思って、こんなのも撮ってありますよ」



『あいつは多分ビデオメッセージで腹たてると思うから、つけたしておく。

今日中に終わらないと家に入れさせない。チェーンをかけておくから覚悟しとけ』

「…」

「えー!紅恋さん、風間さんと同居?ラブラブじゃないっすか!ヒュー!」

「ブン殴られたいのね太一」

「ごめんなさーい!」

「一緒に住んでないわ、風間が隣の部屋を勝手に借りたから…」

「「「へえ」」」

「何、変な目で見てこないでよ」

「そりゃ疑いますよ、風間さんと紅恋さん、本部でもよくイチャイチャしてるじゃないですか」

「イチャイチャしてない、あれは虐められてるのよ」

「「「へえ」」」

「だから何よその目!もう!
ヘルプ結花ちゃぁぁぁん!」

「よく我慢できましたね」

「わかってくれるのは結花ちゃんだけよ」

「分かってますよ、風間さんと紅恋さんはオペレーターの間で公認カップルですから」

「こいつ何も分かってないし!もう否定すんのもメンドイ泣きたい」

「もう認めちゃえばいいじゃないですか」

「それに風間さんって紅恋の合鍵持ってるんでしょ」

「それはたまたま…」

「「「「へえ」」」」

「いい加減にしてえええ!」

「落ち着いて紅恋さん、論文書きましょ」

「もういい今日はここに泊まってく…」



日曜日の鈴鳴支部。##NAME2##紅恋は机に突っ伏して白目を開け、口から泡を吹いていた。目の前には白紙のプリントと筆箱が置いてある。
その周りに座るのは村上鋼と別役太一、今結花だ。それぞれがそれぞれの宿題にペンを走らせ取り組んでいる。
隊長である来馬辰也は紅茶でも入れてくるね、と言ってキッチンへ行ってしまった。

なぜそんなことをしているのかと言うと、紅恋が来馬隊だからだ。

近中距離手である紅恋と攻撃手村上鋼での孤月の連携技、また中距離では銃は使わず射手用トリガーを使う紅恋に、銃手である来馬辰也とのアステロイドの連携技が物を言う隊である。
トリオン量の多い紅恋と鋼はサイドエフェクトを持つが、火力に頼らず頭脳やサイドエフェクトを利用した戦法をとる。
そして今紅恋は、自分の隊のある支部で論文を終わらせようとしていた。


論文やレポートが出た時、一人でやると廃人になりかけた経験から、本部長忍田にボーダー内でこなすよう命令が下っている紅恋。
彼女は必ずと言っていいほど本部か鈴鳴支部でこのような姿を見せている。


そのうち、本部でやっていると、ラッキーなことがある。同じ大学生に手伝ってもらえるのだ。

紅恋のチョロい人間リストへ仲間入りを果たしている堤や東は紅恋を甘やかして二つ返事で引き受けてくれるし、
諏訪は文句を垂れながらも最後には「しょーがねぇなぁ」と手伝ってくれるし、本部の大人たちも忍田を筆頭に結構見てくれる。

だが、一番厄介なのは風間だ。まず、手伝ってくれない。
紅恋が誰かに教わっていると自分がやる、やります、と言って替わる。だがその割に何もしない。
人が泣きそうになっているそばで優雅にコーヒーを飲みながら、そんなのもできないのかお前、俺はもうとっくに終わらせたぞ、そんな課題あったかも覚えてないと言いながらスマホをいじっている。

マジで何しに来た。帰ってしまえ。
紅恋の為にいてやってるんだぞ。感謝しろ早くやれ。

そんなやり取りをして喧嘩になってカツカレーを奢れと言われる、そんなサイクルが出来上がっているのだ。


今日は風間に邪魔されないで済む鈴鳴支部で論文を頑張ろうと思ったのに、
わざわざ画面を超越して紅恋のやる気を削ぎに来た。
せっかく鋼が彼自慢のサイドエフェクトで大学の勉強を覚え始めたところなのに、
鋼も鋼で「紅恋さんの為なら心を鬼にします」とか言い始め、覚えるのをやめてしまった。
鋼はもう風間に汚染されている、無念。

「はぁ、結局あいつの監視下だよ」

「紅恋ちゃんは、風間さんに愛されてるんだよ」

「絶対ないわ、あいつ好きな女には優しく尽くすタイプだし」

「風間さんってなんだかんだ紅恋さんに優しいですよね?」

「やめろやめろ、それだけはやめろ」

「えー」



お喋りに花を咲かせている間に夕方が過ぎて、夜になってしまった。

「じゃあ今日はこれで帰ります、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」

時計は20時を回って、来馬は高校生である鋼と太一を玄関から送り出して、そろそろ自分も帰ろうかと思い後ろを振り返った。紅恋はまだ、泣きそうな顔をしながら紙とにらめっこしている。

「紅恋ちゃん、もうそろそろ帰らない?」

「論文…終わってないから
それに風間に会わせる顔がないっていうか、家に入れてもらえないっていうか」

「そっか、そんな紅恋ちゃんにスペシャルゲスト」

「?」


「紅恋、家にチェーンとか本気にしてたのか」

「え…」

「風間さんだよ」

「会いたくなかった…」

「おい」

この時、来馬はちゃんと気づいていた。嫌そうな顔で風間を睨む紅恋の顔に、少しだけ安堵や嬉しそうな感情が見え隠れしていることに。

「帰るぞ」

「風間?」

そう言って紅恋の手を引っ張る風間が穏やかな顔をしていることに。多分、彼自身は気づいていないだろう。

「家にチェーンかけるんじゃなかったの?」

「論文手伝ってやる。その代わり今から1年間俺の奴隷やれ」

「はぁ?1年は長すぎよ!」

「じゃあ1日」

「まあ、そんくらいなら…」

「よし、決まりだな」

「え!待って待って!」

「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックだ」

「なにそれ」

「最初に無理そうな事を頼んで拒否された後に、実現できそうな事を頼んで承諾してもらう心理学のテクニック、
本当の欲求を後回しにして承諾してもらいやすくなる」

「せこい手ェ使うわね」

「そうだな、確か紅恋が寝てた講義の内容だったな」

「どうしよう風間パイセン…」

「蒼也様とお呼び」

「無表情やめてよ怖いから」

「紅恋ちゃん、明日は夜から防衛任務入ってるから、忘れないようにね」

「紅恋トリガー忘れんなよ」

「忘れないわよ」

「「じゃあ、おやすみ」」

「おやすみなさい」

・27.11.12
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