鈍い鈍いと言われ続けてもそんなことはないと否定していた。でもこんかいのことでやっと自覚。自他共に認める鈍い馬鹿になってしまった。まったくもって嬉しくない。今更自分の鈍さを恨んでも何の意味もなく、ただただ自分の口から出た言葉を頭で繰り返す。

手遅れ。





「きらいだ」





そのときの真子の表情は、二年前に好きな人が出来たと告げたときのそれに酷似していた。あのときのように「へぇ」とすぐなんともない顔に戻って言われるかと思ったが、真子は何も言わなかった。ただ少し顔を歪めて、それだけ。





「だから、もういらない」

「、」

「幼なじみじゃなくていい」





鼻の奥がつんとして、奥歯を噛み締めた。こんなこと、思ってない。嫌いなわけないじゃない。いらないわけないじゃない。やっと好きだって気づいたのに、それと同時に振られるなんてホントに自分の鈍さが憎い。










「あいつ?あぁ名前か。あんなんのどこがええねん、ただお荷物なだけやで」





ただいつも通り真子と帰るために、真子の教室に迎えにきただけだった。
聞こえてきた真子の声に足をとめれば、自然と聞こえる会話。




「あんなんと幼なじみなんて、嬉しないわ。……はぁ?あんなぁ、俺はもっとかわえー子が好みなんじゃアホ」





別にいつも可愛くないだとか、うっといだとか言われてたから、なんともないはずだった。だけど心底嫌そうに「あんなんと幼なじみなんて嬉しないわ」と言った真子に気付いたらボロボロ涙をこぼして泣いていた。そこでやっと、あたしは真子が好きなんだと気付いた。ホントに手遅れ。今更。

気づかれなかったことをいいことに、そのまま一人で帰った。一緒に帰ったり、部屋に遊びに行ったり、親のいない日は夕飯を一緒に食べたり。今までしていたそういったことは、真子にとってはただの憂鬱な時間だったのだ。そう思うとまた泣けてきて、道のど真ん中でも構わずに嗚咽を漏らした。









「おいコラなに勝手に一人で帰っとんねん」





散々泣いて、部屋でベットに伏していたら真子が入ってきてあたしを蹴り一言。相変わらず足癖が悪い。





「……勝手に部屋入んな」





顔は見られたくなかった。きっと目が腫れているから。だから伏したまま消えそうなくらいの声で言った。正直真子に会いたくない。帰ってほしい。





「別にええやろ、幼なじみなんやから」





は、

お前が、幼なじみ嫌だっつったんだろ。





思わず顔を上げて真子を睨むと、真子はあたしの顔を見てはっとした顔をしてから眉を潜めた。





「お前、泣いたんか」

「真子には関係ない」

「関係ないことあらへんやろ」

「帰って」

「そないな顔したお前放っとけるかアホ」





くしゃり、と髪を撫でられる。意識していなかったときはなんともなかったこの行為も、今となっては苦しいだけ。こんなんじゃ、もっと好きになる、





ぱしん

乾いた音が部屋に響いた。手をはたかれた真子はきょとんとしていた。心臓がキリキリと痛み、息をのんだのは真子か、あたしか、





「きらいだ」

「だから、もういらない」

「幼なじみじゃなくていい」





嘘だよ、好きだよ、ばか。
これ以上苦しみたくないから、








「さよなら」



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