くろあか | ナノ

 十二話 暗殺者の気まぐれ




ちょっとした気まぐれ。
あんまりにもヒソカがうるさいから。

キルアも天空闘技場に行ってて
暇だったからね。それだけ。




「ああ、ここか」

森の中にひっそりと佇むホテル。その前に男は立っていた。黒い髪、大きな黒い瞳。白い肌。人形のような男だった。

コンクリートは砕け窓ガラスも割れとてもホテルにはみえない。このホテルは念能力でそうみえるように幻覚、幻術のようなものがかけられている。

中に入ると中もひどく汚くガラスの破片が飛び散り悲惨だ。音も立てずに進んでいく。男はまるでそこに存在しないかのように気配が希薄だった。その瞳には感情というものが欠如している。

荒れ果てたカウンターの前で立ち止まる。何もないところにまるでなにかが置いてあったかのようにひょい、と持ち上げると音を鳴らすかのようにそれを振った。

―チリン…

「マスター、いる?」
「……なんだゾルディックの長男坊か」

手にはいつの間にかベルを持っている。それはマスターの念能力で具現化したベルだった。凝をしないとみえないものでそれを手にした、ということはお客だった。

カウンターの裏の部屋から白いヒゲが立派な老人がでてくる。

「ヒソカがここにいるって」
「あーなるほどな」

その言葉にマスターはうなずきながらご自慢のヒゲをなでる。

「いまいねえぞあいつ」
「仕事?」
「詳しくは知らん」
「そう。部屋どこ」
「…………」

そう言われてマスターは黙る。男は無表情だ。なにを考えているかわからない。

「…なにしにきた?」
「ん?マスターってそういうこと詮索する人だっけ」
「…ヒソカに頼まれてるからな」
「…ああ、例の拾いものね」
「!」

それだけのやりとりでそこまで思いつくのだから侮れない奴だ…と、マスターはため息をついた。

「だから殺すのは勘弁だ」
「そういうつもりできたんじゃないよ」
「……」

表情からはなにも伺えない。黒い瞳はマスターを捉えているがその頭ではなにを考えているか想像できない。

「そっちはついで。仕事のことでヒソカに用があるんだ。」
「…そうか。ならいいけどな。」

マスターは少々しぶったが部屋の鍵を渡した。男が受け取る。

「ヒソカが戻ってきたら俺がきたって言っておいて」
「ああ。」

そうとだけ言って階段へと向かう。その後ろ姿をみつめてマスターははあ、と小さくため息をついた。

「ゆあの場合殺される心配よりも、好かれる心配をしてしまうオレはどうなんだろうなあ」



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