お天気お姉さんが今日は4月上旬の気温だと言っていた。たしかに暖かい。寒いのが苦手なあたしにとって喜ぶべきことなのだけど、今の時期に春の訪れを感じることは気持ちが重くなるだけだ。





「なんちゅう顔してん」


「あー、市丸先生」


「しけた顔しとると幸せ逃げんでー」





ぽすりとあたしの頭に手を置いた市丸先生はへらりとした顔であたしを見下ろした。暖かい陽射しが色素の薄い髪に反射してきらきらしている。まぶ、しい





「あたし留年する」


「なに言ってん、もう大学決まっとるやろ」


「……卒業、したくない」





今はあたしと先生以外誰もいない教室を見渡すと聞き慣れたみんなの声が聞こえる気がした。最近のCMだとか、卒業ソングだとか、 だめだ。
めっきり緩くなった涙腺が疼く。あぁもう、





「僕ははよう卒業してほしいけどなぁ」





置いたままの手でくしゃりと頭を撫でられる。先生にとっては、何回も経験してきた卒業。あたしたちが卒業することもその中に含まれてしまうんだろうな。たんなる、卒業。それだけ、
それでもあたしにとっては一大事なのだから



「あたしは、みんなと離れたくないよ」


「卒業して会えんくなるん違うんやで」


「それでも、」


「先生は名前ちゃんに卒業してもらいたいわ」





悪い虫も減るしなぁ、


なんのこと、と先生の顔を見ようと思ったがそれは頭から目に移った手によって遮られた。そんまま聞いて、とすぐそばで響く先生の声にぴくりと肩が震えた。





「先生なぁ、名前ちゃんが卒業したら聞いてほしいことがあるのや」


「な、に」


「ひーみつ。卒業してからの、お楽しみや」





なぁ、名前


離れた手の先にはいつもと変わらない市丸先生がいた。対して動揺を隠せないあたしは周りから見たら酷く滑稽だろう。





「な、名前……!」


「はて、なんのことやろなぁ」





はよ帰りやーと教室を出ていく市丸先生の背中を見ながら、先程「卒業したくないよー」と話していた友達には悪いが卒業が楽しみに、なってしまった。
卒業万歳!  ……?







卒業




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