くろあか | ナノ

 四十二話 すれ違い

交差する視線と
工作する思惑が相反する。




「くそ…逃げられたか…」

小さく舌打ちをしてクロロは立ち止まった。追いかけてみたがあっという間に姿も気配すら消えてしまっていた。ウボォーの姿をしていたから、油断してしまったのかその一瞬の隙をついて逃げられてしまった。

「(流石はゾルディック…といったところか)」

変装ではなく、完全に姿はウボォーに変わっていた。体格すら変えるほどの能力。さすがはゾルディック家、正面から殺り合わなくてよかったな。とため息を吐く。

さっきのフロアへと戻ってきた。爆発の衝撃かこのフロアの絵や美術品はすべてぐちゃぐちゃに原型もわからないほど壊れてしまっている。

(…すごいな)

爆音が響いた一瞬、ゾルディックの気がそれた瞬間に美術館へと向かった。あのままいればゾルディックが手を引くのは見えていたことだ。わざわざ危険だと分かっていても、それでも美術館へと向かったのはただの勘のようなものだ。何かがある、気になる、そんな好奇心。ゾルディックの口から出た名前。心当たりと何かが繋がりそうな感覚。

急いでその場所に向かうと小さな黒い格好をした子供(少年か少女かはわからなかった)がぽつん、と一人立ち尽くしているだけだった。マフラーで顔は隠れていたし顔も伏せていたのでよくは見えなかったが。

「(あの瞳は…気のせいか…?)」

こちらを振り返ったとき、一瞬だけ瞳が赤く輝いた気がした。ぞくり…と背筋が凍るような、殺気とはちがう、異質な雰囲気。

「(そういえば声を出さなかった…出せなかった?出すのはまずい状況だったのか?)」

いくつか質問をしてみたが首を振ったり頷いたりと声は出さなかった。何か理由があったのだろうか、と考える。

「(ゆあか?と聞いた瞬間、動揺していたように見えた…本人か、もしくは知り合いの可能性があるわけか…)」

答えを聞く前に邪魔されたので思っていたような回答は得られなかったが。破壊されたフロアーを見る。小型の爆弾でも炸裂したかのようにありとあらゆるものが壊れていた。

「(…死体か?)」

赤黒い肉片が落ちていて焼け焦げたような腐臭がしてそれが人間だったもの、と気がつく。下の階へと降りていけばさらに死体が二つ、転がっていた。

「(あいつが殺ったのか…)」

あれがゆあだとしたら
ゆあは確実に能力者だろう。

この状況を見るだけではいまいちわからないが、争ったような形成も少なくどちらの男も急所を一撃と見事な殺し方だ。それなりに腕はたつのかもしれない。

「(尚更興味が出てきたな…できれば仲間に入れたいが…)」

まだゆあだと決まったわけではないが明日、喫茶店へと押しかけるか…。などと死体を観察しながら考える。と、懐に入れていた携帯が鳴った。

―ピピピ… ピッ

「もしもし」
『あ、団長?!なんか屋上でウボォーが倒れてるんだけど!』
「ああ…心配するな、体の自由を奪う毒だそうだ」
『へ?…あ、ほんとだ寝てる』
「依頼主は幻影旅団を捕獲しろ、とでも依頼していたんだろう」
『ふーん。まあ、殺しちゃったけどね』
「そのおかげでゾルディックと殺り合わなくてすんだ」
『…えぇっ?!ゾルディック家?!団長そんなやばいもんと戦ったの?!』
「いや、話しがわかるやつだったからな。逃げられた、というか見逃したというか…この場合はどちら共不利な状況ではあったからな…フィンクス達の方は?」
『それがさーなんかすっごい強い変態が居るんだって』

思いもよらない言葉に思わず言葉に詰まる。

「…はあ?変態?」
『最近多発してた通り魔だか殺人狂らしいよ?』
「なんでそんなんが美術館に…ああ、なるほど仲間はもう一人居たってことか…」
『どうする?合流する?』
「とりあえずこっちは適当に盗んでずらかる。あいつらにもそう伝えておけ」
『了解〜』

それだけ伝えて電話を切る。予想外の事態があって驚いたがまあ…それも明日すべてわかることだ。

「絶対に、逃がさない…」



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