「苗字さん、診察室へどうぞ」




最近なんだか怠いし鼻がぐずぐずだしやだなぁ花粉つらい、なんて思っていたのは昨日まで。今日になって咳も出始めて熱っぽいのもあって、やっとこれが花粉ではなく風邪なのだとわかった。馬鹿は風邪を引かないというがあれは気付かないだけらしい。今日まで気付かなかったあたしは馬鹿だということだろう、うんわかってる。
しかも病院に行こうにもあたしがいつも行っている病院は休日で開いていない。
そんなこんなで怠い身体に鞭打って少し遠い病院に来たわけだ。




「ではお座りください」

「お願いしま、」




診察室に入って顔を上げると懐かしい鮮やかな色に言葉が詰まった。え、うそ、




「……黒崎くん?」

「え」




顔を上げた白衣の先生はやはり高校時代に同じクラスだった黒崎くんで、彼も驚いたように目を見開いていた。




「苗字!?」

「あ、うん。苗字です」

「うわ、久しぶりだな! 高校以来じゃねぇか?」

「そうだね」




ニコニコと笑って話す彼はあの頃と全く変わっていなかった。少し、いや大分大人びたけど、暖かさは変わっていない。




「お医者さんになったんだね」

「あぁ、まぁな」

「白衣似合ってる」

「そうかー?」




ぐい、と眉間のシワが深くなったが、それは怒っているのではなく照れているのだと思う。顔が少し赤いから。




「あ、わりぃ。診察しねぇとな」




今日はどうなさいましたか、と問診をはじめた黒崎くんはすっかりお医者さんだった。いや、うんお医者さんなんだけど。





「……風邪、だな」

「あ、やっぱり」

「お前なぁ、変わってねぇよな」

「はは、黒崎くんもね」




困ったように笑った黒崎くんに笑いかえせば「これ、」とメモ用紙を渡された。
見てみるとそれはいつのまに書いたのか、アドレスと携帯番号が並んでいた。




「え、」

「あーそのな、後悔してたんだよ。高校んとき、アドレスも交換せずにそれっきりだったろ」




いつでもいいから連絡くれ、な?





なんともないふりして「うん」と診察室を出たが、さっきより確実に熱が上がっていると思った。病院の意味!



とかいったって結局は前の病院からここの病院に変えるんだろうなぁ、と薬を待ちながら考えていた風邪っぴきな春。



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