「待ちくたびれたんだけど」

「は」





部室に来てすぐに幸村の不機嫌オーラを察知した。また赤也あたりがなんかしたんだろう、触らぬ神に祟りなしってやつだ。とさっさと準備をして部室を出ようとしたときに冒頭の言葉だ。はてなんのことやらと幸村を見ると怖いほどの笑顔はやはりあたしに向いていて、てか部室にはあたしと幸村しかいないから確実にあたしへの言葉なんだけど。待ちくたびれた?





「……」





時計を確認してみたが別に遅刻をしたわけではない。早めにくる約束をしていたわけでもないのだからあたしの頭には本格的に?が浮かびだした。





「え、待ちくたびれたってな「2日だよ。2日も待った」

「はい?」





はぁわかんねーのかよばかじゃねーのおまえ、みたいな見下した顔されてもわからないものはわからない。教えて頂けませんかすいませんごめんなさいと下手に出てみると、幸村はチッと舌打ちをして「チョコレート」と呟いた。





「は? チョコ?」

「いつになったらくれるわけ」

「いやなんで貰う気満々?」

「え、まさかくれないつもり?」





ほんっといい度胸してるよね、

にこりと笑う幸村の後ろには、確実に黒いなにかが渦巻いている。やばいこわいたすけて!





「今年は部活メンバーにはなしにしたの」





この大規模なテニス部の部員全員にチョコを配るということがどれだけ大変なのか去年経験してよくわかった。いや、配ることより作ることが大変だった。今年は忙しいこともあって、部活メンバーに作ることは諦めたのだ。





「蓮二にはあげたらしいね」





何故知っているんだ。
厄介だなぁと思いながらもう一度時計を見ると部活開始の時間が迫っていた。あー真田の怒鳴り声が聞こえる。





「蓮二は幼なじみだからでしょ」

「幼なじみにはあって彼氏には用意しないんだお前は」


「……は?」





今なんていった目の前の幸村精市は。
言っておくがあたしは幸村と付き合っていな「え、付き合ってないの?」





「……はぁぁぁ!?」

「……お前サイテイ」

「え、え?」





もういいよお前サイテイ、と部室を出ようとする幸村を止める。なんであたしが悪いみたいになってるんだ!? あたし間違ってないのに!
幸村はあたしを見下ろしてはぁ、と溜め息をついた。





「お前俺のこと好きでしょ?」

「! な、」





当たり前だという顔で言った幸村に唖然。確かにあたしはこの幸村がす、すき、だったりする、わけだけど。その思いを告げたことはない。何度か告白しようとしたが、できないまま。結局びびりなあたしは今の状況で落ち着いてしまっているのだ。





「俺もお前のことが好きだよ」

「……えぇ!?」





一瞬、言葉の意味が理解できなかった。驚いて幸村の顔を見つめると、告白してきたのはそっちなのによくあんなこと言えたよねと睨まれた。





「あ、あの」

「なに」

「あたしがいつ告白?」

「……は」





酷く顔を歪めた幸村はテニスバックから携帯を取り出すと、カチカチと操作してあたしに液晶を向けた。






「……ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「うるさい」

「ご、ごめ、ってなんで、これ」





幸村がさしだした携帯の画面は受信ボックスを開いていて、そこにあるのはあたしが何度も送ろうとしてやめた告白メールだった。何故、何故受信ボックスにあるんだ。急いで携帯を取り出し送信ボックスを開くと例のメール。送信完了のマークがしっかりついていた。





「う、嘘」

「俺ありがとうって言ったじゃん。だからそこで付き合ってるんだと思ってたのに」





酷いよね
そう言った幸村に記憶が戻ってきた。たしかにこのメールの送信日の次の日に幸村にありがとうと言われた。そのときはよくわからないままうんと答えたのだ。





「そ、そういうことか……て、じゃありょ、りょうおも、い!?」

「そうだよ。でも俺は名前から直接聞いてないよ」

「! あ、あの」

「なに」

「今日部活休んでもいいですか」

「なんで」

「チョコ、作りたいから」

「……」





幸村はきょとんとしてからふっと笑っていいよと言った。帰り道、今更ながら両想いという事実に口端が緩んだ。はやくチョコつくらないと!!








2月16日





好き、です!
ふふ、ありがとう。
な、なんか照れるね。
可愛いよ。
なっ!?
でもさ、なんでレギュラーにまでチョコつくってるわけ?
材料買い過ぎちゃったから、
へぇ……今日俺ん家来なよ。
? なんで?
お前が誰のものなのかじっくり教えてあげるから。
……なっ!?




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