ちょっとした気まぐれ。
あんまりにもヒソカがうるさいから。
キルアも天空闘技場に行ってて
暇だったからね。それだけ。
「ああ、ここか」
森の中にひっそりと佇むホテル。その前に男は立っていた。黒い髪、大きな黒い瞳。白い肌。人形のような男だった。
コンクリートは砕け窓ガラスも割れとてもホテルにはみえない。このホテルは念能力でそうみえるように幻覚、幻術のようなものがかけられている。
中に入ると中もひどく汚くガラスの破片が飛び散り悲惨だ。音も立てずに進んでいく。男はまるでそこに存在しないかのように気配が希薄だった。その瞳には感情というものが欠如している。
荒れ果てたカウンターの前で立ち止まる。何もないところにまるでなにかが置いてあったかのようにひょい、と持ち上げると音を鳴らすかのようにそれを振った。
―チリン…
「マスター、いる?」
「……なんだゾルディックの長男坊か」
手にはいつの間にかベルを持っている。それはマスターの念能力で具現化したベルだった。凝をしないとみえないものでそれを手にした、ということはお客だった。
カウンターの裏の部屋から白いヒゲが立派な老人がでてくる。
「ヒソカがここにいるって」
「あーなるほどな」
その言葉にマスターはうなずきながらご自慢のヒゲをなでる。
「いまいねえぞあいつ」
「仕事?」
「詳しくは知らん」
「そう。部屋どこ」
「…………」
そう言われてマスターは黙る。男は無表情だ。なにを考えているかわからない。
「…なにしにきた?」
「ん?マスターってそういうこと詮索する人だっけ」
「…ヒソカに頼まれてるからな」
「…ああ、例の拾いものね」
「!」
それだけのやりとりでそこまで思いつくのだから侮れない奴だ…と、マスターはため息をついた。
「だから殺すのは勘弁だ」
「そういうつもりできたんじゃないよ」
「……」
表情からはなにも伺えない。黒い瞳はマスターを捉えているがその頭ではなにを考えているか想像できない。
「そっちはついで。仕事のことでヒソカに用があるんだ。」
「…そうか。ならいいけどな。」
マスターは少々しぶったが部屋の鍵を渡した。男が受け取る。
「ヒソカが戻ってきたら俺がきたって言っておいて」
「ああ。」
そうとだけ言って階段へと向かう。その後ろ姿をみつめてマスターははあ、と小さくため息をついた。
「ゆあの場合殺される心配よりも、好かれる心配をしてしまうオレはどうなんだろうなあ」