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 しまった4



許してしまった



「ぐっ、ぎゃぁああああ」

目の前で大男が死んだ。

その身を引き裂かれて
血を辺り一面に撒き散らして
絶叫を喚き散らして死んだ。

ちがう、殺された。
殺したのはあの少女だった。

冷たい風に空色の髪がなびく。

「お前…しゃべれたのか」
「うん」
「念も、使えるのか」
「うん」

少女の側にいつも居たぬいぐるみ。

それが巨大化していた。

大男を切り裂いたのも
そのぬいぐるみで
少女を守るように立っている。

少女は動かなくなった大男には
目もくれずにこちらへと歩いてきた。

「…わたしは、ちかよって来た人をいつも騙して奪って利用して殺してる」
「………」
「この人はお兄さんの前に騙してた人だよ」
「………」
「バレちゃったからいろいろ盗んで殺したんだけど、見つかっちゃって、隠れてたところでお兄さんに拾われたの」

ぽつり、ぽつり、としゃべる。

水色の髪に隠されていて
少女の表情は見えなかった。

悲しんでいるような
噛み締めているような
泣き出しそうなのは気のせいだろうか。

「しゃべれないふりは騙すため」
「………」
「なにもできない、か弱いこどものふり」
「………」
「そうすればみんな騙される」
「………」
「わたしは、わるくない」
「そうだな」
「…っお兄さんも殺すよ?いいの?」

ようやく少女が顔を上げて目が合う。
空色の瞳はゆらゆらと揺れていた。

(いまにも泣き出しそうだ)

少女はこうやって常に騙して
欺いて、裏切って、生きてきた。

それは本当に昔の自分と
同じで、一緒で、だからわかる。

(こいつが、自分が、欲しかったものは…)

一歩、少女へと近づく。
びくり、と小さな身体が震えた。

「俺はお前みたいな子供には殺られないぞ?」
「…そんなの、わからない!」
「それにお前は俺を殺さない」
「…っ」
「殺すならとっくにやっていたはずだ。機会はたくさんあった。でもお前は俺を殺さなかった。」
「……うる、さい」
「さっき男が現れたとき、俺を巻き込まないようにしただろ」
「…ちが、ちが、う」
「なんですぐに殺さなかった?」
「…って、だって」

ぽろぽろと、まるで雨のように
瞳からは涙が溢れていく。

少女は小さく小さく小さく
ようやく偽り無い、演技でもない
騙してもいない、本当の言葉で話した。

「だって、さみし、かった!つらかった!くるしかった!いたかった!いやだった!」
「………」
「おいしいごはんも、おふろも、てれびも、あったかい部屋も、ふかふかのふとんも、しあわせも…ほしい!」
「………」
「…もう、やだ、やだよぉ…」
「知ってる」

自分も絶望していた。
希望なんてなかった。

(いつ死んでもよかった)

「しにたかった!でも、でも、やっぱり…しにたく、ないっ…!」
「知ってる」

でも、諦めなかったのは
絶望しなかったのは
希望をみつけたのは

(俺には仲間が居た)

少女になくて、自分にあったもの。

「仲間にならないか?」
「…なか、ま?」

少女がその言葉に反応する。
赤く腫れた瞳でこちらを見つめる。

その瞳には絶望と希望が
ゆらゆらと、揺れ動いていた。

「そう。俺は幻影旅団、団長。クロロ=ルシルフル」
「げんえい、りょだん…」
「欲しいものは、奪う。それが俺たち、盗賊だ。」
「ほしい、もの…」
「なんでもだ」
「…なんでも?」
「そう。」
「わたし、わたし…!」
「わかってる。」
「…っ」

頭を軽く撫でてやれば
くしゃり、と顔を歪めた。

仮面を被っていない
年相応の本当の感情。表情。
小さな声で少女は泣き出した。

小さな身体にどれだけの思いと
どれだけの絶望を抱えていたのだろう。

「俺たち幻影旅団、蜘蛛はお前みたいな奴らの集まりだ」
「…っひっく、そうなの…?」
「ああ。戸籍もないし家も親も、居場所もない」
「…おんなじだね」
「そう。だからこれからは蜘蛛がお前の家で、家族で、居場所だ」
「…かぞく?」
「…いや、それはお前がまだ小さいから…そう思えってだけの話で…別に俺があいつらを家族だと思ってるわけではない」
「ふふふ、クロロ焦ってる」
「…うるさいぞ」

少女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を
ゴシゴシと乱暴にふいた。

そして、にっこりと笑う。

(これが、こいつの本当の顔か…)

いつの間にか絶望は消えていた。
朝日が昇ったあとのように
澄み渡る綺麗な空のような笑顔。

「わたしを、あなたの、仲間に、蜘蛛にいれてください」
「ああ、もちろん。歓迎する」



(あなただけがわたしを許してくれた)



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